(完結)いつのまにか懐かれました。懐かれたからには私が守ります。

水無月あん

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あらためて

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号泣するルドの顔は、涙でグショグショだ。

ふいてあげようにも、手元には、私が訓練後にルドから手渡された、ふかふかタオルしかない。
いくらなんでも、私が使ってるし……。

あ、そうだ! 

訓練していた場所においたままの私の赤いバッグには、使っていないハンカチが入っていたはず。まあ、こちらも、ルドが用意したものだけど。
すぐそこだから、とってこよう! と思ったけれど、ルドが私の服をがっしりとにぎったまま離さない。

仕方ない。

私はタオルの真ん中で顔をふいたし、端っこなら大丈夫だよね? 
大丈夫なはず……。私なら大丈夫……。 

という、私基準で、タオルの端っこを使って、ゴシゴシとルドの顔をふいていく。

「ごめんね、ルド。私が使ったタオルで……。でも、端っこに私の汗はついてないから、安心してね? それに、さすが、シュバイツ商会のすいとり抜群のタオル。端っこでも、ルドの涙をぐんぐんすい取っていくよ。すごいね!」

そう言いながら、ルドの涙をぬぐっていく私。

「マチルダ様の使ったタオルなら、喜んで……」
と、ルドが号泣しながら言った。

「ルド、そんなに気を使わなくていいよ? 『汚い!くさい!絶対やめて!』とか言われたら、ちょっとグサッとくるけれど、まあ気持ちはわかる。でも、使用済みタオルを、『喜んで』は、おかしいからね?」

「マチルダ様が使ったタオルなら、全く汚くなんてないです。むしろ、喜んで……」

泣きながらも、そこだけは頑固に言いはるルド。

その時、私たちのやりとりを見ていたロイスが、クッと小さく笑った。
はりつめていた表情が少しゆるんでいる。

「ルド、良かったな。いい人の従者になって。それに、俺のために、そんなに泣いてくれてありがとな。離れていても俺のことを思ってくれる人がいたと思うと、救われた気がする。それにな、お嬢……」

「え、私?」

「あの日、お嬢と勝負しただろ? お嬢にとって、俺はまったく相手にならなかった」

「まあ、そうね。はっきり言って、弱かった」

「俺は、路上の時も孤児院時代も、よくふっかけられて、ケンカをした。俺は体も大きいし、力も強いから、負けなかった。だから腕には自信があった。なのに、体の小さいお嬢とは、まるで勝負にならなかった。首に剣を突きつけられた時、なんか、色々ふっきれた気がした。ぐちゃぐちゃ考えていたことが、どうでもよくなるほど、お嬢の動きに心をもっていかれたんだ……」

「え、そうなの? それは、ありがとう!」

思わずお礼を言う私。
だって、動きをほめられるなんて、すごい嬉しい。

「同時に、俺は思い出した。小さい頃、ルドに、『ロイスは強くて騎士みたい』って言われたことを……」

「え、そうなの?」

私がルドに向かって聞くと、ルドは泣きながら、うなずいた。

「ロイスは、ぼくを、いつもかばってくれたから……。やさしくて、かっこよくて、強くて。お話にでてくる騎士みたいだって、思ってたから……」

「ああ、ルドは何度もそう言ってくれたな。今、俺は本物の騎士にはなれなくても、お嬢みたいに強くなりたい。人を助けられるような人になりたい。何かになりたいと願ったのは、この町を離れてからは一度もなかった。でも、俺は生まれ変わりたい。また、ルドと一緒にいられるような人間になりたい、そう思ったんだ。だから、何度も通って、子爵様に頼み込んだ。お嬢に借りを返すというのは口実で、お嬢のそばで、お嬢の動きを学びながら、お嬢のように強くなりたい、そう思ったから……。ルドにあんなひどいことを言ったのに、厚かましい願いだと思う。だけど、どうか、ここで護衛として働くことを許してほしい。もし、ルドが嫌なら、できるだけ、近づかないようにするから」

そう言って、ロイスが、ルドにまた頭をさげた。

ルドは、そんなロイスをじーっと見たあと、席をたち、頭をさげるロイスの前にたった。
そして、手をとった。

「ロイス。ぼくは頼りにならないかもしれないけれど、何かあったら、話してほしい。ロイスは、小さい頃、ぼくの不安な気持ちを沢山聞いてくれたよね。今度はぼくが、なんでも聞くから……」

ルドの言葉に、はじかれたように顔をあげたロイス。

「ルド。ありがとう……」

ロイスの目から涙が零れ落ちた。

「ロイス。色がかわったね。もう怖くない色だ」

「ルドは今も人の色が見えるのか……?」

ロイスは涙を手でふきながら、ちょっと心配そうな声で聞いた。

ルドがうなずく。

「あのね、ロイス。この前まで、ロイスのまとう色は暗い灰色だった。でも、今のロイスは、灰色に明るいオレンジ色がまじりはじめてる」

「……そうか」

「だから、もう大丈夫だよ。ロイス、苦しい時に一緒にいてあげられなくて、ごめん。でも、これからは、友達として、ずっとそばにいたい……」

ルドは服の上から、胸のあたりの何かをにぎって、ふりしぼるように言った。

あ、もしかして、私があげたあの魔石を握ってるのかな……?

「ルド、本当にありがとう……。こちらこそ、あらためて、よろしくな」

ロイスは涙をうかべて、微笑んだ。

ルドのように色が見えなくてもわかる。
今のロイスは、きっと、うれしい色をまとってるんだろうね。


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