天下無双の鍵使いー引き継がれるものー【挿絵付】

サマヨエル

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ー第30話ー

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その部屋は必要以上に華やかで煌びやかで、そして広かった。

高い天井から吊り下げられたシャンデリアが眩い光を放っている。敷き詰められた深紅の絨毯の上に載るのは絢爛豪華な家具やインテリア。


部屋の中央には長テーブルが置かれ、おいしそうな食事が並べられていた。


使用人たちが整列し見守る中、彼らは上品に食事と談笑を楽しんでいる。



「今日も先生が褒めてらっしゃったぞ。ソリッズの勉学に対する姿勢と成果は素晴らしいとな。順調に『役人』としての道を歩めているようで安心だ」



「それでこそ私たちの子ですわ。まだ17歳ですのに立派に育って・・・」




「歳は関係ありませんよ、お母様。己の持つ向上心こそが結果に表れる、それだけのことです」



日ごろの行いからはまるで考えられないような言葉の飛び交う家族の食事風景を、彼とつるむ者たちが見たらいったいどう思うだろうか。



(俺は常に完璧だ。キッチリと型にはまりつづける生活など狂ってしまう。だから俺は弱者をはけ口にし、金と地位を最大限に活用する)



食事を終えたソリッズは絵画の飾られた長い廊下を歩き自室へと向かう。



(そうすれば俺は常に真っ白でいられる。一点の曇りなき白。汚れたのなら切り落とせばよい、それだけだ・・・だがしかし)




自室の扉を開くと、きれいな部屋には似つかわしくない男が一人立っていた。



「報告だ。対象「カイン・ソルロック」を発見し追跡。だが逃げられた。現在捜索中だ」




「なんだと?」




さっきまでの優等生面はどこへやら、眉間にしわを寄せ明らかな怒りの表情を浮かべる。



「無駄な人材がお前たちの取柄だろう?それをEランクの職人一人引っ張り出せないのか?街一番の反職組織が聞いて呆れる」




「あぁ?餓鬼があまり調子に乗るなよ?」



依頼主といえ自分よりいくつも年下の子供にここまで言われて、ただでさえ沸点の低い男の顔が真っ赤に染まらないわけがなかった。



「なんだ、役立たずがいっちょ前に口答えか?ならせめて成果を出してから言え。こっちは大金を払って依頼しているんだぞ、そのくせ捕まえられませんでした?調子に乗っているのはお前たちの方だ」



「いい度胸だ、ならこの場でお前を殺して金を持ち逃げしてやるよ。それが一番手っ取り早い!」



男が今にもソリッズにつかみかかろうとしたその時だった。




「待て!」



「!?ボ、ボス!」




突如現れた男の声に、その手が止まる。




「ガルム、居たのか」




ソリッズはその男をガルムと呼んだ。メタルフラッグのボスであろう男は、荒くれ共の頭というにはずいぶんスラッとしていた。


長すぎない黒髪に長い吊り目。全身黒で統一された衣類。


力で物を言わせるというよりは、狡猾な印象を受ける男だった。



「あまりウチのもんを苛めてくれるな。確かに金を受け取っている以上成果を上げられなかったことに対しては反論できないが、あくまで俺たちの関係は対等。この辺を間違えると痛い目を見るのはそちらさんだぜ?」



「ふん」



ソリッズが鼻を鳴らす。お互い敵意を収めたところでガルムは話を切り出した。




「時にソリッズ、お前さん俺たちに話していない情報があるんじゃないか?」




笑みを浮かべ問いかけるガルム。だがそれは上辺だけの笑みであり、目の奥で燻る眼光は畏怖を放つ狼そのもの。ソリッズの表情、挙動すべてを見逃さず捕らえんとする鋭い眼。



だがソリッズは動じない。いや、動じないよう見せる虚勢だったのかもしれない。



「何が言いたい?カマをかけるつもりなら俺も素直に答えるつもりはない」




「フッ、まぁいいさ。聞きたかったのはカインの職業の真偽。報告によれば鍵職人の癖に壁を走り屋根を伝い、俺自慢の追跡者を撒いたそうだ。そんなことは。が、仲間が嘘をつくとも思えない。実際鍵師の少年一人にこれだけの追っ手を投入して今だ連れてこれないんだからね。だとすると・・・」





「俺が支払いを渋るためにやつの職業を偽っている、といいたいんだろう」



ガルムが言わんとしている事を口にしたソリッズは、心底不快そうにため息を漏らす。




「正直俺も信じられんが、つい数日前までぼろ雑巾との見分けすらつかなかったあいつが、たった1日で見た目も力もまるで別人になっていた。だが目の前で人一人片手でぶん投げられては信じるしかない」




「ふぅん・・・」





ガルムの眼は完全に疑いの目だ。しかしソリッズの言葉に嘘偽りは無い。すべてが事実である。






「ま、信じてあげよう!仮に戦闘職であってもそこそこのお金をもらってるわけだし、俺達としても請けた仕事は最後までこなすさ。聞きたかったことはそれだけ。それじゃお暇するぜ」




そういうとガルムは仲間の一人をつれ窓から闇へと消えた。





(完璧な、真っ白な中に突然現れた染み・・・侵食し切っても離れず滲み出してくる・・・カインッ!!)





「これほどまでに俺を不快にさせるとはな・・・・・っ!!!!」






ガンッ!





殴った壁の振動でゆれた照明の灯りが、部屋をゆらゆらと泳いでいる。
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