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番外編
円徳寺 ラナ 2
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その頃、私の婚約が決まった。
両親から婚約が決まったと聞かされた後、初めてその相手と会った。
顔合わせの日、緊張した様子の少年が挨拶をした。
「雨ノ宮リュウです。よろしくお願いします」
少し垂れた目で優しそうな顔立ち。
「リュウ君は私が信頼している友人の息子さんだ。ラナより2歳年上で学業も優秀だ。将来、うちに婿にはいってもらって、ラナと一緒に会社を継ぐことになる。ふたりとも仲良くな」
お父様が上機嫌でそう言った。
それから、リュウ君はたびたび訪ねてくるようになった。
気を使って、いつも、何かお土産を持って来てくれる。
ルリもすぐに懐き、「リュウ君、リュウ君」と呼んで甘えるようになった。
だから、リュウ君が訪ねてきた時は、いつも3人で遊ぶ。
今日も訪ねてきたけれど、ルリはお母様と一緒に買い物に行って留守だった。
今まで、ふたりだけで会うことはなかったので、間が持たなくて、とまどっていた私。
そんな私に向かって、リュウ君が深刻な顔で話しかけてきた。
「聞いたよ。ラナちゃんは養子なんだってね」
面とむかって言われたことがなかったので、とっさに体が固まった。
もしかして、リュウ君は婚約者の私が養子と知って、がっかりしたのかも……。
そう思いながら、「うん……」と、恐る恐る答えた。
すると、私の顔色を見て、あわてて言った。
「あ、変な意味はないんだ! ただ、いつも、ルリちゃんのことをとても大事にしてるから、びっくりしただけで」
「そう見える……?」
「見えるよ! ぼくなんか、弟にちっとも優しくできないのに、ラナちゃんはいつもルリちゃんのことを優先してるだろう? すごいなって思ってたんだ」
リュウ君が感心したように言った。
思わず、体から力が抜けた。
「良かった……」
ぽろりと言葉がでた。
私、ちゃんと、役目を果たせてるんだ。
ちゃんと、ルリの姉、ラナをやれてるんだ。
じゃあ、ここにいてもいいんだよね?
「あ、ごめん、ラナちゃん! ぼくが変なことを言ったから? どうしよう、泣かせちゃった!」
リュウ君が、あわてて、ハンカチをさしだしてくれた。
え、泣いてる……?
顔をさわってみるとぬれている。
私、泣いてるの……?
この家に来てから、泣いたのは初めてだ。
ずっと、泣くことすら忘れていた。
「あっ、そうだ!」
リュウ君がポケットからリボンのかかった小さな箱を出してきた。
「あ、ルリに?」
「違うよ。ラナちゃんに似合うと思ったから買ってきた。あけてみて?」
恥ずかしそうにそう言った、リュウ君。
「え、私に……?」
驚いて私が聞くと、リュウ君が大きくうなずいた。
この家に来て、両親から、ルリのついでにプレゼントをもらうことはあっても、私だけのためにプレゼントが用意されたことなんて一度もない。もちろん、私の誕生日であっても主役はルリだから。
緊張しながら、リボンをほどいて箱をあけてみる。
小さくて、銀色に輝く三日月の飾りがついた、可愛らしい髪留めが入っていた。
「月……?」
「うん。たまたま通りがかったお店のショーウインドーで見かけて、すぐに、ラナちゃんを思ったんだ。だって、ラナちゃんって、神秘的で月っぽいイメージなんだよね。だから、似合うと思う」
そう言って、にっこり微笑んだリュウ君。
私を思って選んでくれたんだ……。
嬉しくて、胸がいっぱいになった。
息を整えて、なんとか、お礼の言葉をしぼりだした。
「あの、ありがとう。……リュウ君」
私は、今使っている、シンプルな髪留めを外し、リュウ君にもらった髪留めに変えた。
「あ、思ったとおりだ! やっぱり、ラナちゃんに似合ってる!」
嬉しそうな声をあげたリュウ君。
そんなリュウ君を見て、どきっとした。
だれかが自分を思ってくれたなんて初めてだから。
リュウ君が婚約者でよかったと思えた。
両親から婚約が決まったと聞かされた後、初めてその相手と会った。
顔合わせの日、緊張した様子の少年が挨拶をした。
「雨ノ宮リュウです。よろしくお願いします」
少し垂れた目で優しそうな顔立ち。
「リュウ君は私が信頼している友人の息子さんだ。ラナより2歳年上で学業も優秀だ。将来、うちに婿にはいってもらって、ラナと一緒に会社を継ぐことになる。ふたりとも仲良くな」
お父様が上機嫌でそう言った。
それから、リュウ君はたびたび訪ねてくるようになった。
気を使って、いつも、何かお土産を持って来てくれる。
ルリもすぐに懐き、「リュウ君、リュウ君」と呼んで甘えるようになった。
だから、リュウ君が訪ねてきた時は、いつも3人で遊ぶ。
今日も訪ねてきたけれど、ルリはお母様と一緒に買い物に行って留守だった。
今まで、ふたりだけで会うことはなかったので、間が持たなくて、とまどっていた私。
そんな私に向かって、リュウ君が深刻な顔で話しかけてきた。
「聞いたよ。ラナちゃんは養子なんだってね」
面とむかって言われたことがなかったので、とっさに体が固まった。
もしかして、リュウ君は婚約者の私が養子と知って、がっかりしたのかも……。
そう思いながら、「うん……」と、恐る恐る答えた。
すると、私の顔色を見て、あわてて言った。
「あ、変な意味はないんだ! ただ、いつも、ルリちゃんのことをとても大事にしてるから、びっくりしただけで」
「そう見える……?」
「見えるよ! ぼくなんか、弟にちっとも優しくできないのに、ラナちゃんはいつもルリちゃんのことを優先してるだろう? すごいなって思ってたんだ」
リュウ君が感心したように言った。
思わず、体から力が抜けた。
「良かった……」
ぽろりと言葉がでた。
私、ちゃんと、役目を果たせてるんだ。
ちゃんと、ルリの姉、ラナをやれてるんだ。
じゃあ、ここにいてもいいんだよね?
「あ、ごめん、ラナちゃん! ぼくが変なことを言ったから? どうしよう、泣かせちゃった!」
リュウ君が、あわてて、ハンカチをさしだしてくれた。
え、泣いてる……?
顔をさわってみるとぬれている。
私、泣いてるの……?
この家に来てから、泣いたのは初めてだ。
ずっと、泣くことすら忘れていた。
「あっ、そうだ!」
リュウ君がポケットからリボンのかかった小さな箱を出してきた。
「あ、ルリに?」
「違うよ。ラナちゃんに似合うと思ったから買ってきた。あけてみて?」
恥ずかしそうにそう言った、リュウ君。
「え、私に……?」
驚いて私が聞くと、リュウ君が大きくうなずいた。
この家に来て、両親から、ルリのついでにプレゼントをもらうことはあっても、私だけのためにプレゼントが用意されたことなんて一度もない。もちろん、私の誕生日であっても主役はルリだから。
緊張しながら、リボンをほどいて箱をあけてみる。
小さくて、銀色に輝く三日月の飾りがついた、可愛らしい髪留めが入っていた。
「月……?」
「うん。たまたま通りがかったお店のショーウインドーで見かけて、すぐに、ラナちゃんを思ったんだ。だって、ラナちゃんって、神秘的で月っぽいイメージなんだよね。だから、似合うと思う」
そう言って、にっこり微笑んだリュウ君。
私を思って選んでくれたんだ……。
嬉しくて、胸がいっぱいになった。
息を整えて、なんとか、お礼の言葉をしぼりだした。
「あの、ありがとう。……リュウ君」
私は、今使っている、シンプルな髪留めを外し、リュウ君にもらった髪留めに変えた。
「あ、思ったとおりだ! やっぱり、ラナちゃんに似合ってる!」
嬉しそうな声をあげたリュウ君。
そんなリュウ君を見て、どきっとした。
だれかが自分を思ってくれたなんて初めてだから。
リュウ君が婚約者でよかったと思えた。
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