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感謝こそされることはあっても、仇で返される覚えはない!!

親切!丁寧!をモットーに。

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ピロリロリン、ピロリロリン。
「いらっしゃいませー!」聞き慣れた入店音と共に深夜にもかかわらず、コンビニにはお客様が来店してくる。
俺は全力の愛想笑いで、親切!丁寧!をモットーに今日も真面目にバイトしていた。
俺の名前は犬塚健一、最終学歴中卒の26才アラサーフリーターだ。コンビニの深夜バイトは俺にしては珍しく3年も続いている。
前は仕事を覚えるのが不可能に思えた、レジ打ち、伝票整理、フライヤーの掃除、商品の発注…等々を淡々とこなせるようになっていた。
「いやー犬塚君がいると仕事が楽で助かるよ!」ガハハッ!と笑う同じ深夜バイトの小杉さん。彼は59才で勤続20年の大ベテランさん。頭のツルピカが今日も歴史を物語っている。
「そっすか?ありがとうございます!」そのツルピカ頭に負けないくらい、俺も最高に輝く笑顔で応えよう!
「今日は準夜勤だったでしょ?雑誌品出ししたら上がってくれて大丈夫だから」小杉さんは手をヒラヒラと振ってくれた。
準夜勤とは店にも寄るが、夜12時頃までの勤務のこと。ちなみに完全な夜勤は朝6時まで、早朝バイトさんが来るまでの勤務だ。
(やったー!!これで深夜アニメをリアルタイムで拝めるぜ!)俺は内心デッカくガッツポーズを決めた。

「お疲れ様ッしたー!」
店から出て、自転車を漕いでいく。住宅街を道なりに5分ほど漕いでいくと水道橋があり、その下を浅すぎず~深すぎず~な、なんとも微妙な河が流れていた。

「キャン!キャン!…キャン!!」

「なんだ??」グッとブレーキをかけて止まると自転車はキキィー!!と甲高い音を立てて止まった。

先程の声は橋の下から聞こえたような?
橋から下を覗き込むと段ボールが見えた。中身は…犬?!
子犬が今にも沈みそうな段ボールの中で暴れていた。
段ボールで捨て犬って、なんて古風な…ではなくて!!
いくら浅い川だと言っても、子犬が溺れるには充分すぎる。

「親切!丁寧!が俺のモットーだ!」
俺は慌てて自転車を持ち上げ方向を変えると、橋のたもとまで行った。そこから全力で土手を下り川辺まで来た。
よくテレビドラマとかでは橋から飛び降りて溺れているやつを助けたりするのがあるけれど、俺には無理。100%死ぬ。
自転車を乗り捨てると「待ってろよ!」と子犬の元まで川をバシャバシャと走って行った。
暴れる子犬を「もう大丈夫だからなー♪」と優しく包み込むように抱っこしようとした、その時。
ガブッとクリスマスチキンのように子犬に腕を噛まれてしまった。
「いってーーーー!!!?」ビックリして思わず背中から倒れ込む。
自分のたてた水しぶきで一瞬目を閉じてしまったが、すぐに腕の中にいるはずの子犬めがけてカッと鬼の形相を向けようとしたのだが…いない?
それどころか「ここは…どこですか??」
気付けば俺は牢屋の中にいた。

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