Sports Hitman

糸魚川叉梨有

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殺し屋特捜部④

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「ファーレン・クーグンです!よろしく!」
そう言った彼は、ハハハ!と高笑いをしながら俺の席の方に近づいてくるや否や、俺の席の隣(元々席が空いていた)にドカッと座り込んだ。

しかし、問題はそれだけだった。

それからは特に何事も無かったかのようにスラスラと会議が進んで行った。更に、カイヅカ準大将の亡骸は、ファーレンとか言う謎の男の乱入によって目立っていなかったが、いつしか誰かによって回収されたようだった。

ソープ準大将が一冊の冊子を配る。絵本のような形、厚さだ。

本当に何事も無かったのでは無いかと思っしまうほどいつも通りだった。俺だけがひたすらにソワソワしている。そういった非常事態にも対応できるように元の部署で訓練しているのだろうか。

チラッと隣の男を見る。彼は机にひっ伏して寝息を立てている。

「なんだコイツ……」

小さな声でそう言ってみるが、誰も気づくことは無い。当然、コイツが起きることもない。

ソープ準大将が言った。

「それでは、こちらの冊子をお開きください。」

全員が冊子を開く。入学試験を感じさせるような音であるが、ファーレンは一切気がついていない。

俺はどうしようか迷ったが、もし激戦になってコイツが戦死した時に隣にいた俺のせいになっても困るので勇気をだして、背中をトントンと叩いて起こしてみた。

彼はムクっと起き上がり、俺の方を睨む。まるで犯人を見つけたかのような目付き。まあ、そうなのだけれど。

「呼びましたか?」

彼は暗い声で聞いてきた。

「マニュアル読んでおかないと、戦いで死にますよ。ソープ準大将のお話、聞いておいた方が………」

と言うのを彼は遮って

「ああ、大丈夫です。読めば多分分かるので」

とだけ答えてまた夢の国へ旅立った。

俺は正直「勝手に死んでおけ」とも思ったが、それを言っていてはコイツとは接することが出来ないと思い、諦めてソープ準大将の話を聞くことにした。もし、コイツが死んで責任を問われても言い訳ができる。まあ、犯人扱いされることもないだろう。

ソープ準大将は淡々と内容を読んで行った。俺はこういうずっと話続けられるのが好きじゃないし、集中出来ない。「今回は命がかかっているのだ」と無理してでも集中しようとしたが、ファーレンの言葉もあって『後で読む』という方向に移行することにした。

とは言っても別にファーレン程馬鹿でもないので全く聞かないということは無い。大体は「ランクが分かれている」とか「一人一人『型』という物があってそれが物凄く強い」みたいに知っていることばかりだったが、一つ、鼓膜の関所を通り抜けてくる話題があった。

ソープ準大将が言っていた。

「彼らには僕らと決定的に違う場所がいくつかあります。その中でも特に違うのが『覚醒るなる』という物があります。」

覚醒る。

妙な既聴感に苛まれた。

ソープ準大将は続ける。

「彼らが覚醒る時は親指の付け根を噛み砕きます。するとそこを流れる血液が脳に逆流し、脳に異常な量の血が周り、バグを起こします。これは所謂"品種改良"で登場したもので、殺し屋の被検体を使い、あらゆる所に血を大量に流し込み、とある者は口から血を吐き死亡、ある者はその血によって体が爆発して死亡………とその被害者は約5万人にも登ります。」

全員が絶句する。元々誰も話していなかったが、空気が一変していた。

「これだけは覚えておいて下さい。今から紹介する人達には近づいては行けません。例え遭遇し、戦闘になったとしても、迷わず撤退をお願いします。」

彼はそのまま続けた。

「今から紹介する人物は全員、人物です。」

全員が一息置いた。俺もその流れに乗った。

「では紹介します。」

彼は、堂々と、そして淡々と、更に少し恐怖しながら読み上げる。

カリカリ、と皆が冊子にメモをとる。やはりまた、入学試験を思い出させた。

俺は暗記力には結構な自信があったのでメモはとらず、頭に着実に入れていった。やはり暗記が得意なのか、それは特に拒絶することなく、すんなりと頭の中へと入っていった。

隣を見る。彼は今し方頭上に落雷を食らったかのように目を見開いて、身体をガクガク震わせていた。

彼は言った。

大地アーデス!懐かしいね!」

その名を聞いた途端、脳裏で冷たく、そして暗い記憶が、その音声が湧き上がってきた。

『親指の付け根?無理よ無理。』

『行けるんじゃないか?まあ、死んでもいいし。』

『ショーはどう思う?あんた、次よ!』

『どうでもいいよ。母さん。』

『クーは?クーはどう思う?あんたもショーの次だよ?』

『どうでもいいです。母さん。』

十字架に全裸で貼り付けられた、小さな少年を、俺の脳裏は垣間見た。
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