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第4章
帰り道の夕焼けは目に眩しい13
しおりを挟む「で、ヒノはこそこそ何をやってんの?」
「魔道具のスイッチ押しです。この間、洗礼に行ったものですから」
最近のヒカリの流行は、魔道具のスイッチを押しに行くというものだ。
例えば、朝一番に魔道具関連課へやってきて、保冷庫のスイッチを入れる。保温庫のスイッチも入れる。
後は、各作業室へ行って、魔力が足りていなさそうな機器に魔力を充填していく。
家でも同じだ。
魔力が必要な機器に魔力を充填している。
それほど大量の魔力がいるわけでもないから、ヒカリにもできる仕事で、何より。
「はっはーん。そりゃあ、嬉しいか。かっこいーセイリオスちゃんのお助けになるものなぁ」
ダーナーがひどくおかしそうに両手を頭の後ろで組んで体を揺らして笑うので、同じソファに腰かけているセイリオスにも振動が伝わる。
かっこいいかどうかは別として、そう、セイリオスは魔力に関しては役立たずなので、魔力が必要のないものばかり使っているし、研究もそういう方向が多い。
また、家にあるがらくたもセイリオスが使えないものも数多くあるため、眠ったままのものも多いのだ。
洗礼を受ける人は多かれ少なかれ、期待する。貴族ならなおのことだが。
自分もあこがれのあの魔導士のように魔法が使えるのでは、と期待に胸を膨らませる。
そしてセイリオスとスピカも、ヒカリの期待で膨らんだ胸が、これ以上ないくらい目一杯膨らんでいるのを知っていた。
洗礼を行った後、教会では証明書を発行する。
きちんと神官が確認しながら洗礼を行いましたというものだ。
無許可で行っていないという証明になる。
期待で胸を膨らませる子どもたちとは違い、大人の方はというとかなり神経を使うのだ。
魔力が使えるようになるということは体が作り替わる、または急激に成長するとでもいえばいいのだろうか。
要は、体に負担も多く、神官が許可を出して、そのうえで洗礼を確認しながら行うということは、安全と信頼が生まれる。
魔力の多い人間を飼おうとする人間も多く、そういったときは魔力が多いかどうかわかる前に洗礼を誰にも知られずに行わせ、うまくいけば飼う、うまくいかなければ捨てるなんてことを行う輩もいる。
だから、神官が管理しているのだ。
そして、アフターケアも行う教会は洗礼を行った後、どのような魔力の適性があるかチェックしながら、魔力の使い方を教えてくれる。
暴走せずに、少しずつ探って、そして証明書を発行してくれる。
無許可の洗礼は暴走を起こしやすい傾向にあるのだが、教会のアフターケアを受けた場合は、その確率がぐんと減る。
教会はそのため証明書を発行する。その若人が魔力をしっかり扱える一人前と証明するために。
ヒカリも同じように教会で見てもらいながら、魔力を行使した。
物質を生み出したり、物質を動かしたり。
指先からたらたらと水を垂らしながら、ヒカリはとても興奮して「でた!」と大きな声で喜んだ。
今現在わかっているのは人間の魔力では何かを生み出すことができる魔力と、何かに作用を及ぼす魔力とがあること。
だから、最初にどのように魔法が使えるか自分で試してみて、鍛えたい人は指南書を買ったりどこかの誰かに師事したりして鍛える。
スピカはアルキオーネに頼んで治癒を鍛えてもらった。それ以外の魔力の使用はケーティやダーナーだ。セイリオスはもっぱら制御ばかりだったが。
スピカみたいに丸く変えるみたいなことは到底できていないが、ヒカリはたらたら出る水を見てはしゃいでいる。
「わ、わわ、え、なにこれ」
自分の体の感覚が不思議なのだろう。むずむずすると体を少しくねらせる。
「ヒカリ、出しながら自分の体の感覚も覚えないとだめだぞ。魔力切れになったら動けなくなって、最悪死に至ることもあるからな」
「そうですね。そこらへんは講習でも聞きましたよね? しっかり、自分の能力を把握してコントロールしないとだめですよ」
そういえばそうだったと興奮しているヒカリを、幼い子どもを見るようにスピカと神官が見ている。
どれくらい使えば体が疲れるのか、それを見極めないといけない。
お腹が空くような、めまいがあるような、手に力が入らないような、集中できないような。
とりあえず、疲れたよというサインを自分で見つけないといけないのだ。
言われるがままにヒカリが次々試していく。
風はほんのちょっと起きた。それはもうほんと、指を動かしたらできるくらいの風。
水を氷にするのもできた。ほんと、雪ひとかけらくらい。
火と雷は全くできなかった。
物を動かすのは砂一粒くらいなら動いた。
「疲れはどうだ?」
「うぅむ? あんまり、よく、わからない、か、な?」
手をぐっぱぐっぱしてみるも特に震えとかもないようで首をひねる。神官がそれを見て紙に何か書き込む。
「適性がないか、魔力が少ないかのどちらか、かと思ったのですが。ほかのものも試してみましょうか」
「じゃあ、ちゆ、は?」
「治癒なぁ。あの、俺王城で医者やってるんで、試してみてもいいでしょうか?」
「そうですね。それなら構いませんよ」
スピカがヒカリの正面に座って両手をつなぐ。
「治癒とか、ちょっと特殊な魔法はな、一人で試そうとすると危ないんだ。暴走する確率も高いし、制御も難しくてな。治癒なんか最悪、生命力を奪ってしまうこともあるから。ホイホイ、試していいもんじゃない」
「そうだたの?」
そんな危険なものをホイホイやってしまっている人が目の前にいることに驚いているのに、スピカは余裕そうに笑う。
「でもな、その魔力を使用している人物がついているとコントロールしやすいんだ。さらに俺は指導資格も取ってるから、学院でも教えることができるし、スタンの教育係なのもそれでなんだよ」
「わぁ! スピカは先生なんだっ。すごいっ」
「まぁな、もっと褒めたまえ」
「すごーい、かこいい、すてきー、えと、うんと、すきー」
誉め言葉の語彙が少ないからか最後は褒めてんのかそれみたいなセリフで、嬉しそうにふへへと笑っている。
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