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18 名前を呼んでいた。
しおりを挟むそれにギョッとして、俺は全力で首を振るう。
それに対しても温度を下げたセレットリクに睨まれた。
「とにもかくにも、あの方が話を聞くことも食事をすることも拒否されて、部屋には入れてもらえないのだ。それに一緒に来た人間の治療も拒まれている」
それを聞いてさらにギョッとした。
え、どうゆうこと?
「召喚されたアルファが唯一反応を示したお前を連れてこいと王が言われたのだ。断れるわけがない。あの方を召喚するのにどれほどの時間と金と人を使ったと思っている」
櫟が飯を食べてない?
使いの人あのまま放置?
「それにサリアノアにはテレパシーの魔力がある。連れていけばそれなりに使えるだろう」
「であれば、触れ合いが必要と言うことではないですか。サリアノア様の能力は触れあわないと出来ないのですから」
それに対して苦虫を噛み潰した顔をして、舌打ちをしている。
そんな苛立ちを隠そうともしないセレットリクに少し驚きつつ、俺は迷子のように視線をうろつかせる。
まだ、自分の気持ちすらままならないのに櫟たちの状況に不安が募る。
会って大丈夫か確認したい。でも会いたくない。
俺が大丈夫じゃないから。
そうして着飾られた俺はカチンコチンのままセレットリクに連れられ、お城の横の櫟が召喚された建物の中に入った。
どこにいるのだろうか。
今日は真っ白な服装でいつもより装飾品を多めに付けられている。
ジャラジャラつけられているのはアフェット家の紋章が入っている。宝石がついているから、重いと思っていたら宝石が小さい細めの装飾品に変えてくれた。
そう言うところはやたら気が付くセレットリクとラーノは、阿吽の呼吸で俺の身につける装飾品を変えていった。
「ああ、来たか。やあ、この間ぶりだね」
召喚に使われた部屋の隅にあるテーブルの所に座っていたのは、王弟殿下のエテルノだ。
前半はセレットリクに、後半は恐らくサリアノアにだろう。
にっこり微笑んでいるが、その表情には疲れが見えた。
気障な王弟は疲れていても、艶みたいなものを出している。
「ただいま、参りました。して、この後はいかに?」
「そんなに機嫌を悪くするなよ……。君の機嫌まで取るのはさすがに疲れるよ」
「王族ともあろう方が下々の機嫌を取るなどと、ご冗談が過ぎますな」
「ああ、君の機嫌はサリアノアが取ってくれればいいか。ね? サリアノア?」
それは言外にセレットリクとサリアノアがそういう関係なのをからかっているのかと、精神状態がよくないサリアノアは勘ぐった。
そして少し顔色を青ざめさせた。
いくら自分とセレットリクを開発者とその道具と思って生きていようとも、第三者から見れば同じ家の同じ色合いのものなのだ。
吐き気がして、ここに来る前に食べさせられた物を戻しそうになった。
「ああ、すまない。そういうことではない。違う、気に病むな、サリアノア。今のは私が悪い。本当にそういう意味ではないから。気分が悪いか? 席につけ」
肩を支えられて、椅子に座らされる。
気分が悪くて誰の目も見ていたくなかった。
だから、セレットリクがどのような目をして自分を見ているのかを、サリアノアが知ることはない。
「私が言いたかったのはだな、その、ひとつふたつ、にこっと微笑んでやれと言うか、お前から。かわいく、にこっと」
頬を王弟殿下がつつく。やめて欲しい。今は必至に喉の奥を閉めているのだから。
「殿下。そろそろ話を進めていただきたいのですが。サリアノアの体調も万全ではありません」
「……はあ、お前は。まあ、確かにそうだな」
サリアノアは上がってきた胃液と戦っていたため、聞き返せなかった。
微笑むことで関係性がどうなると言うのだろうか。
昔は一つ二つ微笑んだ気もするのだが、セレットリクからそれが返ってきたことはない。
召喚されたアルファは、あの後どうしたかと言うと。
「かなり怒っていたな」
「かなりと言いますと」
そこの柱を見てごらんと言われ視線をやると、柱が欠けている。
何かがめり込んだような、跡がついている。
「あの柱を一発殴って」
「はあ、殴って」
「近づいた近衛を一人、制圧された」
「制圧……素手ですか?」
「そうだな。そのあと、刃物を持ってあちらの部屋に籠られたというわけだ」
呼んで来て早々、自害されては困ると思った人々も王によって建物から追い出され、こうして王弟殿下が食事を運んできているらしい。
「なぜ、あなたが?」
「さあ、私が近づいたときは威嚇の音がなく、一言声を出されたのだ」
そうしてエテルノはサリアノアを見る。そこには気遣わし気な表情があった。
「君の名前を呼んでいた」
「おれ、の、なまえですか?」
俺の名前を?
「サリアノアと。あの時セレットリクが呼んだからわかったのだろう。君はあの時、彼とテレパシーでやり取りをしていただろう?」
気付かれていたかと、とっさに目を伏せたが今更遅い。
あの時は混乱していたけれど、柱の陰に隠れていたってわかるものはわかる。サリアノアは声には出していなかったけれど櫟は出していた。
エテルノからしたらそれはそれはものすごい速さだったと言わざるを得ない。
近づいて行った王族のオメガをさっさと置き去りにして、ものすごい速さでサリアノアに近づいたのを皆が見ていたのだ。
それに恐らく、異世界から来たアルファはエテルノがサリアノアのことを知っていると考えたから近づいても威嚇の音を出さなかったのだろう。
なぜなら直前まで話し触れたのだから、匂いがつく。サリアノアの匂いが。
「今のところ彼と話せるのは君しかいない。大変申し訳ないが、一度試してもらえないだろうか」
頭が混乱したまま、視線をさまよわせる。
もうずいぶん心を殺してきたから、ちょっと追いつかない。
「テレパシーで、ですか?」
「そうだ」
「でも、俺」
色々な意味で嫌すぎる。
「せつめいなんか、できない、です」
「今回のことはどういうことか知っている?」
「あの日、皆さんがお話しなさっていたので」
そう言うと、エテルノは一つ頷いて説明を始めた。
「まあ、ハーレムを作って欲しいというところかな。彼自身の強い遺伝子があれば残った子らも必ず強いアルファを生むだろう。あとは彼自身も国の幹部となって働いてくれればさらにいいが」
いつものサリアノアに対する態度とは違い、少しばかり冷たい様子にサリアノアの心がざらつく。
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