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第4章
それ以上でも、それ以下でもない29
しおりを挟む兄ちゃんだったらどうやって切り抜けるかな。
そもそも、こんなことにはならないか。大事な人に心配かける馬鹿じゃないもんな。迂闊だったのだ。すべては自分の招いたことなのだろう。だって、この人はヒカリに用があるのだから。
今はどうやってここを切り抜けるか考えないと、たぶん、この腕の中からは抜け出せやしないだろうなというのはわかる。すでに肉体的に痛めつけられた後だ。力の差はとても大きい。素早さだって、たぶん冷静さもあっちの方が上だ。
こんなことしているのにこの人ちっとも変わらない。
そりゃ、腰のものも大きくしているから興奮はしているのだろうけど、この人もある意味ヒカリと一緒なのだ。
目的のためにやっている。だから、ヒカリが声を出して質問に答えたらこの行為は終わる。
うわあ、すっごい不毛な行為だな。
何にも生み出さない。時間の無駄じゃないのかな。
やはりここは体力温存だろうか。何か呪術がどうのって言っているから、ヒカリが声を出せないのはそれのせいなのだろう。
勝手に体が熱くなっても、それと比例するように心は冷たくなる。
トラウマでフラッシュバックが起きない。それの理由はなんとなくわかる。拷問を受けている自分にはいつも耐えるべき目的がある。あの頃は帰りたい一心で、今は口を割りたくない一心で。
その目的が自分の唯一のよりどころだから。
声が出せなくなって好都合だ。そうそう、記憶も消してもらえるしむしろラッキーかも。
「あの時は慣れていなさそうだったが、今はそうでもないか。……なぁ、お前。指名客が多かったと聞いたがどうやってつなぎとめてたんだ? 甘えたか? 媚びたか?」
何も情報を話さないと思ったからか、ヒカリを揺さぶるような言葉がけになってきた。聞きたくないのに男の声は低く、ヒカリの鼓膜を揺さぶる。
「まあ、お前にはわからないだろうな。教えておいてやるよ。お前の中は具合がいい。だから、変なのに目を付けられるんだ」
ぐあいがいい? 聞き返そうとして、はっとする。無視無視。
「つれないな。お前の中はきっと熱く歓迎するのに。どっちが本音だ?」
ぐっと力を入れてこわばっていた双丘の間を、ズボンの上から回すように撫でられて緊張する。
「力の抜き方は覚えなかったのか。そうしないと後が辛いが、痛い方が好みだったらそうしてやろうか」
少し笑って、ヒカリのシャツのボタンがすべて外された。背中を撫でられ、鳥肌が立つけどそれだけ。
相手の手のひらが背中を撫でて少し止まった。
そして指先に少し力を込めて、確かめていくようになぞる。
声が出ていたらやめてと言っただろう。でも、出ないから身を捩って抵抗してしまった。
そこは触れられたくないと思ったのだ。ヒカリの体に残る傷跡は触れられたくない。
正確に言えば、あんたには触れられたくない、だ。
ヒカリの指が勝手に、相手の胸のむき出しの部分をひっかいてしまった。
あぁ、抵抗してしまった。抵抗したらこれから先のことがひどくなるのはわかりきっているのに。従順な方が体力も残って逃げやすくなると思っているのに、嫌だった。
全然賢くなんて動けやしない。
考えたいのに心が勝手に叫ぶ。勝手に呼ぶ。会いたい人の名前を。
よかった声が出なくて。よかった。
ぐいっと背中に両手を入れられて、相手の体にのしかかるように抱きかかえられ、起き上げさせられる。ポスっと相手の肉厚な体の中にすっぽりと入ってしまい、なぜか浮かんだのはこれじゃないだった。
これじゃないよ。同じ筋肉なのに全然違うよ。ふれあう肌が違う。
レオニスの目線が背中に注がれているのがわかって、涙が出そうになった。見てすらほしくない。
「あの後、何があった?」
今までと違う質問にヒカリも少し戻ってきた。あの後って? あなたとこういうことした後? それを聞いてどうするのだろうか。そこに何がある?
ヒカリの背中の傷跡をたどる指がとてもゆっくりで、ヒカリは身を縮こまらせる。
しかしレオニスは何かを振り切るようにまた行為を開始した。シャツを全部脱がして、自分でとがらせた胸に吸い付く。
「お前、今も体を売っているのか」
そう言ってヒカリの顔を見て、ズボンごと下着を脱がされた。臀部に手が添えられ揉むように力が加わる。自由な足でベッドを蹴っても大した抵抗ではないと言いたいのか、胸から唇を離し、ヒカリの唇をまた奪った。
「あの家で、どんな仕事をしているんだ?」
少し酸欠になったヒカリは回らぬ頭で、ぼんやり考える。どんなって、ご飯作って、お皿洗って、洗濯して、掃除して、仕事しに出かけて、たまに遊んで、訓練させてもらって、勉強させてもらって。仕事っていうか生活をしているだけ。
きっと何かしらのうわさを聞いたか、今までのヒカリの経歴でも見てそう考えたのだろうか。
別にこの人に何て言われようとも気にならない。誰にでもなく独り笑う。それを見てどう思ったのか少し厳めしい表情でヒカリの目を見てくるのがとても不愉快だった。
「……っ!」
ぬるりとした棒状のものが体の中に入って、体がこわばる。指がこわばって、脳みそのなかがゾワリとして、すぐに声が聞こえる。
息をしろ、ヒカリ。俺の真似をして。
ほら、大丈夫。ヒカリはここにいるよ。
苦しいな。もうちょっとだぞ。
なんで、ふたりじゃないんだろう。
二人がしてくれたたくさんのことって、すごい贅沢な事だったんだな。
意識がふわふわしながら戻ってくると、また、何か言っていたのか、いつの間にか体の中に指が入ってきていた。
「今回は媚薬入りのものがなかったから、ただの浄化棒だからな」
だから何だと言うのか。縋る物がなくて息が苦しい。でも媚薬が入ってなくてよかった。たぶん、媚薬入りだったらここに戻って来れていないかもしれない。スピカに言わなくちゃいけなくなるところだった。
「だから、今からお前がどれだけ乱れようとも薬のせいでも何でもない。お前自身の感覚だ」
そうやって着実にヒカリの嫌なことを言ってくるのが腹が立つ。
こんな事だったらずっと不健康でよかったのにと少し罰当たりなことを思った。
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