自立したい僕を社長が甘やかしてきます

春夏

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15.贅沢な冬

63.ふたりは贅沢者

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「僕も調べてみたんです。マナー、できないと恥ずかしいから」
夜景が見える窓際の席に通されて、葵が小声で言う。
テーブルひとつ挟んだだけやのに、葵が遠い。
ついさっきまで、窓を照らす灯りのもと、ぴったりくっついて葵の香りに溺れとったせいで、ほんのちょっとのこの遠さが我慢でけへん。
重症やな、俺の葵欠乏症はホンマに手に負えへん。
「とりあえず俺の真似しとったらええでな、そない難しいことあれへん。旨いもん、楽しく食うたらええねん」
何その言い方、ラーメンじゃないんだよ、ぶつぶつ言っとるそんなところもいちいち可愛ええ葵のせいで、触れたくてウズウズしとる両手をテーブルの下で握りしめる。
さすがにマナー違反やで、自嘲の苦笑いとともに。

シャンパーニュと炭酸水のグラスをお互いに軽く掲げて乾杯。
「そない緊張せんといて」
「…おかしかったらちゃんと言ってくださいね?しっかり覚えたいから」
「間違うたって誰も怒らへんよ?」
「ダメです、甘やかさないで。僕が失敗したら智秋さんまでダメだと思われちゃうんだから」
「俺の評価なんか、もともとだいぶ下やと思うけど」
「そんなわけないです。とにかくダメなの」
見様見真似でカトラリーを使い、それでも“美味しい”と頬を緩ませる。
「…僕、こんな贅沢しちゃっていいのかなぁ…」
「こんなんは贅沢とは言わん。ホンマに贅沢させてもろとんのは俺の方や」
「え?どういうこと?」
「葵がいろんなこと覚えて大人になっていくのを、俺だけがこうやって特等席で見られんねんぞ?それこそ贅沢や」
「……じゃあずっと、贅沢させてあげます」
食後のコーヒーに入れたミルクをかき混ぜながら、耳まで赤く染めた葵が呟いた。

「はぁ、ただいまー!」
「フハハ、おかえり。なんやスッキリしとるなぁ」
「そりゃそうでしょ!ね、僕、大丈夫でしたか?」
「充分でけとったよ。心配要らんわ」
「ホントですか?あのね、僕、いろんなことできるようになりたいです。智秋さんと一緒にいてもいいよ、って、皆に認めてもらえるように」
「ほな俺も認めてもらえる男にならなあかんな」
「…そしたら…今よりもっとカッコよくなっちゃうから…困るよ…」
「葵はわかっとらんな。葵以外にカッコええ思われても意味ないねん。葵に捨てられんよう、俺はいつも必死なんやぞ?」
「…僕もいつも贅沢させてもらってるんです。智秋さんを好きでいていい、って、すごく贅沢なことだと思ってるんです。そんな生活、捨てられるわけないじゃないですか」

好きな人を好きでいられる。
自分の愛する人が、自分を愛してくれよる。
これ以上の贅沢があるやろか。
「…あとでゆっくり、言うたやろ」
わざと耳元で囁いて、葵のジャケットに手を伸ばした。
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