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撫子色の夢2
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目覚めたらいつもの日常だった。
あれは夢だったのかと不思議な心地がする。戸惑いながらも朝の支度を始めると、階下から声がした。
「お姉ちゃん早く」
妹の声だ。ちょっとした違和感を覚えながら下に行くと制服姿の妹がいた。
─おかしい。
私たちはとっくに成人しているというのに…。やはりこれは夢かと思い直す。
「もう、遅いよお姉ちゃん。遅刻するよ」
邪気のない声で私を急かす妹。
「そうね。そろそろ出るわ」
気づけば会話を始めていた。
この世界についてあれこれ考えるよりその方が有意義だと思ったのだ。
「一緒に行こう?」
「嫌よ。くっつかないで。」
甘えた仕草で妹が私に抱きついてくる。
この流れもいつも通り。私は過去の行動を意識せずとも繰り返せるようだった。
ただどうしても悪意はこもってしまう。
私の婚約者を妹に寝取られたのは、まだ記憶に新しい。
─あの時の衝撃、怒り、悲しみ、虚しさ。
どれも未だありありと思い出せる。学生の妹に当たるのはみっともないと思いながら、この新たな夢の中で私はすいすいと泳ぐ。
場面は瞬く間に変わっていった。
私たちの年齢がどんどん若返っていくのだ。今はどちらも小学生。記憶があるのか身体は勝手に動いた。
「お姉ちゃんの意地悪ー!」
妹は私のものをよく欲しがった。隣の芝生は青いとはよく言うが、たとえ姉妹でも限度があるだろう。
可愛く笑い、私の持ち物をねだる妹に嫌気が差してきたのもこの頃からだ。
「自分のものを大事にした方がいいよ」
私は何度もそう言ったが、妹は聞き入れてくれなかった。終いには、両親を呼んで自分の要求を通す始末。
─ああ、妹は昔からこういう人間だったのだ
そう思って冷めた瞳で見つめた。
次に気がついた時は妹は乳児だった。紅葉のような手で私の指を握る。
純粋にかわいいなと思った。
自分一人では何もできない存在。か弱く愛らしい。そんな頃も確かにあったのだと思い出す。
次の瞬間、パシャンとシャボン玉が割れたように私は本来の年齢に戻っていた。
隣に妹はいない。両親に聞くも寝惚けているのかと言われてしまった。
この世界に妹はいないようだ。そう気づいて、とてつもない物足りなさを感じる。
一言では言い表せない感情。
愛憎入り交じった家族としての情。
確かにそんなものが私の中にあることに気づいたのだ。
同時に復讐は本人に直接しなければ、とも思った。
夢だと分かっている世界を名残惜しく感じることもなく、起きることを強く望むと目の前にまたあの男が立っていた。
「…お楽しみはどうだった?」
男が聞く。私は答えず、くそ食らえと呟いて撫子色の小瓶を床に投げつけた。
想像したような音は鳴らず、瓶は消えてしまった。
男は弁償しろとは言わなかった。
代わりに愉しそうに嗤っている。夢の対価は私の記憶なのだろうか?
私はそんな男を一瞥してから店の外に出た。
澄みきったような青。どこまでも続く空を眺めながらこれからどうやって妹に仕返しをしてやろうかと考えていた。
メインディッシュの前には前菜が必要。
手始めに元婚約者から…と思いながら緩く微笑んだ。
あれは夢だったのかと不思議な心地がする。戸惑いながらも朝の支度を始めると、階下から声がした。
「お姉ちゃん早く」
妹の声だ。ちょっとした違和感を覚えながら下に行くと制服姿の妹がいた。
─おかしい。
私たちはとっくに成人しているというのに…。やはりこれは夢かと思い直す。
「もう、遅いよお姉ちゃん。遅刻するよ」
邪気のない声で私を急かす妹。
「そうね。そろそろ出るわ」
気づけば会話を始めていた。
この世界についてあれこれ考えるよりその方が有意義だと思ったのだ。
「一緒に行こう?」
「嫌よ。くっつかないで。」
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この流れもいつも通り。私は過去の行動を意識せずとも繰り返せるようだった。
ただどうしても悪意はこもってしまう。
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─あの時の衝撃、怒り、悲しみ、虚しさ。
どれも未だありありと思い出せる。学生の妹に当たるのはみっともないと思いながら、この新たな夢の中で私はすいすいと泳ぐ。
場面は瞬く間に変わっていった。
私たちの年齢がどんどん若返っていくのだ。今はどちらも小学生。記憶があるのか身体は勝手に動いた。
「お姉ちゃんの意地悪ー!」
妹は私のものをよく欲しがった。隣の芝生は青いとはよく言うが、たとえ姉妹でも限度があるだろう。
可愛く笑い、私の持ち物をねだる妹に嫌気が差してきたのもこの頃からだ。
「自分のものを大事にした方がいいよ」
私は何度もそう言ったが、妹は聞き入れてくれなかった。終いには、両親を呼んで自分の要求を通す始末。
─ああ、妹は昔からこういう人間だったのだ
そう思って冷めた瞳で見つめた。
次に気がついた時は妹は乳児だった。紅葉のような手で私の指を握る。
純粋にかわいいなと思った。
自分一人では何もできない存在。か弱く愛らしい。そんな頃も確かにあったのだと思い出す。
次の瞬間、パシャンとシャボン玉が割れたように私は本来の年齢に戻っていた。
隣に妹はいない。両親に聞くも寝惚けているのかと言われてしまった。
この世界に妹はいないようだ。そう気づいて、とてつもない物足りなさを感じる。
一言では言い表せない感情。
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確かにそんなものが私の中にあることに気づいたのだ。
同時に復讐は本人に直接しなければ、とも思った。
夢だと分かっている世界を名残惜しく感じることもなく、起きることを強く望むと目の前にまたあの男が立っていた。
「…お楽しみはどうだった?」
男が聞く。私は答えず、くそ食らえと呟いて撫子色の小瓶を床に投げつけた。
想像したような音は鳴らず、瓶は消えてしまった。
男は弁償しろとは言わなかった。
代わりに愉しそうに嗤っている。夢の対価は私の記憶なのだろうか?
私はそんな男を一瞥してから店の外に出た。
澄みきったような青。どこまでも続く空を眺めながらこれからどうやって妹に仕返しをしてやろうかと考えていた。
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