確かに俺は文官だが

パチェル

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第5章

前途多難なことが多すぎるが、それでもやるつもりです7

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 ヒカリの口のなかをまるで勝手知ったる場所のようにセイリオスの舌が動き回る。歯の裏側だって、上顎だって、頬の内側だってセイリオスの厚くて長い舌が愛撫する。
 そのうち快感にしびれたヒカリの舌を捕まえて絡む。


 力が入らないヒカリはセイリオスに支えられていつの間にか上向きに口付けされていた。少しずつセイリオスの唾液が流れてきて、こくんと飲み込んでしまう。



「ヒカリ、舌、出して」

 ぼんやりした耳にそれが聞こえて震える自分の舌をちょろりと出せば、セイリオスが片方の口元をあげて笑う。でも
 眉毛だけは困ったように八の字で。



「頼むからもっと用心してくれ」


 出した舌はそのままセイリオスの口の中に入って、吸われる。



 びりびりして頭が真っ白になったヒカリはそのまま力の入らない体をそっと離されて、ふらりと後ろに倒れる。

 それをスピカが支えた。


「これくらいのキスができるようになってから、沢山してきたって言ってもらっていいか?」




 セイリオスが上からそう言って、少し濡れた唇で言う。
 口全部がじんじんして、ちゃんとした言葉が出せない。


「はっへ」
「だっても、でももない。覚えておいてくれ。俺はヒカリを抱きたいよ。愛しているから。でも、そんな顔で抱いてくれって言うヒカリを抱くほど愛におぼれているわけじゃない。大人のキスとやらの練習はスピカとしてくれ、俺はこれ以上我慢できる自信はない」
「へいりふぉふ……」



 ヒカリが少し泣きそうになっているのを見てセイリオスは大きく息を吐いて、口を拭った。

「俺はヒカリが自分を大切にしないことに怒っていて、そんなことを言わせた俺にも腹が立っている。大人げないのもわかっているし、俺の力不足を痛感している。一杯してきたことがあるから抱かれても平気? 帰る場所がなくなったから、故郷のことを考えても仕方がないから抱いてくれ? 帰れなくなっても今まで生きてきた全部でヒカリはヒカリなんだよ。抱きしめあいたいからするもんだろう? ヒカリのセックスは。愛があふれるからするもんだろう? 少なくとも俺とヒカリの間のセックスはそうであってほしい。俺の愛を舐めてくれるな」

「ごめ」
「ごめんも大丈夫も平気もいらない。愛しているからエッチしたいって言わせるから。待っててくれ。ちょっと頭冷やしてくる。スピカ、後は任せた」



 セイリオスはフッと優しそうに笑ってヒカリの部屋から出ていった。呆然としているヒカリの肩をスピカが叩く。



「ヒカリ、気にするな。あいつ、頭冷やすとか言って、今、抜きに行ってるだけじゃない? 10歳も下の男の子の喧嘩を買うなんて大人げないなー」
「ぬく?」
「ヒカリとのキスが気持ちよくてうれしくて勃起したんでしょ。愛している人との濃厚なキスだったからなー」


 そう言われてヒカリは熱が一気に顔に上がる。それを嬉しそうに目を細めて頬を撫でる。



「ま、任されたし。キスの特訓は俺としようかヒカリ? ヒカリは一人しかいないんだから愛は平等に分け与えてくれよ」



 そうして余韻が残っている唇にスピカが口付けた。
 それだけでジンとしびれてしまって口から意味のない音が出る。


 ちゅっちゅと唇だけを合わせて角度を変えて呼吸に合わせるようについばみ、時々じゅっと吸われる。



 向かい合わせになってスピカが額と額をくっつけて唇の上で笑う。


「にしても、俺にだってこれは生き地獄みたいなもんだけど、キスだけで留めて置ける限界ってもんがあるだろうが」と内心セイリオスに怒り心頭だった。が、目の前のヒカリは確かにこれ以上刺激が強いものは受け付けられるかも心配であったのは本当だ。




 ここまで敏感で快楽に弱いって、そりゃほかのあほ、くそ、いや、ごみ、ちり芥、の面々がメロメロにもなるだろうなと笑ってしまった。



 そんな屑どもの相手をさせられていたのに、いっぱいしてきただって? そんなの忘れるくらい愛してやるに決まっている。
 迷い躊躇うこともないくらい好きを溢れさせて、えっちしてって言わせてやろう。





 それにああ見えてセイリオスはロマンチストなのだ。本人は認めないけれど。
 恋人同士になって初めては誕生日にとでも考えていたのだろう。


 あいつにとって初めてできた恋人なんだから浮かれたっていいだろうに。何を寸止めして。
 あいつもしかしては耐えるのが好きとかそういう性癖でもあるのかと疑われても仕方がない。


 あいつがこのままこの状況を置いておくわけはない。次は何をする気なのか。



 目の前にとろりと瞳を潤ませるヒカリを見る。こんな表情を見てよく止まれるよな。十分愛におぼれてると言ってもいいと思うけど。
 まあ、俺もか。




「ヒカリ、口開けて?」
「ほぅ?」
「かわいい」



 唇を唇で挟んで、スピカがハムハムとヒカリの唇を食べる。時々舌とか歯が当たって違う感触にビクビクする。

 スピカの手はヒカリの色んな所を優しく撫でる。頭から耳、耳から首筋、首筋から背中、背中から腰。
 腰からお尻に行ったけれど、すぐにもどって肩甲骨を撫でる。




 その間もヒカリが呼吸できるように時々離れて、またキスをする。
 ちゅっちゅという音の時もあれば、濡れた音もする。


 ぎゅっとスピカの胸元の布を握ると、スピカがフッと笑った。


「おぅ……その顔は反則だわ。俺もヒカリとのえっちで鼻血出さないように特訓したいから、いっぱいキスしような。こっちはきつくない?」


 スピカが指さす先をぼんやりした目で見ると、自分のズボンが膨らんでいる。

「……濡れていて気持ち悪かったら、服、着替える? 何? 恥ずかしいの? 好きな人とキスしたら誰でもそうなるから。はいはい、俺のを見ない。俺のは見られたら余計興奮するたちだから、見たらかわいそうでしょ。ヒカリが見るから寝転ぼうっと」
「見て、ないよっ」
「どうだか。だってエッチしたいって、さっき言ってたのはどこの誰だっけ?」



 そう言うスピカは余裕そうな顔でくすりと笑う。


「んで、ヒカリはえっちしたいの前に言いたいことあるでしょう。それちゃんと言おうか」




 それをぼんやりした頭で見たヒカリはこれは確かに特訓したほうがいいかもと、先ほど迄の陰鬱とした気分はどこかへ去っていた。クイッと引っ張られたので大人しくスピカの横に寝転ぶ。




「俺もちょっと落ち着きたいから、ゆっくりでいいからヒカリの考えていること話して」


 そう言って、スピカは手を月明かりにかざしたり、徐に机の上に置いてあったヒカリの落書きした紙を手に取って眺めている。


「あのね、スピカ。ぼくここに、いる、よね?」
「ん? ここに? ちょっと待ってなー。いるかなあ?」

 スピカが目をつむりながらごそごそとヒカリを探して、撫でる。さっきの熱がまだ少し残っているのでこしょばいけれど、離れたくなくて少し小さくなってくっつく。

「ヒカリ―?」
「はーい」
「ああ、いるなあ。いるよ。なに? 怖くなったの」


 スピカが撫でていた手をがばっと大きく広げてヒカリを抱きしめる。
 そう恐くなった。だから、スピカの腕の中でぽつぽつと怖くなったことを話した。


 スピカは時々、「そう」「ふうん」「あー、なるほどね」とか相槌を打つだけで、ぎゅっとした腕を一ミリも緩めることなく聞いてくれた。




「自分が突然、考えてもなかった存在って言われて、来た道が呪術って言われたらそりゃそうだよな。怖いよなあ」
「あ、あしたにも、とつぜん消えちゃいそうで」
「そりゃあ、怖いなあ……。でもさ、ヒカリがさ、たとえ何であってもさ、ここにこうして存在しているのは事実じゃないの? ほら、あったかい」


 ヒカリの胸にヒカリの額がぎゅっと押し付けられる。

「ヒカリはいるよ。もう俺の心の中に住み着いてるから消えないよ。それにさ、おとぎ話のようにヒカリが花の精だって言われても、落ちてきた星だって言われても俺は何度だってヒカリに愛を希うよ」




 スピカは腕の中に捕らわれた大人しいヒカリに好き放題にちゅうをする。

「ここに考えて感じて笑って泣いて、俺を愛しているヒカリという存在がいることは疑いようのない事実だよ。何回ヒカリの体をスキャンしたと思っているんだか。医学的見解から言ってもヒカリはいるよ。怖くなったら何度でも聞いて、その不安は俺が論破してあげるから。俺がいるって言ってんだからいるよ」





 とくとくと聞こえるスピカの心臓の音が眠ってからもずっとしていたと思う。




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