全然、まったく、これっぽっちも!

パチェル

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12 おしゃれって難しいよね。

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 以前はフィットしていた礼服が緩いからだろう。二の腕の余ったところの布をつまんでいる使用人の顔がふてくされている。

 眉をしかめた使用人はそうやっていると年相応の子どもに見えるので眺めていたら、怒った顔をこちらに向けた。

 全然怖くない。
 むしろかわいい部類。

 おいおい、ほっぺがまだふくふくしてるぞ!
 そんなほっぺでキリッとされてもなあ。


 とか言うと年頃の男の子なので怒るだろうと、話を真剣に聞いているふりをするために改善策を口にした。



「じゃあ、ベルトで締めたら?……うそうそ、冗談」


 俺に与えられるベルトはガーターくらい。
 それくらいしか身につけない。
体重をかけたらちぎれるくらいの弱いガーターベルト。


 万が一があるからだろうなとあたりを付けている。



 18の時からの付き合いだから、彼ももう10歳くらいだろう。そしておそらくアルファ。
 しかもかなり上位のアルファだと思う。
 10歳にしては大きい。子どもらしい雰囲気や丸さはまだあるが、能力も高い。


 なんとなくだけどそう思う。
 俺には匂いの感知もできないし、項も噛まれても何ともないけれど。

 アルファが近づくと項がピリピリする。


 だから、そう思うだけ。
 お歳はいくつですか? なんて、聞くほど仲良くもないし、仲良くなるのは恐らく父親の意向とは違っている。


 この家の方針は、商品とはそれなりの距離を保っているみたいだし、グイグイいくのも俺が面倒くさい。


 オメガの衣装として俺はいつもスルスルした生地のダボダボした服を着せられる。

 何ていう服かは知らないよ。
 そんな教育は受けていない。


嘘、もしかしたら受けたかもしれないけれど、落ちて言った知識の一つかもしれない。



 袖も裾も長め。袖は手首まできっちり隠され、ダボっとしているから手首の太さが隠せる。けど見ようと思えば見える。
 生地がするするしているから、体のラインは結構わかりそう。


 なんとなくだけど、動きの制限がある気がする。
 ゆっくり動かないと、どっかに何か引っかけそうで。

 焦って走るとこけてしまいそうだ。


 足首は歩くときに持ち上げなくてもいいくらいの長さだけけど、座るときは気を付けないといけない。



 トイレとか以ての外ね。


 あんまりトイレに行きたくないから、こういう服を着るときは飲食物をかなり控える。

 だって嫌じゃない? トイレに人が付いてくるの。
 俺、何歳? 幼児? 幼児なの? みたいな気持ちになるから、まだ自尊心は大事にしているという、いい証拠としてそこは断固として譲らない。


 動きにくいなといつも思う。
 でもこれが今の流行らしい。
 オメガ男子にとってのね。



 シャツドレスのようにボタンで前で閉じていて、ボタンは隠すために上に布がある。
 足元は少し透けているし、どこかにスリットを入れている。因みにサリアノアの衣服は大抵前にスリットが入っている。


 座ったりすると足元が見えるので、下はパンツを履く。

 肌は極力見せないように首元迄ぴっちりボタンをしめられ。首が苦しい。
 喉仏が浮かぶくらいぴっちり。

 因みにパンツの長さは足首より少し短いくらいまで。
 これは着心地がいいので気にはならないけれど、長さがどうも。


 靴下はレースで足先からひざ丈くらいまであってガーターベルトをしている。
 人生初のガーターベルト。


 いつもいるかこれ? と思うがレースがだれると美しくないらしい。

 くしゅくしゅしているレースもかわいいとは思うけれど、それも言わない。


 適当な動きもできない。
 レースって丁重に扱わないといけないからね。そんなもの靴下にしてほしくないなあ。


 おしゃれはよくわからないからいつも着せられるまま。

 肩くらいまである髪の毛を結わえられる。髪の毛もいい匂いのする油でつやつや。


 準備ができたら、あとは父親が来るまで待機だ。
 完成品のまま崩れないように待つ。


 軽く化粧を施されているから、お茶も飲めない。
 日本じゃつけたことなかったけれど、こちらの口紅はまずいと思う。
 苦く感じる。


 だから化粧をしたら何も食べないようにしている。
 食べると、化粧直しをされて、また口紅を食べることになる。


 エンドレス不味いが襲ってくる。
 味覚がバグりそうだったからそうするようになった。






 ノックもせずに扉が開かれた。
 同じような色合いの、恐らく生物学上の父親。
 感覚的には雇い主? 飼い主? 的な人が俺の全身を眺める。


 俺はとりあえず立ち上がって、お辞儀をする。

 あっちも息子だとは思っていないだろう。
 よくて社員、良くなくて商品くらい。悪くて……。これはやめておこう。俺の精神衛生上。

 他のやつらと違って視線が気持ち悪くないからマシな程度の位置。俺的にはね。

 まだ使用人と一緒の方がいい。
 声も掛けないけれど。


 専属の使用人と話しているのを見られた時に、無言の圧を感じてそれ以上話すのをやめた。

 この子の立場が悪くなるのもかわいそうだったし、配置換えされてこの子がいなくなるのもなんとなく悲しかったから。
 次に来る奴がどんな奴がわからないし、俺のことを見る目が商品じゃないのは俺がここで踏ん張れる理由の一つでもあるからね。




 セレットリク・アフェット。




 この国の伯爵様にはちゃんとした奥様がいらっしゃる。
 だが、俺は奥様には会ったことがない。聞いたこともない。



 俺はこの人のことをベッドの上か、他人からか、紙の上でしか知らない。


 腰に添えられた手が体をなぞる。


「痩せたか」
「はい、お洋服のサイズが少々」


 発情期明けに痩せているってことはそういうことだろう。


 死ぬほどやってたんじゃないの?
 やめてくれって言っても聞かないんだから付き合うしかない。
 なのに、この人は俺を仕方がない奴だという目で見る。



 お前がやらせてんだろうが。知るかよ。
 というのが目に出ていたら危ないから下を見る。




「王宮に行く前に食事だ」


 うげ。と思いつつ、俺は声を出さない。

 この人の前で感情を出すのをやめてからだいぶたつ。
 最早どう話せばいいかわからないので、聞かれたことだけを返すようにしている。


 痩せているからってなんだというのだろう。 


 使用人が去ると、急に壁に押し当てられ口付けが始まった。



 やめろよ。化粧が剥げんでしょーが。不味いんだってこれ。


 抵抗したら、後が面倒くさいのでなされるがまま。
 教え込まれた体は従順だ。この人、人前ではあんまりこういうことしてこないの。

 




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