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11.許さない
①
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次の日の朝、なんだかやけに早く目が覚めてしまった。カーテンの向こうの景色はまだ薄暗い。
ベアトリス様の息子さんが亡くなっているという話を思い出すと、胸が重くなった。
ベアトリス様はとてもいい人だ。
なのにお屋敷に閉じ込められてそのまま亡くなって、とても可愛がっていたであろうお子さんも子供のうちに亡くなってしまうなんて。
まだ起きるのには早いけれど、考えていると頭が冴えてもう一度眠る気にはなれなかった。着替えて一階に降りることにする。
厨房で朝食用のサンドイッチを作り、昨日余った分のお茶をカップに注いだ。カップは二つ用意する。トレーに載せて食堂まで運んだ。
食堂で一人、もそもそと黒パンのサンドイッチを口に運ぶ。
私以外に誰もいない食堂は、静かで薄暗く、心細かった。ベアトリス様がいなかったら、私は今も怯えながら過ごしていたと思う。
その時、食堂に冷たい風が吹き、ベアトリス様が姿を現した。
「おはようございます、ベアトリス様」
いつも通りの顔をするように努めて、ベアトリス様に声をかける。
「あの、そこのテーブルにベアトリス様のお茶を置いておきました。よかったら飲んでください」
ベアトリス様は、昨日の様子からお茶を飲める……というのかわからないけれど、吸収できるように見えたので、カップを向かいのテーブルに置いておいた。
ベアトリス様はカップをじっと見ている。ベアトリス様がかがんで口を近づけると、やはりお茶の色は先ほどまでよりも薄くなっていた。
「やっぱりお茶なら飲めるんですね! 明日から毎日、ここにお茶を置いておきますね」
私がちょっと元気になってそう言うと、ベアトリス様はこくんとうなずいた。
朝食が終わると、トレーを片付けて洗濯や掃除を済ます。
それが終わると、厨房に行って昨日用意したロイクさん用のプレゼントを紙袋に詰めた。今日はロイクさんが定期調査に来る日だ。
茶色の茶葉の入った瓶と、鮮やかな青色をした液体のお茶の瓶の二つ。ベアトリス様は私がプレゼントを用意する様をじっと見つめている。
紙袋に瓶を詰め終わったところで、ちょうど玄関のベルが鳴った。
「あっ、来ましたね。ロイクさん」
ベアトリス様のほうを向いて言うと、彼女は静かにうなずいてついてきた。ベアトリス様もプレゼントを受け取ったロイクさんの反応が見たいのかもしれない。
「こんにちはー、ロイクです!」
玄関の扉の前からロイクさんの明るい声が聞こえてくる。私は紙袋を片手に、ちょっとうきうきしながら扉を開けた。
「こんにちは、ロイクさん。お疲れ様です」
「ジスレーヌ様もお疲れ様です! 今日で二週間になりますね。幽閉生活、こたえていませんか?」
「大丈夫です! 結構楽しいですよ。ベアトリス様もいますし」
そう言ったらロイクさんは困ったような、複雑な顔で笑った。
ロイクさんはリュシアン様のように幽霊の話を否定しないけれど、やっぱりおかしなことを言うとは思われているのかもしれない。
今もここにいるのになぁ、と思いながらちらっと後ろを見たら、ベアトリス様はじぃっと真剣な顔でこちらを見ていた。
「そういえば、草むしりをしたって言っていましたけれど、本当にきれいになってますね! あの鬱蒼としていた庭がすっきりしていて驚きました」
「はい、そうなんです! 頑張っちゃいました」
ロイクさんは興味深そうに庭を眺めている。
「これも全て魔女のためにやっているんですか? そこまでする必要はないと思いますけれど」
「ただの自己満足ですが、ベアトリス様には少しでも綺麗なお屋敷で過ごしていただきたくて! 幽閉期間が終わるまでにはお屋敷とお庭を全部きれいにできたらなって思っています」
「へぇ、本当にあなたはお優しい方ですね」
ロイクさんはどこか歪つな笑顔で言う。また違和感が胸をかすめる。
ロイクさんは以前もベアトリス様のためにお屋敷を綺麗にしようと思うと言ったとき、嘲りを含む声で私を褒めた。
ベアトリス様の息子さんが亡くなっているという話を思い出すと、胸が重くなった。
ベアトリス様はとてもいい人だ。
なのにお屋敷に閉じ込められてそのまま亡くなって、とても可愛がっていたであろうお子さんも子供のうちに亡くなってしまうなんて。
まだ起きるのには早いけれど、考えていると頭が冴えてもう一度眠る気にはなれなかった。着替えて一階に降りることにする。
厨房で朝食用のサンドイッチを作り、昨日余った分のお茶をカップに注いだ。カップは二つ用意する。トレーに載せて食堂まで運んだ。
食堂で一人、もそもそと黒パンのサンドイッチを口に運ぶ。
私以外に誰もいない食堂は、静かで薄暗く、心細かった。ベアトリス様がいなかったら、私は今も怯えながら過ごしていたと思う。
その時、食堂に冷たい風が吹き、ベアトリス様が姿を現した。
「おはようございます、ベアトリス様」
いつも通りの顔をするように努めて、ベアトリス様に声をかける。
「あの、そこのテーブルにベアトリス様のお茶を置いておきました。よかったら飲んでください」
ベアトリス様は、昨日の様子からお茶を飲める……というのかわからないけれど、吸収できるように見えたので、カップを向かいのテーブルに置いておいた。
ベアトリス様はカップをじっと見ている。ベアトリス様がかがんで口を近づけると、やはりお茶の色は先ほどまでよりも薄くなっていた。
「やっぱりお茶なら飲めるんですね! 明日から毎日、ここにお茶を置いておきますね」
私がちょっと元気になってそう言うと、ベアトリス様はこくんとうなずいた。
朝食が終わると、トレーを片付けて洗濯や掃除を済ます。
それが終わると、厨房に行って昨日用意したロイクさん用のプレゼントを紙袋に詰めた。今日はロイクさんが定期調査に来る日だ。
茶色の茶葉の入った瓶と、鮮やかな青色をした液体のお茶の瓶の二つ。ベアトリス様は私がプレゼントを用意する様をじっと見つめている。
紙袋に瓶を詰め終わったところで、ちょうど玄関のベルが鳴った。
「あっ、来ましたね。ロイクさん」
ベアトリス様のほうを向いて言うと、彼女は静かにうなずいてついてきた。ベアトリス様もプレゼントを受け取ったロイクさんの反応が見たいのかもしれない。
「こんにちはー、ロイクです!」
玄関の扉の前からロイクさんの明るい声が聞こえてくる。私は紙袋を片手に、ちょっとうきうきしながら扉を開けた。
「こんにちは、ロイクさん。お疲れ様です」
「ジスレーヌ様もお疲れ様です! 今日で二週間になりますね。幽閉生活、こたえていませんか?」
「大丈夫です! 結構楽しいですよ。ベアトリス様もいますし」
そう言ったらロイクさんは困ったような、複雑な顔で笑った。
ロイクさんはリュシアン様のように幽霊の話を否定しないけれど、やっぱりおかしなことを言うとは思われているのかもしれない。
今もここにいるのになぁ、と思いながらちらっと後ろを見たら、ベアトリス様はじぃっと真剣な顔でこちらを見ていた。
「そういえば、草むしりをしたって言っていましたけれど、本当にきれいになってますね! あの鬱蒼としていた庭がすっきりしていて驚きました」
「はい、そうなんです! 頑張っちゃいました」
ロイクさんは興味深そうに庭を眺めている。
「これも全て魔女のためにやっているんですか? そこまでする必要はないと思いますけれど」
「ただの自己満足ですが、ベアトリス様には少しでも綺麗なお屋敷で過ごしていただきたくて! 幽閉期間が終わるまでにはお屋敷とお庭を全部きれいにできたらなって思っています」
「へぇ、本当にあなたはお優しい方ですね」
ロイクさんはどこか歪つな笑顔で言う。また違和感が胸をかすめる。
ロイクさんは以前もベアトリス様のためにお屋敷を綺麗にしようと思うと言ったとき、嘲りを含む声で私を褒めた。
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