(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん

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ふわふわとした浮遊感。
私は、今度こそ、死んだのね…。

そう思っていたら、わあーっという歓声が聞こえた。
目をあけると、まぶしい…。

飛び散る光がおさまると、大勢の人たちが私を見ていることに気がついた。

見慣れた光景…。そして、見たことがある人たち…。
ああ、これって、前の世界に戻って来たのね…。

「クリスティーヌ!」
そう叫んで、走って来たのは、ムルダー様だ。

え…? ふと、自分の体を見おろすと、腰までの波打つ銀色の髪が見える。

ああ、私の体に戻ったのね…。

目の前に立った、ムルダー様。
以前より、少し背が高くなってはいるけれど、それだけ。何とも思わない…。

もう、私の心からは完全に消えた人なんだわ…。

「クリスティーヌ、生きてたんだね! 良かった! 去年、君が自分を刺した時、君の体は光に包まれて消えた。そして、また、光に包まれて戻ってきた。あんなに血を流していたのに、生きて帰ってくるなんて、君こそが本物の聖女だったんだね! しかも、ぼくの18回目の誕生日を祝うパーティーに戻ってきてくれるなんて嬉しいよ。やっぱり、クリスティーヌがぼくの妃になる人だ!」
ムルダー様が、興奮気味に言った。

私の心はどんどん冷えてくる…。
一体、この人は何を言っているのかしら…?

こんな人を愛して、傷ついて、死のうとしたなんて、やっぱり、私って馬鹿だ…。
命がもったいなかったわ…。

私をだきしめようと手を伸ばしてきたムルダー様の手を振り払った。
ムルダー様がショックをうけたような顔をする。

私は静かに言った。
「私は聖女ではありませんし、ムルダー様を愛した私はあの時に死んでおります。それに、ムルダー様にはルリ様がいるじゃありませんか」

「ルリは聖女じゃなかったよ。異世界の薬を少しだけ持っていただけで、ルリ自身には何の能力もない。王太子妃教育を施しても、何も覚えられない。それでいて、わがままばかり。王太子妃になるのは無理だ。本人も嫌がり、私との婚約は解消になった。ルリを好きな伯爵に嫁ぐそうだ。だから、クリスティーヌはルリのことを何も気にしなくていいんだよ。王太子妃になってくれるよね?」

は…? 
ムルダー様の勝手な言い分にあきれすぎて、言葉がでてこない。

「お断りします」

その時、
「クリスティーヌ! ありがたく受け入れなさい!」
そう言いながら、近づいてきたのは、私の両親と妹だった人たち。

「お断りです。赤の他人が口をはさまないでいただけますか?」

「赤の他人?! 親に向かってなんて口をきくんだ!」
と、父親だった人がどなった。

「ひどいわ、お姉様! 家族なのに!」
と、悲壮感たっぷりに叫ぶのは、妹だった人。

「ひどいのは、どちらでしょう。家の為に王太子妃になるようにと言って、私にだけ厳しくした両親。甘やかされているくせに、私の物ばかり欲しがり、奪っていく妹。両親は妹とばかり出かけ、いつも、私だけ取り残され、勉強をさせられていました」

「それは、あなたのためを思って…!」
母親だった人が声をあげる。

私は無視して、話しを続けた。
「私はずっと苦しかった…。それなのに、王太子妃になれないと知ったとたん、あなたたちは、私を見限った。すぐに聖女様を養女にして、聖女様に笑いかけていた。絶望した私には、なぐさめの言葉ひとつかけなかったのに…。そんな人たちを、家族だなんて思えませんよね。自分を刺したあの時、両親に愛され、妹とも仲良くしたかった私も死にました。どうぞ、あなたたちも、私のことはお忘れください」

私の言葉を聞いたまわりの人たちがささやきだす。

「アンガス公爵夫妻、実の娘にひどいな…」

「確かに、自分の娘が婚約解消されたのに、あたらしい婚約者を養女にするなんて…」

「あげくに、また王太子妃になれると思ったら、家族面するのも勝手すぎるわよね」

「そう言えば、あの妹、わがままで有名だったよな…」

いたたまれなくなった両親と妹だった人たちは、あわてて、私の前から去っていった。

ムルダー様が泣きそうな顔になった。

「ごめん…、クリスティーヌ。でも、ぼくは、やっぱり、クリスティーヌと結婚したい。これからは、絶対に裏切らない。だから、やりなおしてもらえないだろうか!」

「ごめんなさい。ムルダー様。もう、無理なんです。何度も言うようですが、ムルダー様を愛した私は、完全に死にました」
そう言って、頭をさげた。

ムルダー様が、更に何か言おうとした。

「黙れ、ムルダー! あきらめろ! こちらの勝手で婚約を解消したのに、無理に婚姻することなどできぬ。アンガス公爵令嬢…いや、クリスティーヌ。色々、申し訳なかった。これからは、命を大事に生きてくれ」
国王様が私に向かって、そう声をかけた。

私は貴族令嬢として、国王様に最後のカーテシーをしてみせる。

そして、静まりかえった広間をつっきり、王宮の外へでようとしたとき、背後から走ってくる足音が…。

「待って、クリス!」

懐かしい声に、すぐさま振り返る。

「ライアン…!」

「ほんとに、クリスか?! 顔をしっかり見せてくれ!」
そう言って、私の顔をのぞきこんできた。

そして、ほっとしたように息をはいた。

「ほんとに、クリスだ…。生きてる…。良かった…。生きていていくれて、…本当に良かった…」
何度もつぶやくライアン。目から大粒の涙がこぼれおちる。

「ライアン…。あの時、私のために泣いてくれて、本当にうれしかった。今も、私のために泣いてくれて嬉しいわ!」
私の言葉に、更に泣きはじめたライアン。

公爵家の次男で、騎士団に入っているライアン。
たくましい体を縮こませて泣いているライアンは、小さい頃と同じだわ…。

ライアンと、はじめて会ったのは、王太子妃教育の合間に休憩にでた王宮の庭。
公爵家のライアンは、王太子様の側近候補として、同年代の高位貴族の子息たちとともに、王宮に集めらていた。
その時、大人しかったライアンは、いじめられたらしく、植物の陰で泣いていたのよね。

私は、ハンカチでライアンの涙をふいて、泣きやむまで頭をなでた。
それがきっかけで、私たちは仲良くなった。
王宮で、たまに会えば、大好きな本の話をしたっけ。

思い出したら、笑みがこぼれた。
自然に笑えたのは、いつぶりかしら…?

「ライアン、ありがとう」
そう声をかけた私の心は、とてもおだやか。

こうして、自分を犠牲にして生きる私は死にました。
これからは、自分の気持ちを大事に、そして、自由に生きていきたいと思います。


その後、アンガス公爵家と縁を切って平民になった私。
それなのに、何故か、公爵家のご子息ライアンと結婚することになるのは、また別のお話。


(完)


※短いお話が書きたい!と、急に思いたち書いてみました。
 読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださった方、ありがとうございました! 
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