確かに俺は文官だが

パチェル

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第5章

前途多難なことが多すぎるが、それでもやるつもりです 27

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 レオニスが地面に座り込み両手を後頭部につけて地面に伏せた。
 完全に降伏すると言う意志表示だろう。


 それに遠くから拘束する魔道具を投げつけられぐッちゃぐっちゃに絡まれたレオニスは、とっとと捕まえろと動かない。

「なんだこれは……」

 と絡まれたものを凝視しているくらいで、その四肢に力を入れようともしていない。むしろ少し笑ってもいる。




 それを見てセイリオスは感じていた。
 レオニスから気持ち悪い執着が見えない。



 終始周りを観察しているようだった。特にセイリオスに向けている目は「使えるか、使えないか」そう言った視線が向けられていた。


 敢えて人を怒らせようとああいった言葉を使ってきていたのも、今までと違う。
 今までヒカリを狙っていたものとは全く違うものだった。


 セイリオスに対しても終始、まるで試すかのような対応があり、そこにかすかに感じられるのは面白いと、からかうような感情。
 楽しさも、怖さも、何かの後ろにしかない。そういう感情しか感じられなかった


 ただ、ヒカリに対して呆れていたのだけ、それだけは表にそれ一枚で出てきていたように思えた。



 ああ、そうか。ヒカリに対してだけ、一枚剥がれていたというところか。





 背中を叩かれて振り向けばスピカが来ていた。ヒカリは遠くから心配そうにこちらを見ている。

「どう? 魔力の方は?」
「ああ、不自由ない」
「そうか、ヒカリが暴走しそうだったら呼んでね! って言ってたから」
「そうか。大丈夫だ。それよりそろそろ冷えてきたから、ヒカリに何か羽織るものを渡したほうがいい気もするが」
「我慢してないかって」

 そう聞いてくる言葉がスピカらしくなく、怪訝な表情をしてしまうとスピカが眉を複雑な形にしてこちらを睨む。

「気持ち悪いって顔すんじゃねえよ。ヒカリが大丈夫って言ったら念のためそう聞けっていうから伝言伝えただけだわ」
「すまん、お前だったら無理してたらしばくぞくらい言うから」
「当たり前だろう。無理してたらしばくからな。ヒカリが恥を忍んで聞いているのに、その思い無碍にしたらぶっ飛ばす」
「本当にすこぶる平気だ。傷もない。派手に見えたかもしれないがそこまで使用もしていない。相殺するのに使っただけだ。お前なら見てたからわかるだろう」
「あほか、ずっとお前だけ見てるわけないだろうが。ヒカリでもあるまいし」


 ぶつぶつ文句を垂れていたスピカは、ケーティに呼ばれていった。
 ちょっと実験したいんだけど―。と不穏な言葉が聞こえたがセイリオスは聞こえないふりをした。


 夕暮れを少し過ぎて、足元も泥濘まくり、目を凝らさなければ見えない森の中。

 レオニスの意識が落とされ運ばれていく。レオニスが動かなくなれば他も同様、紐のキレた操り人形のように落ちていくのをデルタミラの私兵が片付けていった。


「恩恵にあずかった、か」

 セイリオスは自分の手のひらに小さな光の玉を出現させて、消した。



 時間制限付きの、制御でき放出できる魔力。



 ヒカリはセイリオスが長年悩んできた魔力暴走を治そうとしている。
 だから今も、スピカに抱えられながらこちらを心配そうに見ている。






 セイリオスの体は硬い。
 スピカの筋肉はそれなりに柔らかいが、セイリオスはいたるところが鋼でできていると思ってもいいだろう。


 それは偏に魔力暴走を抑えてきた結果でもある。
 魔力と生命力は相互互換するものだ。
 生命力が消えそうならば魔力が補完し、魔力がなくなれば生命力が補完することもある。


 そのどちらもが消えた時、人は死に至る。

 魔力を多く持つ人間が他より丈夫であったりするのは、そこにも理由があると言われている。


 では、魔力暴走を起こしてしまう体では何が起きるかと言うと、そのエネルギーを生命力へと変換することができた。
 体の器官がうまく育たなかったため、外へ放出すると上限を超えた魔力が放出される。それは生命力をも変換し放出することもあった。
 セイリオスは人が通常、本能的に抑えられる上限を軽々と越えてしまう魔力しか出せない。



 つまり放出し続けると簡単に死に至る。
 生命力は魔力になってしまう。
 しかも、体の器官が育たなかったということでただでさえ暴れる魔力が体のいたるところから放出されてしまう。出る穴がないのに出ようとして体が散り散りになるのだ。


 文字通り、散り散りになりかけたセイリオスも至る所をくっつけ直した。
 不変の賢者の腕がなければ、今頃どこかが欠けていてもおかしくはない。
 命があるだけ御の字状態だった。


 それも、魔力暴走の魔力が生命力へと変換する補完機能のおかげで回復も早かったのだろうが。


 だから、セイリオスの場合それを体内循環で抑える訓練をし続けてきた。
 それを生命力へと変換させ、どうしても余った魔力は唯一、放出しやすい性行為で放出することによって抑えてきた。勝手に出てしまうのだから、そこを魔力を出す出口だと体に教え込んだというわけだ。


 これは魔力暴走を起こしてしまう体質のものや、戦いの場に身を置いている戦闘職のものならよく行うことで、それをセイリオスも行っていたというわけだ。


 生命力へ返還するための訓練装置の魔道具のおかげで、魔力を生命力の返還ができるようになった。
 人より魔力量が多く、どうしても性行為によって放出しなければならないことも多かったが。


 そういったわけでセイリオスはこう見えて衝撃にはかなり強い。かなり重いものも持てる。
 身体能力を上げているのではと疑われることもあるが、自力でこうなのである。


 最後にレオニスが放った雷流を跳ね返した「重すぎてセイリオスしか着られない作業着」も、難無く着ることができる。タウなんかが着たら動けなくなる拘束具に早変わりである。


 暴走する魔力を押さえるということは、体を鍛える事にもなる。
 魔力が使えないセイリオスにとっても、それはありがたいことでもあったのでダーナーやカシオに戦闘を習った。へとへとになるくらい疲れてしまえば魔力もかなり落ち着いたものだった。

 人より多少無茶したほうが自分の場合は落ち着く。
 それがオカンと言われることにもつながるのだが、別に気にならない。


 それより、どうしても放出しなければならない時の性行為の方がセイリオスは辛かった。
 思春期の時は、興奮もしていないのに立ち上がる自分が気持ち悪かったし、今までしてきた沢山の行為に価値を見出せないのが辛かった。
 気持ちがいいと、腰を振る。気持ちいいと思えば思うほど反吐が出そうだった。



 それも思春期が過ぎれば、割り切れるもので。
 相手を喜ばせることに専念すれば相互利益がある状況になり、それでいいかと思えるようになった。





 だから、失敗した。
 ヒカリとの行為の時、ちょっとでも暴走しかけた自分がいてぞっとした。


 ここ一月ほどの自分を思い出すと、自分の情けなさにほとほとあきれる。
 これが大人のやることだろうかとは思うのだが、「ほぼ童貞と変わりないんだから仕方ないだろ」「覚えたては盛った犬と変わりねえもんだろう。うりうり」「暴走ではありませんよ。誰しも愛するものをいじめてしまうことはあるものです」と、数々のお言葉を頂いて特にそうかと納得もできなかった。



 戦いの場でこんなことを考えているのもどうかと思うが、正直、今のセイリオスにとっては大問題のうちの一つで。
 セイリオス以外が全然深刻に受け取ってくれないのも、どうかと思っているし。


 当の相手をさせられているヒカリがニコニコしているし、心配するのはセイリオスのことばっかりだし。



 わかっている。ヒカリは自分の癒しの魔力と体が役に立つことを喜んでいるということ。
 セイリオスのためなら、少しの痛みも平気そうにすることも。


 でも、そうじゃない。
 セイリオスは確かにヒカリとつながれるのは嬉しい。しかも気持ちがいい。喜びしかない。


 でもそこに、何の付加価値も付け加えたくなかった。


 そこに愛があって、もっと知りたくて。
 俺の全部で愛する。ただそれだけの時間にしたかった。


 だから自分が情けなくて仕方がない。


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