4 / 78
2.裁きの家
①
こうしてろくに調査されることもないまま、私は王子に毒を盛った犯人とされ、『裁きの家』に送られることになった。
トランク一つ分の荷物を抱えながら、心細い思いで馬車に乗り込む。
『裁きの家』とは、現国王陛下の弟であるルナール公爵が領地のはずれに所有するお屋敷だ。
そこまで大きくはない、昔ながらの造りの灰色のお屋敷。外観だけであればただの蔦の張った古いお屋敷だが、この屋敷には悲惨な過去がある。
二十年前、この屋敷にはルナール公爵家のご子息を殺害しようとした「魔女」が幽閉されていたのだ。
彼女は本名をベアトリス・ヴィオネといった。
元は子爵家の夫人で、夫を早くに亡くしたためまだ小さい子供を養うために公爵家に侍女として働きにきたのだという。
仕事熱心で評判のよかったベアトリスだが、それは表の顔に過ぎなかった。ある日、三歳になる公爵家のご長男の世話を任されたベアトリスは、湖にその子を突き落とす。
幸い子供は通りかかった別の使用人に助け出されて無事だったが、公爵家の跡取りに危害を加えた罪は重く、ベアトリスは厳しい尋問の末、公爵家所有の屋敷に幽閉されることになった。
すぐさま牢獄に入れてもいいほどの罪だったが、幽閉で済ませたのは公爵の温情なのだと言われている。
しかし、尋問で弱っていたベアトリスは、屋敷に一人閉じ込められたことで、どんどん衰弱していく。最後には公爵家への恨みの言葉を言い連ね、幽閉から一年後に亡くなったそうだ。
その後、公爵家では不幸な出来事が続いた。公爵が病に倒れたり、長女の出産で体調を崩した夫人が亡くなったり。
また、当時屋敷に関わった人にも次々と不幸が訪れていく。
人々は、それをベアトリスの呪いだと言い、いつしか彼女は魔女と呼ばれるようになった。
その後、彼女が最後に過ごした屋敷は、法律上裁くのが難しい貴族を幽閉するのに使われるようになった。
貴族たちは幽閉されるだけで、それ以上の罰を与えられることはない。しかし、ここに入った貴族は不思議と衰弱し、幽閉前とは変わり果てた姿で帰って来るのだ。
そんなことが続くうちに、ここは人々の隠された罪を暴く、「裁きの家」なのだと言われるようになった。
おぞましい噂のたくさんある裁きの家に入ったとなれば人々は同情し、正当に罰せられたのだと認めてくれる。
正式には処罰しにくい罪を裁くのにちょうどいい場所だった。侯爵令嬢でありながら王子のカップに毒を入れた女を裁くのにはぴったりの場所だ。
……ちなみに、魔女に跡取りを殺されかけたルナール公爵家というのは、先日のお茶会に参加していたオレリア様のご実家のことだ。つまり、魔女に殺されかけたのはオレリア様のお兄様にあたる方。
オレリア様は過去に自分の家が関わった屋敷に入れられることになった私を、どんな風に見ているのだろう……。
トランク一つ分の荷物を抱えながら、心細い思いで馬車に乗り込む。
『裁きの家』とは、現国王陛下の弟であるルナール公爵が領地のはずれに所有するお屋敷だ。
そこまで大きくはない、昔ながらの造りの灰色のお屋敷。外観だけであればただの蔦の張った古いお屋敷だが、この屋敷には悲惨な過去がある。
二十年前、この屋敷にはルナール公爵家のご子息を殺害しようとした「魔女」が幽閉されていたのだ。
彼女は本名をベアトリス・ヴィオネといった。
元は子爵家の夫人で、夫を早くに亡くしたためまだ小さい子供を養うために公爵家に侍女として働きにきたのだという。
仕事熱心で評判のよかったベアトリスだが、それは表の顔に過ぎなかった。ある日、三歳になる公爵家のご長男の世話を任されたベアトリスは、湖にその子を突き落とす。
幸い子供は通りかかった別の使用人に助け出されて無事だったが、公爵家の跡取りに危害を加えた罪は重く、ベアトリスは厳しい尋問の末、公爵家所有の屋敷に幽閉されることになった。
すぐさま牢獄に入れてもいいほどの罪だったが、幽閉で済ませたのは公爵の温情なのだと言われている。
しかし、尋問で弱っていたベアトリスは、屋敷に一人閉じ込められたことで、どんどん衰弱していく。最後には公爵家への恨みの言葉を言い連ね、幽閉から一年後に亡くなったそうだ。
その後、公爵家では不幸な出来事が続いた。公爵が病に倒れたり、長女の出産で体調を崩した夫人が亡くなったり。
また、当時屋敷に関わった人にも次々と不幸が訪れていく。
人々は、それをベアトリスの呪いだと言い、いつしか彼女は魔女と呼ばれるようになった。
その後、彼女が最後に過ごした屋敷は、法律上裁くのが難しい貴族を幽閉するのに使われるようになった。
貴族たちは幽閉されるだけで、それ以上の罰を与えられることはない。しかし、ここに入った貴族は不思議と衰弱し、幽閉前とは変わり果てた姿で帰って来るのだ。
そんなことが続くうちに、ここは人々の隠された罪を暴く、「裁きの家」なのだと言われるようになった。
おぞましい噂のたくさんある裁きの家に入ったとなれば人々は同情し、正当に罰せられたのだと認めてくれる。
正式には処罰しにくい罪を裁くのにちょうどいい場所だった。侯爵令嬢でありながら王子のカップに毒を入れた女を裁くのにはぴったりの場所だ。
……ちなみに、魔女に跡取りを殺されかけたルナール公爵家というのは、先日のお茶会に参加していたオレリア様のご実家のことだ。つまり、魔女に殺されかけたのはオレリア様のお兄様にあたる方。
オレリア様は過去に自分の家が関わった屋敷に入れられることになった私を、どんな風に見ているのだろう……。
あなたにおすすめの小説
「私に愛まで望むとは、強欲な女め」と罵られたレオノール妃の白い結婚
きぬがやあきら
恋愛
「私に愛まで望むな。褒賞に王子を求めておいて、強欲が過ぎると言っている」
新婚初夜に訪れた寝室で、レオノールはクラウディオ王子に白い結婚を宣言される。
それもそのはず。
2人の間に愛はないーーどころか、この結婚はレオノールが魔王討伐の褒美にと国王に要求したものだった。
でも、王子を望んだレオノールにもそれなりの理由がある。
美しく気高いクラウディオ王子を欲しいと願った気持ちは本物だ。
だからいくら冷遇されようが、嫌がらせを受けようが心は揺るがない。
どこまでも逞しく、軽薄そうでいて賢い。どこか憎めない魅力を持ったレオノールに、やがてクラウディオの心は……。
すれ違い、拗れる2人に愛は生まれるのか?
焦ったい恋と陰謀+バトルのラブファンタジー。
いくつもの、最期の願い
しゃーりん
恋愛
エステルは出産後からずっと体調を崩したままベッドで過ごしていた。
夫アイザックとは政略結婚で、仲は良くも悪くもない。
そんなアイザックが屋敷で働き始めた侍女メイディアの名を口にして微笑んだ時、エステルは閃いた。
メイディアをアイザックの後妻にしよう、と。
死期の迫ったエステルの願いにアイザックたちは応えるのか、なぜエステルが生前からそれを願ったかという理由はエステルの実妹デボラに関係があるというお話です。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
要らないと思ったのに人に取られると欲しくなるのはわからなくもないけれど。
しゃーりん
恋愛
フェルナンドは侯爵家の三男で騎士をしている。
同僚のアルベールが親に見合いしろと強要されたと愚痴を言い、その相手が先日、婚約が破棄になった令嬢だということを知った。
その令嬢、ミュリエルは学園での成績も首席で才媛と言われ、一部では名高い令嬢であった。
アルベールはミュリエルの顔を知らないらしく、婚約破棄されるくらいだから頭の固い不細工な女だと思い込んでいたが、ミュリエルは美人である。
ならば、アルベールが見合いをする前に、自分と見合いができないかとフェルナンドは考えた。
フェルナンドは騎士を辞めて実家の領地で働くために、妻を必要としていたからである。
フェルナンドとミュリエルの結婚を知ったアルベールは、ミュリエルを見て『返せ』と言い出す、というお話です。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。