私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

文字の大きさ
5 / 101

幼馴染

しおりを挟む
イチゴのタルトを食べ終えた私は、今度はイチゴのプリンを食べながら、カフェの入り口のほうを見て、ルーファスに問いかけた。

「そういえば、アイリスとグレン、まだ来ないのかな……? どうしたんだろう? 遅いよね?」

今日は、このカフェに、私とルーファス、アイリスとグレンの4人という、いつものメンバーで一緒に来る予定だった。
でも、急に、アイリスとグレンが寄るところがあるからあとで行くって言い出したんだよね。

ちなみに、アイリスは私の親友で、私と同じ16歳。
アイリスとは5歳の時に出会って、すぐに仲良くなった。
猫の獣人で、手広く事業をしているリンド子爵家のあととり令嬢。

そして、グレンは、ルーファスと同じ17歳でクランツ伯爵家の次男。
グレンは私と同じで、獣人じゃない。

で、このふたりは幼い頃から婚約していて、グレンはアイリスの卒業を待ったあと、すぐにリンド子爵家に婿入りすることになっている。
ものすごく、しっかりしたアイリスと、おっとりやさしいグレンは、本当にお似合いなんだよね。

私とアイリスが6歳でこの学園に入ってから、自然とこの4人で一緒にいることが多くなっていった。

でも、1年後には、ルーファスとグレンが先に卒業してしまう。
卒業したら、こんなに会えないのかなあと思うと、今からちょっと寂しくなる。

しんみりしながらも、イチゴのプリンをせっせと口に運んでいると、ルーファスが言った。

「もし用が長引いたら、今日は合流できないかもしれないって、グレンが言ってたよ」

「えっ、そうなの? アイリス、なんにも言ってなかったのに」

「言い忘れたんじゃない? それより、ララ。口の横に何かついてる」

「うそ!? どこどこ……?」

私が、あわてて口の周りを手でさわろうとすると、それよりも先に、ルーファスの手がのびてきて、私の口元をなでるように優しく触れた。

「ほら、とれたよ。ララ」

そう言って、甘ったるい笑顔を見せてきたルーファス。

うん。さすがにこれは恥ずかしい……。

多分、ルーファスにとったら、私は小さな子どものままなんだと思う。
マカロンを食べさせようとするのも、そうだろうし。

私に過保護すぎて、いつだって、あれこれと世話をしようとしてくるんだよね。

すると、ついさっき、近くのテーブルにすわった見知らぬ女性たちのグループから「きゃっ!」という声が聞こえてきた。

黄色い声に、思わずため息がでそうになった。
ここは穴場的なカフェで静かなお客さんが多いから、気に入ってたのに。

これもよくあることだけど、ルーファスが落ち着けないでしょ。

そう、ルーファスはとにかく目立つし、人気がある。

銀色に輝く髪に、サファイア色をした瞳で、ものすごくきれいだから。
どこにいたって、みんなの視線を集めてしまう。

血が濃い竜の獣人である王族の方たちは、整った顔をしている方ばかりだ。
(あ、第二王子の顔は私の記憶から強制的に抹消しているので、ここにはふくんでないけどね)

でも、国王様を筆頭に、みなさん、しっかりとした顔立ちで、圧倒されるような迫力がある。

王弟でルーファスのお父様、ロイド公爵様も見た目だけならそんな感じ。
でも、お話しすると、とても気さくで優しい方だから、圧倒されるどころか、とても親しみやすくて素敵な方なんだけどね。

でも、ルーファスは王族の方々とは印象が違っている。
儚げな美貌で社交界の華だったという公爵夫人にも似てるから、ご両親のよいところが絶妙にまじりあったんだと思う。
繊細で、はっと目を奪われるような美貌なのよね。

アイリスに言わせると、「妖しい色気がもれだしていて危ない」とか言うけれど、私には、笑うと天使にしか見えない。その天使のようなきれいさが危なっかしいとは思うけどね。

なんてことを考えながら、ルーファスの顔をまじまじと見ていたら、「どうしたの、ララ?」と、小首をかしげて聞いてきた。

「改めて見ると、どこからどう見ても、きれいだなと思ってね。ルーファスは」

「そうかな……? 僕にしたら、ララのほうが、どこからどう見ても、すごくかわいいけどね」

幼馴染の欲目なのか、恥ずかしいほど、私のことを褒めまくるルーファス。
いつものことなので、「はいはい、ありがとうね」と、これまた、いつものように、適当に受け流しておく。

「本当なのにひどいな。ララが信じてくれない」

そう言って、少しすねたような顔をしたルーファス。

その途端、さっきのテーブルから、またもや「きゃあっ!」という声があがった。

「もしかして公爵家のルーファス様じゃ……」とか、なんとか、ざわざわしはじめた女性たち。
彼女たちのルーファスを見る視線が、あからさまになったのを肌で感じた。

とっさに、体が動いた。
貴族令嬢としてのマナーも完全無視で、すばやく、ルーファスのほうに椅子ごと移動していく。

そして、ルーファスと女性たちの視線をさえぎるような位置に椅子をおいて、坐りなおした。
そう、自分の体を盾にして、ルーファスを彼女たちの視線から守る感じ。

これも幼いころからの習性のようなもの。

私のお母様と、公爵夫人でありルーファスのお母様であるレーナおばさまは学生時代からの親友。
だから、物心ついた時から、そばにいたルーファス。
私には過保護なくせに、自分のことにはまるで警戒心がないんだよね。

ルーファスの美貌は年齢問わず、性別問わず、いろんな人をひきよせてしまうから、危なっかしいのに。

子どもの頃、天使より天使みたいな美少年だったルーファスは、一度、誘拐されそうになったことがある。
幸い未遂だったけれど、ルーファスがショックを受けて部屋からでてこないから、私に会いにきてほしいとレーナおばさまから連絡があった。

お母様と一緒に、すぐにかけつけた私。

レーナおばさまが「ララちゃんがきてくれたわよ」とドアの外から声をかけると、やっと顔をのぞかせたルーファス。

サファイア色の瞳に涙をうかべ、銀色のきれいな髪も、ぼさぼさになっていたルーファス。
私は号泣しながら、だきついた。

その日一日、ルーファスにぴったりくっついて、一緒にご飯を食べて、慣れないけれど、着替えを手伝ったり、髪をとかしたりした。
メイドさんたちもレーナおばさまでさえルーファスに近づけない。
多分、大人が嫌なんだと思う。だから、私がなんでもやってみた。

夕方、やっと笑顔を見せてくれるようになったルーファス。

帰らないといけない時間になり「また、明日来るね」そう言って帰ろうとしたら、ルーファスが私の手をにぎってはなさかった。

「ララ、帰らないで……。ララ、いっしょにいて……。ララがいっしょなら、ぼく、怖くないから……」

レーナおばさまが何を言ってなだめても、ルーファスは絶対に私の手をはなさなかった。
結局、私はそのまま家に帰らず、それから10日間、公爵家に滞在したんだよね。

あの時、私の手をにぎってきたルーファスの手の感触は今でも覚えてる。

そう、その時、強く思ったの。
ルーファスを私が守らなきゃって。

成長した今もその気持ちは変わらない。

すらりと背ものびて、大人っぽくなったら、ますます目立つようになり、人を魅了してしまうルーファス。
それなのに、あいかわらず、自分の美貌には無頓着で、私の心配ばかりしている。

そんな、心優しいルーファスだから、どれだけ背が伸びても、子どもの頃と同じように、私には天使に見えてしまう。

私のほうが年下で背もずっと低いし、純血の人だから、特別な能力もないけれど、私がそばにいて守らなきゃ、そう思ってしまうのよね。




※ 思ってもみなかったほど、沢山の方が読んでくださり、とても嬉しいです!
本当にありがとうございます!
お気に入り登録、エール、いいねも大変はげみになっております!!
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

番(つがい)はいりません

にいるず
恋愛
 私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。 本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。  

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】そう、番だったら別れなさい

堀 和三盆
恋愛
 ラシーヌは狼獣人でライフェ侯爵家の一人娘。番である両親に憧れていて、番との婚姻を完全に諦めるまでは異性との交際は控えようと思っていた。  しかし、ある日を境に母親から異性との交際をしつこく勧められるようになり、仕方なく幼馴染で猫獣人のファンゲンに恋人のふりを頼むことに。彼の方にも事情があり、お互いの利害が一致したことから二人の嘘の交際が始まった。  そして二人が成長すると、なんと偽の恋人役を頼んだ幼馴染のファンゲンから番の気配を感じるようになり、幼馴染が大好きだったラシーヌは大喜び。早速母親に、 『お付き合いしている幼馴染のファンゲンが私の番かもしれない』――と報告するのだが。 「そう、番だったら別れなさい」  母親からの返答はラシーヌには受け入れ難いものだった。  お母様どうして!?  何で運命の番と別れなくてはいけないの!?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

愛があれば、何をしてもいいとでも?

篠月珪霞
恋愛
「おいで」と優しく差し伸べられた手をとってしまったのが、そもそもの間違いだった。 何故、あのときの私は、それに縋ってしまったのか。 生まれ変わった今、再びあの男と対峙し、後悔と共に苦い思い出が蘇った。 「我が番よ、どうかこの手を取ってほしい」 過去とまったく同じ台詞、まったく同じ、焦がれるような表情。 まるであのときまで遡ったようだと錯覚させられるほどに。

処理中です...