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ひずみ
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そんな春を手に入れようと、1人の少年が意を決し、春に交際を申し込んだ。春はまたも曖昧な返事でその手をすり抜けようとするが、少年の意思は強かった。春より一つ年上で、遠方の大学に合格していた。
「僕は君に何度でも逢いに来る。君が逢いに来てくれるなら、僕が新幹線のチケットを用意する。」
しかし、春を取り巻く世界はすでに歪みかけていた。
少年は端正な顔立ちで成績優秀、スポーツも得意だった為、取り巻きは多かった。取り巻きの少女達は少年に言った。
「あの子はやめておきなよ。先生に飼われてるから。」
「知ってる。だけど、僕は春が好きなんだ。」
少年は彼女たちの言葉を切り捨てた。少女達は唇を噛み、春に矛先を集中させた。春の居場所の一つである司書室を乗っ取った。部室も乗っ取った。教師の周りも囲んだ。春は学校の居場所を失った。それでも春は泣かなかった。登校を渋る事も無かった。春は誰も通らない階段で本を読み、歌を歌った。少女達は次に噂を流した。春は幾人もの男たちを誑かし、食い漁っていると。
とうとう涙を流したのは少年だった。それは疑いの涙ではなく、純粋に自分がした事で春を傷つけているという自覚の涙だった。
「それでももし君が僕を好きになってくれるなら、僕が君を守る。」
少年は言った。しかし、春はふと言い放った。
「好きとは何?」
春の異色さがあからさまに表出した瞬間だった。少年は愕然とした。自分がどれ程思っても、春の心の中に自分がいない。春の心の中は、その歌声の様に真っ白だった。
「僕は君に何度でも逢いに来る。君が逢いに来てくれるなら、僕が新幹線のチケットを用意する。」
しかし、春を取り巻く世界はすでに歪みかけていた。
少年は端正な顔立ちで成績優秀、スポーツも得意だった為、取り巻きは多かった。取り巻きの少女達は少年に言った。
「あの子はやめておきなよ。先生に飼われてるから。」
「知ってる。だけど、僕は春が好きなんだ。」
少年は彼女たちの言葉を切り捨てた。少女達は唇を噛み、春に矛先を集中させた。春の居場所の一つである司書室を乗っ取った。部室も乗っ取った。教師の周りも囲んだ。春は学校の居場所を失った。それでも春は泣かなかった。登校を渋る事も無かった。春は誰も通らない階段で本を読み、歌を歌った。少女達は次に噂を流した。春は幾人もの男たちを誑かし、食い漁っていると。
とうとう涙を流したのは少年だった。それは疑いの涙ではなく、純粋に自分がした事で春を傷つけているという自覚の涙だった。
「それでももし君が僕を好きになってくれるなら、僕が君を守る。」
少年は言った。しかし、春はふと言い放った。
「好きとは何?」
春の異色さがあからさまに表出した瞬間だった。少年は愕然とした。自分がどれ程思っても、春の心の中に自分がいない。春の心の中は、その歌声の様に真っ白だった。
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