天下無双の鍵使いー引き継がれるものー【挿絵付】

ー第3話ー

「はっはぁ！はぁ！はぁ！」



カインは走る。無我夢中で走るうちに気づけば手に持っていた靴磨きの道具はどこかへ消えていた。背後から迫る複数人の足音は引き離すことができず、その距離は次第に縮まっていく。


「あっ」



がくん


体力のないカインが逃げ切れるはずもなく、もつれた脚が体を地面に叩きつける。




「今だ、取り押さえろ！」



ソリッズの号令と共に少年たちは、寄ってたかってカインを雁字搦めにした。




「くふふふふ・・・観念のしやがれ、もやしの魔物め！戦士マルス様がお前を倒してやる！」



ぐちぃい！



マルスの拳は生々しい音を立て、カインの顔面を打ち抜いた。



ばたたたっ



地面にはカインの流した血がしたたり落ちる。



「あひゃ！うひゃひゃひゃひゃっ！」


ばきぃ！

どか！


続けざまに繰り出される拳はカインの全身に痣という痣を作っていく。その様子を笑いながら羽交い絞めにする少年たち。幼いが故の純粋な残虐性は、カインの体を痛めつけていく。



「反撃してみろよカイン！あ、悪りぃ悪りぃ！無理だよなぁ！だってお前『鍵職人』だもんなぁ！手先が器用なだけのお前じゃあマルスにパンチの一つも当てられないかぁ！！」



（この世は・・・クソったれなまでに不条理で不平等で、理不尽だ）



もはや反撃する気力もなく殴られ続けるカインの脳裏には、そんな言葉が浮かんだ。




ーすべての始まりは人類の行く先を全て職業に委ねたあの日からだー





『ジョブ＝ニゴラウス』


この世界に存在する数多の神の内の一柱であるこの神は、職業を司る神様だ。人が生を受けるその瞬間、職の神は様々な可能性を秘めた職の芽を植え付けるらしい。


宿主の成長と共に大きくなるこの芽はおおよそ15歳で成熟し、職の神はそれを見極めその人間に最も適する職業を神託してくれる。



昔は一部の信仰者達間でしかその恩恵を預からなかった存在だったが、ある時この神に目をつけた一国の王がある提案をする。




「国民が全員神託を受け、告げられた職につくことが出来たなら、国は加速度的に発展するに違いない」





国王のその一言から始まった『職への依存』は瞬く間に広まり、すぐさま実用化される。

その結果目覚ましい発展を遂げた国の様子を見て、他国もこぞって習い始めた。遂には法で定めるまでに定着するに至る。






『齢よわい15となったその日に神職授与の儀を受ける、これを国民の義務と定める。授与者は此れを天啓と受け全うすべし。いかなる理由を持ってしても、前項に背くことは許されない』




そんな敷かれたレールを走るだけの人生を強要させられる世界が出来上がるのに時間はかからなかった。