全然、まったく、これっぽっちも!

パチェル

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34 じゃあ、どうぞ。

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 食事をしながらセレットリクに今日の報告をしている。
 一緒に食事をしているので、話すことがない時と違って多少マシだ。


 ただ食べるのが止まっていたら、じっと目を見てくるものだから適当にそこら辺のものをつまむことにしている。
 マナーとかを気にせず机の上にたくさん並べられるのはいつものことなので、適当にモグモグしている。
 残すのが嫌なので、量を減らして欲しいと頼んでいるので食べきれる量と思われるものを用意されているのだが、残すことも多い。

 そういう時はセレットリクが全部平らげてしまう。


「ならば明日は簡単な毒物についての書物も用意しておこう。それと明日、見張りのものの中にお前の次の相手がいる」

 ちょうど物を飲み込んだところでよかった。吹き出すか喉に詰めてしまうところだった。


「あのリストに今一度目を通しておけ。せいぜい相手の情報をしっかり持っておいてから話すといいだろう。情報もなしに不用意に話しかけるな」
「はい」
「あくまでいつも通りでいい。外で言質を取られるのは厄介だ。いつも通り薄氷うすらいの花と言われる対応でいい」
「は、い?」

 突然、セレットリクから似合わない言葉が飛び出してきた。なにそれ?

「お前のことだ。氷のように冷たい対応、それなのに人恋しさを覚えさせる目つき、触れたら解けてしまう花びらのような儚さ。絹のような空を写した髪が風に揺れると思わず手を伸ばし、その薄く張った瞳の氷を解かすのが惜しいと思わせる」


 セレットリクが手を伸ばし、頤を捉える。サリアノアは身を固めて待つ。
 唇と唇が重なる。


 いついかなる時も、こういったことを拒否してはいけない。
 拒否したところで力負けするから意味がないのも学んだ。


 そうして、あの時ラーノに触れたようにサリアノアにも触れる。身を硬くする背筋を撫でる。

 今日は落ち着いた方のキスだ。
 時々激しいものもあれば、今日みたいにぬるま湯のようなキスをされる。



 どういう意味があるのかはなんとなくわかる。
 恐らく俺をマーキングしているんだろう。
 発情期明けに激しいキスをされるのはそういう意味なんだろうなと思う。

 俺が誰の所有物か示しておかないと、セレットリクのアルファとしての本能だ。
 それと対外的なものだろう。


 さっきの言葉の流れからこういうことをしたら、普通は口説いているんだと思うけど。
 俺とセレットリクの間でそれはない。


 口紅の味がしないキスの方がいいかくらいで止めておく。
 上顎を擦りながら舌がでていくと離れずに至近距離でセレットリクが言った。


「その氷が溶けた先の可憐な花びらが、甘いことを知っているのは誰なんだろうな」


 そしてデザートを平らげるまで、事務的な話をつづけたセレットリクは何事もなかったかのように部屋を出ていった。だから、やってきたラーノに思わず聞いてしまった。



「あのさ、あの人、今日なんかあったの?」
「セレットリク様ですか? さあ、特に何もお聞きしてはいませんけれど」
「もしかしたら毒かなんか食べたかもしれない」


 今、セレットリクに倒れられたらかなり困る展開になるじゃん! と焦り始めたサリアノアはラーノが零した言葉には気づかなかった。



「確かに、中毒にさせる毒ではあるかもしれませんね」


 小さくため息をつきながら、サリアノアの髪を整えた。それには目敏く気付き、ありがとうなどと言う。
 鈍感なんだか、鋭敏なんだかとは思うものの、それは使用人の言うことではないのでしまっておく。

 気付いて欲しいような、気付かないでいて欲しいような。
 ラーノは今日も一人、使用人としてサリアノアに触れた。










 祈りの間の横に急ピッチで調理場が作られている。
 何故なら櫟が王城からの食事を断って、祈りの間の横で自炊を始めたからだった。
 サリアノアが持ってきた食材で簡単なスープとサンドイッチを作っておはようというものだから驚いた。
 見張りに立っていた護衛の人たちも困って、呼び出されたエテルノも為す術なしでみんなで櫟の自炊をかげながら見守ると言うシュールな状況が出来上がっていた。


 サリアノアは焚火の横にひょいッと屈む。
 焚火の番をしているのは藤代だ。

 隣にやってきた櫟に手を差し出す。

「毒が怖いなら自炊すればいいかと思って。ここなら火事の心配もないし迷惑にもならないかなと思って」
「確かにそうですが……」
「やっぱりまずかったかな?」
「まあ、賓客の扱いですから。王城としてはかなーり嫌だと思います」


 せっかくの召喚したアルファの機嫌を取れていないということで、王としては示しがつかないだろう。


「せめて、見えないところだといいんですが。中に厨房とかあれば便利ですよね」
「そういう事なら、急いで作るのでそうしてもらえるとありがたい」

 会話に入ってきたエテルノは本当に困っていたようで、ちょっとくたびれている。
 櫟が片言で、キッチンが見たいと言い出していると呼び出しを受け、一緒に王城の調理場へ向かい、櫟が欲しいとう調理器具を分け、ついでに魚と食器も運び今に至ると言う。

 包丁は持たせてもらえなかったから魚はそこら辺の枝にさして焼いているのだと言う。
 スープには昨日サリアノアが渡した食材が適当に入れられクツクツ煮込まれていた。


「本当は王城の賓客室に来てもらいたいのを我慢しているくらいだからね。じゃあ、急いで調理室を作るよ。中の扉からしか入れないようにするからそれで勘弁してもらえないかな?」


 お城で焚火で、木の枝に刺した魚を焼いているのは確かに見られたくないだろうなあ。
 と思いそれを櫟に伝えると、これが俺達の伝統的な朝食とか言ってごまかせないかなとか言うので笑ってしまった。


「ふふふ、串刺しの焼き魚とサンドイッチとこのスープがですか? 似合わないにもほどがありますよ」
「じゃあ、どんな朝食が似合うと思う?」
「そうですね……」

 朝から魚を焼いて、きれいに骨が取れると今日の運勢はいいかもしれないと張り切って出かける。
 俺は朝から焼き魚は面倒くさいけれど、気が向いたら朝食に出していた。

 朝は俺の方が強いから、朝食は俺が担当で。
 味噌汁に前の晩の残りのサラダとかぶっこんじゃっていたけど、櫟はおいしそうに平らげる。


 弁当も一緒に作って、朝食に作ったやつも詰めちゃうからお昼ご飯も朝と似たようなラインナップになる。だから冷凍しておいたいつかの晩御飯のストックを入れる。ちょっとは雰囲気が変わる。それで大体そのストックは櫟が作っているので、昼食はある意味、櫟と俺との合作。


 パチパチはじける焚火を見ながら、そんなのが浮かぶ。



「おいしいご飯ですかね。おいしい温かいご飯と一緒に食べる誰かがいたら、それでいいんじゃないでしょうか」
「じゃあ、どうぞ」


 櫟ができたての焼き魚を一つサリアノアに渡す。両手がふさがるサリアノアの耳朶に触れて笑う。


「鮮度はばっちりだったから、おいしいよ?」

 朝ご飯は食べてきたところだが、皮のおいしい焦げた匂いにかぶりついた。


「おいひい」


 櫟が作ったご飯はおいしいと相場が決まっているので、かぶりついたら案の定とてもいい焼き加減でふんわりぱりぱり、しっぽに塩がまとわりつかせられていてそれが妙に美味しそうに思える。


 二人っきりのキャンプも楽しかったなあと考えているうちにあっという間に間食してしまったのだった。







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