(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん

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番外編

円徳寺 ラナ 4

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数日がたって、訪ねてきたリュウ君。

あの髪留めをルリにとられたことをどう説明しよう、と思っていると、ルリがあの髪留めをつけて、リュウ君の前に飛び出してきた。

「ほら、見て! リュウ君がラナお姉ちゃんにあげた髪留め!」

「え……、なんで……?」

リュウ君が驚いたように私を見た。

「ルリがもらったの! ルリのほうが似合うからって」

リュウ君がショックをうけたような顔で私に言った。

「そっか……。ラナちゃんの好みじゃなかったんだね。ごめん」

「違う! ルリが欲しがったから……」

私は必死に声をしぼりだした。

「気をつかわなくていいよ」

リュウ君が寂しそうに言った。

「そうじゃない! 本当に嬉しかった! でも、ルリが欲しがったから、しょうがなくて……」

リュウ君に必死で言い募る私の前に、ルリが割りこんだ。

「ほら、ルリの方が似合うでしょう? リュウ君、センスいいね! ルリ、すごく気に入ったよ! リュウ君、ありがとう!」

甘えた笑顔で、リュウ君にお礼を言うルリ。

そんなルリを見て、悲しそうな顔をしていたリュウ君がふっと微笑んだ。

ルリに向けられたリュウ君の笑顔に心がずきずきと痛む。

それ以来、リュウ君からプレゼントをもらうことはなくなった。



それから7年。
私は20歳になり、大学に通っている。

そして、ルリは16歳となり、今やすっかり健康になった。
お医者さんからもお墨付きをもらっている。

なのに、時折、仮病を使う。
そのたびに、まわりは大騒ぎをする。

すっかり、あざとい少女に成長してしまったと思う。

私は相変わらず、ルリを最優先にする生活を送っている。
大学も家から通い、もちろん、一人暮らしなどは許されない。
ルリのそばにいて、ルリに尽くす人生だから。

そして、今では、私もルリもリュウ君ではなく、リュウと呼んでいる。
そのリュウもまた、ルリのことを体が弱いと思い込み、ルリの仮病に大騒ぎするひとりになった。

今日も、婚約者の私に会いにきたというよりは、ルリに会いに来たのだろう。
椅子にすわる二人の距離は近く、楽しそうに話をしている。

今では、見慣れた光景だけれど、やはり、胸がチクッとした。

なんで、この二人が婚約者でないんだろう。
こんなことなら婚約者を変えてもらいたい。

でも、私からそんなことを言うことはできない。

何故なら、私は、リュウの婚約者でいないといけないから。
結婚して、一緒に会社を継いでいくのはルリではなく、ラナである自分。
ルリに負担がかからないように、私が仕事をする。
それが、ラナとしての私の役目だから。

とはいえ、仲がいいふたりの様子を見るのはつらい。
一生懸命がんばっていたあの時、ラナとして私を初めてほめてくれたリュウだから信じたかったんだけどね……。


翌日、ぐったりして大学に行った。

ぼんやり歩いていると、「円徳寺!」と、声をかけられた。

振り返ると、森野君がいた。

「あ、おはよう……」

背の高い森野君が背をかがめて、私の顔をのぞきこんだ。

切れ長で涼し気な目が心配そうに私を見ている。

私は無理に笑顔をつくった。
森野君は顔をしかめた。

「また、あの妹か? いいかげん、あの女から離れろ。円徳寺は、あの女、……いや、あの家族の奴隷じゃない。もし離れるなら、協力するけど?」

「ううん、まだ大丈夫だから。ありがとう、森野君」

私は無理やり微笑んで、首を横にふった。

そう、森野君だけは私の事情を知っている。
養女だということも。

それは、唯一の友人だから。


森野君に出会ったのは高校時代。
同じ高校の同級生だった。

養女に入ってから遊ぶ暇もなく、ルリの世話と勉強だけをしてきた私。
友人はできなかった。

そんな私の唯一の趣味は読書。

ルリを気にせずにいられる学校で、図書室の本を読むのが気晴らしになっていた。
そのために、私は図書委員になった。
同じく図書委員だったのが森野君だ。

森野君は私が読んでいる本を見て声をかけてきた。

最初は、壁をつくっていた私だが、森野君は気持ちのいい人で、気がついた時には、もう壁がくずれていた。

私とは比べものにならないくらい、沢山の本を読んでいる森野君。
おすすめの本を教えてもらい、その本を読み、感想を語りあうのが、とても楽しかった。

そんな時、家族で、パーティーに参加することになった。
そこで、森野君にばったり会った。

なんと、森野君は両親の会社の取引先である大きな会社の御曹司だった。

すらりと背が高く、整った容姿の森野君。
ルリが色めき立ち、即刻すりよっていったが、すっとかわされていた。

それでも、更に近寄ろうとしたところを、顔色を悪くしたお父様にひきとめられていた。
森野君のご両親が、ルリを冷たい目で見ていたからだ。

森野君は、ルリの前で、私と友人だという様子はおくびにもださなかった。

もし、ルリに友人だとばれていたら……と考えるだけでゾッとする。

家に帰ってから、お父様に森野君に会わせるよう、何度もねだっていたルリ。

お父様は渋い顔でつっぱねた。

「それは無理だ、ルリ。森野さんのご子息はあきらめろ。森野家を怒らせたら、うちの会社が危ない」

ルリの言うことは何でも聞くお母様も、この時ばかりは、ルリをなだめて、気をそらさせていた。

良かった……。

森野君がルリに奪われなくて。
森野君だけはルリに関わってほしくない。
森野君は私のかけがえのない友達だから。





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