お前の妄想で、俺ってどうなってるの?

パチェル

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9  正当防衛

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 俺は気付いていた。
 佐々玄の手が、足がとても大きいことに。


 だから多分、あのミイラ男の頭をその手のひらで包んで持ち上げることもできるんだろうなと言うくらい、大きい手足を持つということは。



 身長が高くなる可能性を秘めているということに、肩を組んで帰ったあの日から気付いていた。
 俺の身長を頭半分ほど追い越した佐々玄は、サラリーマンになってから、体を鍛えて、その肉体美たるや。
 

 だから俺より小さくて、なんかかわいい感じの佐々玄はもう過去の産物で、もうね、イケメンで有名なんだよな。
 きっと、その性癖も相まって、体を鍛えるのは彼の性質にあったのだろうと思う。
 苛め抜いてるんだよ。自分の体。健全な方法で性癖を完璧に制御しているんだと思う。


 あのねモドキーズの君ら。こうやって迷惑をかけない性癖ならいいのよ。とか語り掛けちゃうくらい佐々玄はストイックだ。



 でも、そんな見た目でもかわいいも持ち合わせているんだけどね。



 たぶん、お付き合いしている人と別れたのだと思う。
 中学生のころから付き合ってたお相手の方。大学卒業したらちらりとも影がなかった。


 しっかり聞いたことはないけど。
 だって、お付き合いしている方は? と、一度聞いたら、いないよとそれはそれは複雑そうな顔をしていたものだから、聞くに聞けなくなった。


 だから、代わりに自分で自分を苛め抜くという筋肉活動を始めたのだと思う。
 体脂肪率一桁ってどう思う?


 いじめてるよね? 家で筋肉に語りかけたりしてるんだろうか。だとしたらいじめているわけではないのだろうか。かわいがっているんだろうか。知ってる? その体脂肪率じゃあ冬山は制せないよ!



「あ」



 ドサリと吸血鬼もどきが落ちた。
 色んな意味で落ちた。


 手をパンパンと払った佐々玄がそいつと、ゴミ箱に突っ込んでいるそいつ、のポケットから何かを抜き出して写真を撮っている。


 カツカツカツと俺の前まで来て、しゃがんで目が合う。


「慎ちゃん、スマホ見てなくてごめん」
「あ、いや、それはいつも通りと言うか」
「で、どうする、こいつら? 警察呼ぶ? それとも呼ばない?」
「えっと、ごめん。ちょっと、今、こんがらがってて。佐々玄、そいつらころし……」
「してない、してない。でも、俺が来てなかったら」


 佐々玄は俺の手が掴んで離さなかった手のひらサイズのコンクリート片を掴んで、ポイッと遠くへ捨てた。どこかの溝に落ちたのか水音がする。転がっていたのをいつの間にかつかんでいたようだ。
 俺の手のひらについた、コンクリート片のかすをぱっぱと払って俺の手のひらを見る。震えていた手をぎゅっと大きな手で包まれた。
 そして大きく息を吐いた。



「死んでたかもね。間に合ってよかった」
「え? でも、正当防衛に」
「なるかなぁ。相手丸腰だったから。慎ちゃんが誰も殺さなくって良かった」



 佐々玄はおかしそうにずっと笑っていた。








 結局、あの後警察を呼んでちょっとひと騒動あった。

 俺がされたことを話すのは、恥ずかしいと思ったんだけど、本物のポリスメンはそれはそれは、大変気を遣って聞いてくれてやっぱり俺は運がいいと思った。

 世の中に半分ずつ、いい人と悪い人がいて、ん? もう少し少ない?

 俺の統計的には、いい人が9割、悪い人が1割? それくらいだと思うのは、俺の運がいいからなのだろう。


 ポリスメンはちゃんと聴取をとってくれた。

 そして佐々玄は機嫌が悪かった。



「佐々玄、今日の飲みがなくなったからってそう怒るな。また、今度飲みに行こうぜ」

 俺がそう言って肩をバンバン叩くと、大きくため息をつかれた。
 因みに警察署の待合室みたいなところのベンチで二人座っている。


 ハロウィーンの人々はいたずらされて、体を乗っ取られてしまったのだろうか。犯罪者も多く生むようで警察はにぎわっている方だったと言える。


 ますます怖い。ハロウィーン、怖い。


 ポツリ、佐々玄が言う。
 俺、いたずらって言葉好きじゃないんだよね。



「ん、そうだったの? へぇー、じゃあ、今日と言う日は、嫌な言葉も多く聞いたでしょうよ。お疲れ」
「いや、仕事だったからあんまり。……いたずらって言葉にしたら、軽い感じがしてすごく嫌なんだ」
「軽い?」

「なんでもそうなんだけどさ、言葉でカテゴライズされたときにさ、いたずらって言うと、それって怒るようなことじゃなくってさ、許さないといけなくなるような気がしない?」
「ふむ、一理あるな」


 佐々玄が前を向いたまま少し笑う。


「出た、慎ちゃんの一理。……いたずらとかですまないことでも、いたずらだったんだって言えば終わっちゃう気がして。俺は、それが嫌でさ。ドッキリとかでもあるだろ? 歩いている人を突然蹴ったら、その人のリアクションが面白くって配信しましたとかいう奴。あんなの誰でも驚くに決まってるだろうってやつ。もし驚かないやつにそれやったらお前死んでるぞってやつ」
「おう、あるな。でもそういうドッキリは、いかにもそういう人にはしないよな。人を選んでいるというか、もしくはどっきり失敗したやつは配信していないとかな」


 佐々玄はあるよなと言って、そこで下を向いて話さなくなった。



 佐々玄は俺の家まで一緒についてきてくれた。
 俺は別に大丈夫だと言ったけど、首を振って付いて来て、なんか大きな犬を、夜に散歩させているような気分になった。


 毛が長い雰囲気の、大きな犬。
 もとは狩猟犬だったとかいうので、立ち上がるとゆうに180センチメートルは越えてんじゃないですか?的な犬。
 でも顔ちっちゃいやつ。
 目がくりっとしていてかわいいやつ。





 犬なんか飼ったことないから、俺の妄想だけど。






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