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序章
燃えゆく村にて
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黒く淀んだ空を背景に、美しさすら感じさせる火の粉が無数に舞っている。
小さな学校が、店が、家々が真っ赤に燃えている。
怒号や悲鳴が絶え間なく響き渡る、この世の終わりと思われるような村の中を、少女は走っていた。絶え間なく感じる命の危険に今にも足を止めてしまいそうになる。
何とか走りながらちらりと上を見上げれば、熱風に吹かれながら黒々と浮かぶ人影。
――逃げないと。
視線を前に戻す。
(また私は、あいつらに平穏を奪われてしまう)
かつて仕事を終えた村人たちが集まり賑わっていた酒場の前を走り抜ける。店の中は真っ暗だ。
酒場からまっすぐに進めば、村の彫刻家が腕によりをかけて意匠をこらした門がある。その門も、やはり見るも無残な姿になっていたが。
少女は焦げた門の残骸を乗り越える。長く伸ばした白金の髪や手作りのワンピースがすすけるのも厭わない。炎に包まれた村の中を駆け抜けてきた少女の手足はやけどによる傷が多く、血が滲んでいた。
なんとか門を乗り越える。目前には村を囲む森が広がっている。幸い、森には火が回っていないようだ。いや、これは幸いと言っても良いのか。あの空に浮かぶ影が意図的に村だけを燃やした可能性も高い。今まで聞いた話の中でも、あの存在が人間の住む場所以外の自然に害を与えたという内容はなかったはずだ。
(この中なら隠れられる)
森には凶暴なオオカミやクマなどの獣がすむというが、まあいいだろう。今まで走り続けたせいで息はあがり、身体は火照っている。ひとつ息をついてこの場から立ち去ろうとしたときだった。
「みいつけた」
突然、どこか下品な笑いを含んだ男の声がした。
ハッと振り返ると、先ほど乗り越えたばかりの門の残骸の上に耳の長い男が立って少女を見下ろしていた。
逆立てた青漆の髪と瞳……長い耳。鍛えられた筋肉を惜しまずさらけ出した、前開きの黒いジャケットのようなもの。左耳に光る翡翠。少女にはこの男に見覚えがあった。……いや、この世界に生きる人間で知らない者はいないだろう。
「大精霊ビエント……」
「おーおー正解。いやあ困っちゃうね、有名人になるのって。まあそんなことはどうでもいいんだ。今日のお目当てはお嬢さん、あんたなんだから」
「え……?」
何故かの大精霊ビエントが自分を狙うのか、少女には分からなかった。精霊どもが目当てとするのは、無垢な子供たちが多いはずなのに。それも無差別で、特定の人間に目をつけるなんて話を聞いたことがない。
目を見開く少女に男――ビエントは品の悪そうな微笑みを浮かべる。
「ま、そういうことで。ついてきてもらうぜ、お嬢さん」
ビエントの足に力が籠る。木くずがはらりと落ちたのを見て少女は我に返る。
少女が脱兎のごとく駆けだしたのと同時にビエントは少女めがけて飛び出した。
小さな学校が、店が、家々が真っ赤に燃えている。
怒号や悲鳴が絶え間なく響き渡る、この世の終わりと思われるような村の中を、少女は走っていた。絶え間なく感じる命の危険に今にも足を止めてしまいそうになる。
何とか走りながらちらりと上を見上げれば、熱風に吹かれながら黒々と浮かぶ人影。
――逃げないと。
視線を前に戻す。
(また私は、あいつらに平穏を奪われてしまう)
かつて仕事を終えた村人たちが集まり賑わっていた酒場の前を走り抜ける。店の中は真っ暗だ。
酒場からまっすぐに進めば、村の彫刻家が腕によりをかけて意匠をこらした門がある。その門も、やはり見るも無残な姿になっていたが。
少女は焦げた門の残骸を乗り越える。長く伸ばした白金の髪や手作りのワンピースがすすけるのも厭わない。炎に包まれた村の中を駆け抜けてきた少女の手足はやけどによる傷が多く、血が滲んでいた。
なんとか門を乗り越える。目前には村を囲む森が広がっている。幸い、森には火が回っていないようだ。いや、これは幸いと言っても良いのか。あの空に浮かぶ影が意図的に村だけを燃やした可能性も高い。今まで聞いた話の中でも、あの存在が人間の住む場所以外の自然に害を与えたという内容はなかったはずだ。
(この中なら隠れられる)
森には凶暴なオオカミやクマなどの獣がすむというが、まあいいだろう。今まで走り続けたせいで息はあがり、身体は火照っている。ひとつ息をついてこの場から立ち去ろうとしたときだった。
「みいつけた」
突然、どこか下品な笑いを含んだ男の声がした。
ハッと振り返ると、先ほど乗り越えたばかりの門の残骸の上に耳の長い男が立って少女を見下ろしていた。
逆立てた青漆の髪と瞳……長い耳。鍛えられた筋肉を惜しまずさらけ出した、前開きの黒いジャケットのようなもの。左耳に光る翡翠。少女にはこの男に見覚えがあった。……いや、この世界に生きる人間で知らない者はいないだろう。
「大精霊ビエント……」
「おーおー正解。いやあ困っちゃうね、有名人になるのって。まあそんなことはどうでもいいんだ。今日のお目当てはお嬢さん、あんたなんだから」
「え……?」
何故かの大精霊ビエントが自分を狙うのか、少女には分からなかった。精霊どもが目当てとするのは、無垢な子供たちが多いはずなのに。それも無差別で、特定の人間に目をつけるなんて話を聞いたことがない。
目を見開く少女に男――ビエントは品の悪そうな微笑みを浮かべる。
「ま、そういうことで。ついてきてもらうぜ、お嬢さん」
ビエントの足に力が籠る。木くずがはらりと落ちたのを見て少女は我に返る。
少女が脱兎のごとく駆けだしたのと同時にビエントは少女めがけて飛び出した。
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