君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭

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6.ルヴェーナ魔法学園

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 数秒間の沈黙の後、レナード様が口を開いた。

「……あのさ、メイベルさん。前に僕が、婚約者を探したくないのは魔法省に入るか迷っていること以外にも理由があるって言ったの覚えてる?」

「……? はい、おっしゃっていましたね」

 以前、レナード様が婚約者の件で揉めている際に、ラスウェル邸に行ったときのことを思い出す。レナード様はあの時、婚約者を探したくないのには将来のことを決めかねていること以外に別の理由があると言っていた。

「あれ、魔術院に気になる子がいるからなんだ」

「え……っ」

 予想外の言葉に、思わずよろめいた。

 ちっとも気づかなかった。エリアナ様の件は勘違いだったようだけれど、レナード様にはほかに好きな方がいたのだ。

 一体誰のことだろう。記憶を探ってみても見当もつかない。

「だけどその子は、魔法にひたむきでいつも一生懸命で、ほかのことは視界にも入らないみたいだった。夢に向かって頑張っているその子を邪魔することができなかったんだ」

「そ、そうなんですね……。そんな方が……」

 私は衝撃に耐えながら答える。

 レナード様にそんなに想われている方とは一体誰なのだろう。というか、それこそ私は馬鹿みたいではないだろうか。レナード様にはそこまで想ってらっしゃる方がいるのに、のん気に自分が魔術院で一番近しい存在だと思っていたなんて……。

 ショックで気が遠くなっていると、レナード様に手を握りしめられた。

「メイベルさん、いつも一生懸命な君がずっと好きだった。僕と婚約してくれないか」

「…………え?」

 言われた言葉を理解しきれないままレナード様を見る。

 今さっき魔術院に気になる方がいると言っていたのに、そこからなぜそんな話に?

「え? 今魔術院に気になる方がいるとおっしゃっていませんでしたか?」

「うん、メイベルさんのことがずっと気になってた」

 レナード様ははっきりとそう言った。

 手を握りしめられたまま、私は固まってしまった。つまり、レナード様が魔術院で気になっている人というのは私ということ……?

 理解した途端、顔が熱くなった。

「え、ええ……!? 本気で言ってますか!?」

「冗談でこんなこと言うわけないじゃないか」

「でも、だって……!」

 私なんて、元婚約者につまらないとか、お姉様のほうがいいとか言われるような人間だし。それでなくても、レナード様のような立派な方に私がつり合うと思えない。

 戸惑いながら見つめ返すと、レナード様は少し不安そうな顔になって私を見た。

「メイベルさん、僕じゃだめかな……?」

 じっと見つめられた途端、胸がきゅんと音を立てた。

 私なんてとか、釣り合わないとか、そういうことを取り払った本音はなんだろう。私は本当はどうしたいのか。

 そう考えていたら、悩むまでもなく答えはひとつしかないと気づいた。

 私はどぎまぎしながら口を開く。

「私でよければ、どうかよろしくお願いします……っ!」

「本当に!? 僕と婚約してくれる!?」

「はい、それと私も、レナード様のことが好きみたいです!」

 そう言ったら、レナード様の表情がぱっと輝いた。レナード様がまた私の手をぎゅっと握りしめて、嬉しそうにありがとうと言ってくれた。
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