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9.魔女
②
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「リュシアン様、公爵もまとめて……」
言いかけてはっとする。リュシアン様の目には、怒りではなく悲しみの色が浮かんでいた。
「あの、リュシアン様」
「別の所に行っていようか。今俺が出て行ったら向こうも気まずいだろうしな」
「公爵のあんな言葉気にする必要はありませんよ。自分の息子を過大評価して、なんて思い上がった男なのでしょう」
「叔父上の言葉は間違ってない。俺だって、俺よりもセルジュ殿が国王になったほうが国のためになるのではないかと思うことがあるくらいだ」
お優しいリュシアン様はあの無礼者を気遣って言う。私は納得いかなかったけれど、リュシアン様に続いて廊下に出た。
「私はリュシアン様のほうが国王様にふさわしいと思います!」
「変な慰めはやめろよ。セルジュ殿のほうが俺より何もかも上なことくらい、お前もわかってるだろ」
リュシアン様はこちらを振り返らないまま言う。
「優秀なら良いというわけではないでしょう? リュシアン様は、確かにセルジュ様にはちょっと、ほんのちょっとだけ負けているかもしれませんが、その分下々の気持ちもわかってくれるじゃないですか。ほら、私みたいなクズの気持ちとか……」
私がそう言うとリュシアン様はぴたりと足を止める。振り向いたリュシアン様は驚いた顔をしていた。
「お前はもっと盲目的に俺を褒めると思った」
「盲目的に褒めた方がよかったですか……!? いえ、リュシアン様のいいところならいくらでも言えますよ。まずは……」
「いいよ、言わなくて」
言いかける私を、リュシアン様はおかしそうに笑って遮る。
「ありがとう、レーヌ」
優しい笑顔で言われ、顔が熱くなった。
やっぱりリュシアン様は素敵な人。私はずっといつまでも、リュシアン様の笑顔をそばで眺めていたい。
***
幸せな気分で目を覚ました。
リュシアン様の夢ならどんな夢でも嬉しいのだけれど、今日は幸せな思い出を夢に見れたので、余計に嬉しかった。
私は張り切って朝の支度をする。
今日で薬草を干してから三日が経った。
庭まで見に行くと、干した薬草は無事乾燥していたので、早速薬草茶作りを始めることにする。まずは最初に見つけた青い蝶のような形をした薬草を使ってみようと思う。
厨房に行き、パリパリになった薬草をハサミで切る。ハサミを入れる度に厨房に少しぴりっとした草の香りが広がった。大量にある薬草を、ひたすら細かく切り続けていく。
薬草を切り終えたら、鍋に入れて焜炉の上に置く。それから火魔法の魔石をセットして焙った。くすんだ青色をしていた薬草は、だんだんと濃い青茶色に変わっていく。
「どれくらい火にかければいいのかしら」
木製のヘラでかき混ぜながらじっと茶色くなっていく薬草を眺めた。
「ベアトリス様ー」
来てくれるかなぁと思いながら扉に向かって呼んでみる。すると空気が冷え、ベアトリス様が姿を現した。
「ベアトリス様! 急にお呼びしてすみません。今、薬草茶を作っているんです。薬草を火にかけているところなんですけれど、どれくらい炒ればいいのでしょう」
尋ねるとベアトリス様はこちらに近づいてきて鍋を覗き込んだ。
「もう火から降ろしちゃっていいと思いますか?」
ベアトリス様は首を横に振った。どうやらまだだめなようだ。
私は鍋をかき回しながら薬草をあぶり続けた。だんだんと香ばしい香りが漂い始める。ベアトリス様が私の肩を叩く仕草をした後、焜炉にはめ込まれた魔石を指さした。
「あっ、もういいんですね!」
魔石を外して火を止める。それから鍋の薬草を底の深いお皿に移した。
「本当に茶葉みたいになるんですねぇ」
自分で茶葉を作れるなんて、なんだか感動してしまう。ベアトリス様のほうを見たら、若干、本当に若干だけれど口元が緩んでいた。
言いかけてはっとする。リュシアン様の目には、怒りではなく悲しみの色が浮かんでいた。
「あの、リュシアン様」
「別の所に行っていようか。今俺が出て行ったら向こうも気まずいだろうしな」
「公爵のあんな言葉気にする必要はありませんよ。自分の息子を過大評価して、なんて思い上がった男なのでしょう」
「叔父上の言葉は間違ってない。俺だって、俺よりもセルジュ殿が国王になったほうが国のためになるのではないかと思うことがあるくらいだ」
お優しいリュシアン様はあの無礼者を気遣って言う。私は納得いかなかったけれど、リュシアン様に続いて廊下に出た。
「私はリュシアン様のほうが国王様にふさわしいと思います!」
「変な慰めはやめろよ。セルジュ殿のほうが俺より何もかも上なことくらい、お前もわかってるだろ」
リュシアン様はこちらを振り返らないまま言う。
「優秀なら良いというわけではないでしょう? リュシアン様は、確かにセルジュ様にはちょっと、ほんのちょっとだけ負けているかもしれませんが、その分下々の気持ちもわかってくれるじゃないですか。ほら、私みたいなクズの気持ちとか……」
私がそう言うとリュシアン様はぴたりと足を止める。振り向いたリュシアン様は驚いた顔をしていた。
「お前はもっと盲目的に俺を褒めると思った」
「盲目的に褒めた方がよかったですか……!? いえ、リュシアン様のいいところならいくらでも言えますよ。まずは……」
「いいよ、言わなくて」
言いかける私を、リュシアン様はおかしそうに笑って遮る。
「ありがとう、レーヌ」
優しい笑顔で言われ、顔が熱くなった。
やっぱりリュシアン様は素敵な人。私はずっといつまでも、リュシアン様の笑顔をそばで眺めていたい。
***
幸せな気分で目を覚ました。
リュシアン様の夢ならどんな夢でも嬉しいのだけれど、今日は幸せな思い出を夢に見れたので、余計に嬉しかった。
私は張り切って朝の支度をする。
今日で薬草を干してから三日が経った。
庭まで見に行くと、干した薬草は無事乾燥していたので、早速薬草茶作りを始めることにする。まずは最初に見つけた青い蝶のような形をした薬草を使ってみようと思う。
厨房に行き、パリパリになった薬草をハサミで切る。ハサミを入れる度に厨房に少しぴりっとした草の香りが広がった。大量にある薬草を、ひたすら細かく切り続けていく。
薬草を切り終えたら、鍋に入れて焜炉の上に置く。それから火魔法の魔石をセットして焙った。くすんだ青色をしていた薬草は、だんだんと濃い青茶色に変わっていく。
「どれくらい火にかければいいのかしら」
木製のヘラでかき混ぜながらじっと茶色くなっていく薬草を眺めた。
「ベアトリス様ー」
来てくれるかなぁと思いながら扉に向かって呼んでみる。すると空気が冷え、ベアトリス様が姿を現した。
「ベアトリス様! 急にお呼びしてすみません。今、薬草茶を作っているんです。薬草を火にかけているところなんですけれど、どれくらい炒ればいいのでしょう」
尋ねるとベアトリス様はこちらに近づいてきて鍋を覗き込んだ。
「もう火から降ろしちゃっていいと思いますか?」
ベアトリス様は首を横に振った。どうやらまだだめなようだ。
私は鍋をかき回しながら薬草をあぶり続けた。だんだんと香ばしい香りが漂い始める。ベアトリス様が私の肩を叩く仕草をした後、焜炉にはめ込まれた魔石を指さした。
「あっ、もういいんですね!」
魔石を外して火を止める。それから鍋の薬草を底の深いお皿に移した。
「本当に茶葉みたいになるんですねぇ」
自分で茶葉を作れるなんて、なんだか感動してしまう。ベアトリス様のほうを見たら、若干、本当に若干だけれど口元が緩んでいた。
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