確かに俺は文官だが

パチェル

文字の大きさ
294 / 424
第4章

帰り道の夕焼けは目に眩しい13

しおりを挟む
 


「で、ヒノはこそこそ何をやってんの?」
「魔道具のスイッチ押しです。この間、洗礼に行ったものですから」


 最近のヒカリの流行は、魔道具のスイッチを押しに行くというものだ。
 例えば、朝一番に魔道具関連課へやってきて、保冷庫のスイッチを入れる。保温庫のスイッチも入れる。
 後は、各作業室へ行って、魔力が足りていなさそうな機器に魔力を充填していく。


 家でも同じだ。
 魔力が必要な機器に魔力を充填している。


 それほど大量の魔力がいるわけでもないから、ヒカリにもできる仕事で、何より。

「はっはーん。そりゃあ、嬉しいか。かっこいーセイリオスちゃんのお助けになるものなぁ」


 ダーナーがひどくおかしそうに両手を頭の後ろで組んで体を揺らして笑うので、同じソファに腰かけているセイリオスにも振動が伝わる。


 かっこいいかどうかは別として、そう、セイリオスは魔力に関しては役立たずなので、魔力が必要のないものばかり使っているし、研究もそういう方向が多い。


 また、家にあるがらくたもセイリオスが使えないものも数多くあるため、眠ったままのものも多いのだ。




 洗礼を受ける人は多かれ少なかれ、期待する。貴族ならなおのことだが。
 自分もあこがれのあの魔導士のように魔法が使えるのでは、と期待に胸を膨らませる。


 そしてセイリオスとスピカも、ヒカリの期待で膨らんだ胸が、これ以上ないくらい目一杯膨らんでいるのを知っていた。



 洗礼を行った後、教会では証明書を発行する。
 きちんと神官が確認しながら洗礼を行いましたというものだ。
 無許可で行っていないという証明になる。



 期待で胸を膨らませる子どもたちとは違い、大人の方はというとかなり神経を使うのだ。


 魔力が使えるようになるということは体が作り替わる、または急激に成長するとでもいえばいいのだろうか。
 要は、体に負担も多く、神官が許可を出して、そのうえで洗礼を確認しながら行うということは、安全と信頼が生まれる。


 魔力の多い人間を飼おうとする人間も多く、そういったときは魔力が多いかどうかわかる前に洗礼を誰にも知られずに行わせ、うまくいけば飼う、うまくいかなければ捨てるなんてことを行う輩もいる。


 だから、神官が管理しているのだ。
 そして、アフターケアも行う教会は洗礼を行った後、どのような魔力の適性があるかチェックしながら、魔力の使い方を教えてくれる。



 暴走せずに、少しずつ探って、そして証明書を発行してくれる。


 無許可の洗礼は暴走を起こしやすい傾向にあるのだが、教会のアフターケアを受けた場合は、その確率がぐんと減る。
 教会はそのため証明書を発行する。その若人が魔力をしっかり扱える一人前と証明するために。




 ヒカリも同じように教会で見てもらいながら、魔力を行使した。
 物質を生み出したり、物質を動かしたり。


 指先からたらたらと水を垂らしながら、ヒカリはとても興奮して「でた!」と大きな声で喜んだ。


 今現在わかっているのは人間の魔力では何かを生み出すことができる魔力と、何かに作用を及ぼす魔力とがあること。



 だから、最初にどのように魔法が使えるか自分で試してみて、鍛えたい人は指南書を買ったりどこかの誰かに師事したりして鍛える。

 スピカはアルキオーネに頼んで治癒を鍛えてもらった。それ以外の魔力の使用はケーティやダーナーだ。セイリオスはもっぱら制御ばかりだったが。



 スピカみたいに丸く変えるみたいなことは到底できていないが、ヒカリはたらたら出る水を見てはしゃいでいる。

「わ、わわ、え、なにこれ」


 自分の体の感覚が不思議なのだろう。むずむずすると体を少しくねらせる。


「ヒカリ、出しながら自分の体の感覚も覚えないとだめだぞ。魔力切れになったら動けなくなって、最悪死に至ることもあるからな」
「そうですね。そこらへんは講習でも聞きましたよね? しっかり、自分の能力を把握してコントロールしないとだめですよ」



 そういえばそうだったと興奮しているヒカリを、幼い子どもを見るようにスピカと神官が見ている。


 どれくらい使えば体が疲れるのか、それを見極めないといけない。
 お腹が空くような、めまいがあるような、手に力が入らないような、集中できないような。
 とりあえず、疲れたよというサインを自分で見つけないといけないのだ。



 言われるがままにヒカリが次々試していく。


 風はほんのちょっと起きた。それはもうほんと、指を動かしたらできるくらいの風。
 水を氷にするのもできた。ほんと、雪ひとかけらくらい。
 火と雷は全くできなかった。


 物を動かすのは砂一粒くらいなら動いた。


「疲れはどうだ?」
「うぅむ? あんまり、よく、わからない、か、な?」


 手をぐっぱぐっぱしてみるも特に震えとかもないようで首をひねる。神官がそれを見て紙に何か書き込む。



「適性がないか、魔力が少ないかのどちらか、かと思ったのですが。ほかのものも試してみましょうか」
「じゃあ、ちゆ、は?」
「治癒なぁ。あの、俺王城で医者やってるんで、試してみてもいいでしょうか?」
「そうですね。それなら構いませんよ」



 スピカがヒカリの正面に座って両手をつなぐ。


「治癒とか、ちょっと特殊な魔法はな、一人で試そうとすると危ないんだ。暴走する確率も高いし、制御も難しくてな。治癒なんか最悪、生命力を奪ってしまうこともあるから。ホイホイ、試していいもんじゃない」
「そうだたの?」


 そんな危険なものをホイホイやってしまっている人が目の前にいることに驚いているのに、スピカは余裕そうに笑う。


「でもな、その魔力を使用している人物がついているとコントロールしやすいんだ。さらに俺は指導資格も取ってるから、学院でも教えることができるし、スタンの教育係なのもそれでなんだよ」
「わぁ! スピカは先生なんだっ。すごいっ」
「まぁな、もっと褒めたまえ」
「すごーい、かこいい、すてきー、えと、うんと、すきー」



 誉め言葉の語彙が少ないからか最後は褒めてんのかそれみたいなセリフで、嬉しそうにふへへと笑っている。



 



しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

処理中です...