君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭

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1.婚約者様は私といると疲れるらしいです

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「……入ってみようかしら」

 ブラッド様に止められたのは、ルヴェーナ魔法学園への入学だ。

 在学期間の短いこちらなら許してもらえるのではないか。いや、そもそも魔術院は国家に認められた正式な学園というわけではないので、複雑な手続きはいらない。

 入学金も格段に安いので、今までブラッド様の家の商会を手伝った際にもらった給金で足りそうだ。

 ブラッド様にも両親にも内緒で入ってしまえばいいのでは。


「……いいかも! 入ってしまいましょう!」

 私は早速張り紙に書かれた住所をメモした。

 普段の私なら、ブラッド様にも両親にも相談せず魔術院への入学を決めるなんて考えもしなかっただろう。

 しかし今の私はブラッド様に私といると疲れると言われ、どうにでもなれという気分だった。


 胸の内で決意する。これからはブラッド様を追いかけるのはやめようと。

 しばらくの間は魔術院で魔法の勉強に専念して、ブラッド様一色だった生活を変えるのだ。

 そうすれば、ブラッド様を疲れさせてしまうような重い行動をとらなくて済むようになるかもしれない。

 私は先ほどまでとは打って変わって軽い足取りでホワイト伯爵家までの道を急いだ。

 新しく浮かんだアイデアに、すっかりわくわくしていた。


***


 それから一ヶ月。

 私は無事試験に合格してラネル魔術院に入り、充実した日々を送っていた。

「すごいわね、メイベル! どこでこんな高度な魔法を身に着けたの?」

「えっ、全部独学で学んだ? すごいわ。こんな魔法が使える人、ルヴェーナ魔法学園にもなかなかいないわよ!」

 私は同じ魔術院に通うクラスメイトに驚いた顔をされ、ちょっと得意な気分になった。

 独学で身に着けた魔法だけれど、意外と外でも通用するらしいことが魔術院に入ってみてわかった。

 入学試験は満点だったし、授業の度に先生から褒められる。

 ホワイト伯爵家ではお姉様と比べられるばかりで褒められることなんて一切なかったので、磨いた技術を褒めてもらえることに日々感動していた。


「メイベル、今日は帰りに魔道具店に寄って行きましょうよ」

「魔法の杖もローブもたくさん取り揃えてあるのよ。メイベル、そういうの好きでしょう?」

「えっ、ぜひ行きたいわ!」

 私はすぐさま答える。

 魔術院の授業も、学園で出来た友達と過ごすのもとても楽しい。

 ブラッド様に突き放されて落ち込んでいた気持ちが日に日に回復していくようだった。

 思いきって魔術院に入ってみてよかったと、自分の決断に心から感謝した。
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