確かに俺は文官だが

パチェル

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第4章

それ以上でも、それ以下でもない24

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 ヒカリは目の前の馬車に一人で乗った。

 初めて一人で乗る馬車は少し緊張する。お腹の底がもぞもぞしてきた。よく一緒になるおじさんが乗っていて、今日も帽子を深くかぶっていたのに目が合ったので手を振ると、驚いていたが手を振り返してくれた。



 そして周りをきょろきょろ見回して、心配そうな顔でヒカリを見た。


 もしかしてこのおじさんもヒカリのことを子どもと思っているのだろうかと少し複雑な気持ちで座席に座り、全然一人でも大丈夫なんですよ。平気ですよ。もうこんなの慣れたもんですよと大人しく座っていた。
 いつもなら外の景色を見るのだけど、我慢して前を見ておくことにすると、おじさんも気にしなくなったのか新聞を広げて読み始めた。


 ちらりと外を見ると、楽し気に歩く人、忙しそうに先に進む人。
 腕を組んで歩く恋人たち。


 パッと前を向く。

 ふと思った。手は繋ぐけど、腕は組まない。ちびだからな。あんまり似合わないのかも。
 大きくなりたいなぁと馬車に揺られてついた広場で気合を入れる。



 広場には今日もそこそこの人がごった返していた。
 ここに来ると他国からの人をよく見る。観光がてら寄る人もいれば、出店を出している人もいる。だから、ヒカリが一人でぶらぶらしていてもちらりと見るだけで気にする人もいない。
 それくらい人がいるともいえる。


 いかんいかん! 本日はブラブラしに来たのではなくて目的があって来たのだと意識を切り替えた。

 一番端っこになると少し人の多さは減る。
 だから、ここを抜けるのが一番の難関ともいえる。敵に立ち向かうがごとく人波を避けてなるべく歩きやすい道を行く。出店の周辺はやはり人が多いので少し除ける。広場の隅の方へ行く流れを掴まないと永に目的地へ着けないなんてこともあるかも。

 ヒカリはこの世界の人の平均身長よりかなり小さい。だから、人波を避けるのも一苦労なんだとフィルと出歩いて知ったことだ。



 目的の店を見つけてすぐに駆け寄る。

「てんちょうさーん!」

「おー、こんにちはー。今日はちょっと人出が多いね。道に迷わなかったかい?」
「へへへ、だいじょぶでした。きょうもさがしていいですか?」
「いいよー。好きなだけ見ていって。見るのはタダだからね」
「ありがとーございます」


 早速、棚の上の瓶に腕を伸ばして一つを手に取る。
 それを手の中で回転させながら外側から見てみる。この店は商品を屋台で引っ張てきて、手前に屋台でお店を開き、その後ろにテントを張って棚とかを並べて商品をいくつも置いている。
 日差しがさえぎられて涼しいのだが、少し暗い。


 だからヒカリは麦わら帽子を脱いで、リュックに紐でくっ付けた。

 角ばってごつごつしていたり、ちょと丸みはあるものの扁平だったり、赤や青や緑や透明、沢山の石が詰まった瓶をヒカリは手に取り、近くのお皿の上にザッと中身を取り出した。



 後はピンセットでコロコロ転がして目的の石がないか探すだけである。

 その間、店主は全然こちらを見ていないので少しばかり不用心ではないかと聞いてみたら、こう返事が来た。


「え、なに、君盗むつもりだったのかい? そうは見えなかったから、信用しちゃったよ。ふふふ、冗談さ。さぁさぁ、度胸があるなら1瓶くらい持って帰っちゃってもいいよ」


 と余裕の顔で笑われてしまった。確かにヒカリにはそんな度胸はないし、それをお見通しだったという事なのだろう。



 一瓶コロコロし終えると瓶に戻して、次の瓶、またコロコロと探しての繰り返し。コロコロして一時間ほどたってもヒカリは変わらずコロコロしていた。

「あっ」



 キラキラ光る石たちの中から一つだけ、光をすべて反射するような、もしくは吸収しようとしているようなヒカリの親指の爪ほどの小さい黒い石がこちらに存在を伝えてきた。


 滑らかな表面を指でサリッと撫でる。丸くも四角くもない。見た目に反してちょっと軽く感じる。
 たった一時間で、見つけられるなんてなんてラッキーなんだ!


 ヒカリは急いでその石だけをトレイに載せて、他を元通り瓶に詰めていく。

「てんちょうさん! これください!」
「はい。どうやら見つかったようだね。魔よけの石か。ご利益があるように祈っておくよ」
「はい。これ、誕生日プレゼントに、わたすんです。だから、ごりやくがあるとうれしいです」
「そうか。はい、じゃあ、いい話も聞いたしおまけしてこの石もあげよう」


 店主が机の引き出しから、一粒石を取り出す。半透明の炎が燃えるような色合いの丸い石。


「わあ」
「これにもご利益があるよ。これは君が持っておきなさい」
「どんなごりやくがありますか」
「君に必要なものだよ、きっと」

 また、お礼を言って料金を払ったヒカリは近くの縁石の上に座り、太陽の光の下で二つの石を眺める。
 時々光に照らしたり、手のひらの上でコロコロしたりして眺める。



 店主はそれを自分の店から時々眺めて笑う。


 一生懸命、誕生日プレゼントに魔よけの石をあげようとしている少年は友達に探している石の色を伝えず、一人で探していた。


 勝手におせっかいをしたくなった。

 石にはそれぞれ意味がある。誰がつけたかわからないけれど、そうやって過去の誰かからの応援を真に受けるのもいいだろう。

 あの石には告白する勇気を後押しする効果があるそうだ。
 さて、次に会う時には恋人と一緒に訪れてくれるといいのだが。



 てんちょうさーんと不思議な呼び方で自分を呼ぶ少年。


 この店は鉱物を主に取り扱っている、趣味でやっているような出店である。自分の店はもう息子夫婦に任せて自分は悠々自適の生活である。徳に儲けも気にしないので客が来なくてもいい。


 そして今日も趣味のお節介を焼くのが生きがいで、あの少年のはにかむ笑顔を見て未来を想像する。そうして本日も趣味にいそしむのであった。





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