アティクタ≪Atycuta≫

宮川 光

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第二話:冒険だ!

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『大脳と接続完了。……ようこそ。アティクタへ』

 白い空間に≪Atycuta≫とロゴがでかでかとならび、女性の声に近い人工音声が出迎えた。

「へ~…すごっ…」

 辺りを見渡したり、手を握ったり離したりしながら驚いた。

 実際、ほぼ現実と同じ感覚だったのだ。

 しかし、ぼうっとしてたので、大音声でアナウンスが鳴った。

 慌てて目の前を見ると、胸の高さらへんに黒色のキーボードがあった。

 私はIDとパスワード、キャラクターネーム≪リリット≫等を入力した。

 すると、キーボードが消え、白い空間が暗黒へと包まれた。

 すると、茶色の木製のドアが一つポツンとあった。

 なんだろうとドアノブを捻ると、眩しい光とともにまた白い空間に出る。

 すると、次は合成ボイスではなく、パッケージの背景に描かれていた紺色のローブを着た男性が立っていた。

『我々の世界、≪アティクタ≫へようこそ。冒険者殿。』

 低い粋な声が響き、男性がお辞儀した。

『私はこの世界の門番、ポルトン。あなた方冒険者を我々の世界に招待し、─この世界の事をお教えするのが我が役目。教えましょう。』

 目の前にいるポルトンはこのゲームの舞台であるアティクタについて説明し始めた。

『この世界、≪アティクタ≫は6つの大陸からなり、それぞれの大陸を神々が管理されていました。
人種が住む大地の大陸ヒュザム、獣人が住む氷の大陸ビグァ、鳥人が住む風の大陸フィリス、魚人が住む水の大陸スーリル、竜人が住む火の大陸バルク、この世界の真理を祀る神殿がある時の大陸シロック。
ですが突如、大陸を管理されていた神々がどういう事か姿を消され、管理者を失った大陸は次々とその命を枯らしていきました。
今現在、ヒュザムに人間達が残っておりますが、このままでは彼らも生きることが出来なくなるでしょう。
冒険者殿、あなた方が唯一の頼み。どうか、神々を見つけて欲しい。』

一通り説明が終わったのか、ポルトンが動き出し、目の前に2メートルはある扉が現れ、開いた。

『さあ、冒険者殿。まずは我らの神に会いなさい。』

 そう言うと周りが光り、気づくとファンタジー系のゲームでよく見る村だった。





 ~オルフレン村~

「…ゲーム内に来ちゃった…」

 ここに来た事を感動していると、目の前に灰色に光る半透明な長方形が出てきた。

「ん?何々?『ウインドウ』と言うか、右手の人差し指を下に振るとウインドウ・メニューが開く?へぇ~。」

 と言いつつ、声に出して言ったので、出てきたウインドウを見ると、一番上にレべル、性別、名前、HP、MP、経験値が表示され、その下はフレンド、アイテム、スキル、等の項目があった。

 一番下にはログアウトボタンがある。

 そして、一番期待した物があった。ウインドウの中の項目にある『能力:神法』とあった。それをタッチすると、とんでもない量の文字が書いてあった。

 それはこのゲームソフト、アティクタの最大の特徴であり、昨日私が設定した≪オリジナル能力≫だ。簡単に言えば、ゲーム内ではいつも決まったものしか使えなかったのが、プレイヤー好みの能力を設定出来るのだ。

 因みに私の能力は≪神法≫。自分で創ったオリジナル詠唱魔法で、第百条まである。

 それ以外にも、ウインドウの中にあるスキルも戦闘で使える。

 ウインドウを弄りながら歩いていくと、現在の武器などが表示された。やはり、初期装備なので貧相だが、お金─ここではジェロが単位─が無いので無理だった。

 けれど、やはり今一番したい事と言えば…

「やっぱ、戦闘だよね~。」

 私は村の外に出るためにウインドウからマップを開き、それに従って歩いた。





 ~ケペナの森~

 現実では見たことの無い深緑の森をリズムよく歩く。けれどモンスターと遭遇出来ない。理由は簡単。見つけたと思ったらほとんどが戦闘中、もしくは手を出しちゃヤバい奴ばっかなのだ。

「う~…誰よ。人気0って言ったの…」

 文句を言いつつ、つい先程から出てくる戦闘マニュアルのウインドウを片っ端から見ていた。

 内容は『モンスターに視点を向けると自動的にカーソルが固定し、モンスターの名前とレベルが表示される』や、『戦闘中でもウインドウ・メニューが開ける』、『半径十メートル以上戦闘中のモンスターと離れると戦闘が終了する』、『HPが0になり、蘇生猶予時間およそ一分を過ぎると、自動的に設定した蘇生場所へと飛ばされる。この時、二十レベルを超えていると、死亡罰金デスペナルティーとして罰金、手持ちの約二割と経験値が減る』等だ。

 全てのウインドウを見終わり、溜め息をついていると、目の前に黒い影が動いた。見てみると、大型犬の子犬位の黒い狼がいた。名前は黒狼ダウル。レベルは三だった。

 期待していた戦闘が予期せずに始まった。

「え?ちょっ!?うわっ!!」

 初めての上に、狼狽えてしまったせいで、黒狼ダウルに一撃を先制された。

「っつ!……この!火玉フォゴ!」

 そのせいか、少しだけキレて、覚えたての詠唱魔法を打っ放した。

 すると、「キュウ!」と鳴いて、体を震わせた。黒狼ダウルの上に表示されている緑色のバーがさっきより短くなっていた。HPバーだ。

 私はこのモンスターに腹癒せと詠唱魔法の実験台とするべくウインドウを開き、休む暇を与えずに魔法を発動した。

 結果、およそ一分も経たずにHPバーが消え、黒狼ダウルはポリゴンとなって砕け散った。

 そして、私の初戦は圧勝で終わった。

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