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番外編
円徳寺 ラナ 7
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ラナは私のクローゼットに視線を合わせて言った。
「ねえ、ラナお姉ちゃん。水色の小さなバッグ、持ってたよね? ルリにちょうだい」
やっぱり、思ったとおり。私の持ち物が欲しい時の顔だと思った。
私はすぐに、クローゼットから水色のバッグをだして、ためらうこともなくルリに手渡した。
ルリが欲しがった物はすぐにあげる。
リュウにもらった髪留めをとられて以来、私の物はルリの物なんだと思うことにした。
そう思えば、何をとられようが、感情は動かない。
それに、養女の私の持ち物は両親に買ってもらっている。そう思えば、やっぱり、ルリの物なんだろう。
水色のバッグを手に、満面の笑みをうかべるルリ。
「ありがとう、ラナお姉ちゃん! 他の物も見ていい?」
「どうぞ」
クローゼットをあさりだすルリ。その姿が、まるで未知の生き物に見えた。
だって、ルリは沢山お小遣いをもらい、服もバッグも沢山買っているのに、私が使っている物まで欲しいなんて、不思議すぎる……。
一通り見終わったらしいルリが、がっかりしたように言った。
「なんか地味な物ばっかりだし、服もバッグも少ないよね」
「私は地味な物が好きだから」
そう答えたけれど、好きな色は、本当はブルー。
でも、私にとって必要な物は、できるだけ長く使いたい。
だから、自然と、ルリが手にとらない地味な色を選んでしまう。
用も終わったのなら、早く出て行ってほしい。
と、思ったけれど、ルリは、ドスっと椅子にすわった。
こういう時は、話を聞いてほしい時なんだよね……。
話の内容は、だれかへの不満を言うか、何か自慢したいことがあるか……。
と思ったら、水色のバッグを抱えて、意味ありげに微笑んだ。
あ、自慢のほうね……。
長くないといいなあ。まだ、森野君からもらった資料を読みたいし。
でも、私から出て行ってというのはご法度だ。
お母様に言いつけられたら、「姉なのに、ルリの話を聞いてあげないの?」と、私が叱られる。
勉強中であろうが、何をしてようが、ルリが話をしたい時は聞く。
というのが、ラナとしての基本ルールだ。
「あのね、この水色のバッグを持って、明日、リュウと舞台を見に行くの」
「え、リュウと……?」
「チケットがとれない人気の舞台なんだよ! いつも、ラナお姉ちゃんは勉強で忙しいから、ルリを誘ったんだって。リュウも、婚約者のラナおねえちゃんを誘わないで、ルリを誘うなんて、ひどいよね。でも、その舞台、ルリの好きな俳優がでるから見たかったの。だから、一緒に行くことにした。ごめんね。ラナお姉ちゃん」
と、謝罪の言葉とは裏腹に、優越感たっぷりの顔で私を見るルリ。
「……そう。私は別に気にしないわ。ルリ、楽しんできてね」
ルリの顔がたちまち不満そうな顔に変わった。
「なーんだ、やきもち、焼かないんだ。つまんないの。でも、ラナお姉ちゃん。安心して。私、リュウのこと、好みじゃないから。とったりしないし」
「え……? あんなに仲良さそうなのに、好きじゃないの……?」
驚きすぎて、思わず、本音がでてしまった。
「だって、リュウの顔って、普通じゃない? 私、面食いだから、前にパーティーで会った森野さんみたいな、美形がいいんだよね。あ、でも、ずっと前、リュウがラナお姉ちゃんに髪飾りを送った頃、あの時のリュウはかっこよく見えたんだけど。今は、ルリのことが好きみたいで、そうなると、かっこよく見えないんだよね……。ほら、この前、しつこかった男の子もそう。クラスの女の子の彼氏だった時はかっこよくみえたけど、いざ、ルリの彼氏にしたら、全然かっこよくなくて、すぐに別れたんだ。そしたら、しつこくされて……。クラスの女の子たちには、逆恨みされるし、ほんと、ひどいよね」
と、ブーブー文句を言うルリ。
その後も、ひとしきり、クラスの女子たちの悪口を言ったあと、「じゃあ、明日は、お留守番のラナお姉ちゃんにお土産買ってくるね!」そう言って、部屋から出て行った。
リュウが婚約者の私ではなくてルリを誘った。
リュウの気持ちは、やっぱり、ルリにあるのよね。
うすうすわかっていたことだけれど、ルリの口からはっきり聞くと、気持ちがずっしりと重くなる。
いくらラナの役目とはいえ、リュウと結婚してやっていけるんだろうか……。
次から次へと嫌な考えばかりが浮かんでくる。
気を紛らわそうと、森野君からもらったイギリス留学の資料を隠していた本棚からとりだして、読みはじめた。
リュウともルリとも離れて留学をする。
そう考えると、荒れていた心が凪いでいく。
留学に行きたい! そんな強い思いがわきあがってきた。
もし、私が行きたいと言ったら、森野君がなんとかしてくれると言っていたけれど、本当に、甘えてみてもいいのかな……?
「ねえ、ラナお姉ちゃん。水色の小さなバッグ、持ってたよね? ルリにちょうだい」
やっぱり、思ったとおり。私の持ち物が欲しい時の顔だと思った。
私はすぐに、クローゼットから水色のバッグをだして、ためらうこともなくルリに手渡した。
ルリが欲しがった物はすぐにあげる。
リュウにもらった髪留めをとられて以来、私の物はルリの物なんだと思うことにした。
そう思えば、何をとられようが、感情は動かない。
それに、養女の私の持ち物は両親に買ってもらっている。そう思えば、やっぱり、ルリの物なんだろう。
水色のバッグを手に、満面の笑みをうかべるルリ。
「ありがとう、ラナお姉ちゃん! 他の物も見ていい?」
「どうぞ」
クローゼットをあさりだすルリ。その姿が、まるで未知の生き物に見えた。
だって、ルリは沢山お小遣いをもらい、服もバッグも沢山買っているのに、私が使っている物まで欲しいなんて、不思議すぎる……。
一通り見終わったらしいルリが、がっかりしたように言った。
「なんか地味な物ばっかりだし、服もバッグも少ないよね」
「私は地味な物が好きだから」
そう答えたけれど、好きな色は、本当はブルー。
でも、私にとって必要な物は、できるだけ長く使いたい。
だから、自然と、ルリが手にとらない地味な色を選んでしまう。
用も終わったのなら、早く出て行ってほしい。
と、思ったけれど、ルリは、ドスっと椅子にすわった。
こういう時は、話を聞いてほしい時なんだよね……。
話の内容は、だれかへの不満を言うか、何か自慢したいことがあるか……。
と思ったら、水色のバッグを抱えて、意味ありげに微笑んだ。
あ、自慢のほうね……。
長くないといいなあ。まだ、森野君からもらった資料を読みたいし。
でも、私から出て行ってというのはご法度だ。
お母様に言いつけられたら、「姉なのに、ルリの話を聞いてあげないの?」と、私が叱られる。
勉強中であろうが、何をしてようが、ルリが話をしたい時は聞く。
というのが、ラナとしての基本ルールだ。
「あのね、この水色のバッグを持って、明日、リュウと舞台を見に行くの」
「え、リュウと……?」
「チケットがとれない人気の舞台なんだよ! いつも、ラナお姉ちゃんは勉強で忙しいから、ルリを誘ったんだって。リュウも、婚約者のラナおねえちゃんを誘わないで、ルリを誘うなんて、ひどいよね。でも、その舞台、ルリの好きな俳優がでるから見たかったの。だから、一緒に行くことにした。ごめんね。ラナお姉ちゃん」
と、謝罪の言葉とは裏腹に、優越感たっぷりの顔で私を見るルリ。
「……そう。私は別に気にしないわ。ルリ、楽しんできてね」
ルリの顔がたちまち不満そうな顔に変わった。
「なーんだ、やきもち、焼かないんだ。つまんないの。でも、ラナお姉ちゃん。安心して。私、リュウのこと、好みじゃないから。とったりしないし」
「え……? あんなに仲良さそうなのに、好きじゃないの……?」
驚きすぎて、思わず、本音がでてしまった。
「だって、リュウの顔って、普通じゃない? 私、面食いだから、前にパーティーで会った森野さんみたいな、美形がいいんだよね。あ、でも、ずっと前、リュウがラナお姉ちゃんに髪飾りを送った頃、あの時のリュウはかっこよく見えたんだけど。今は、ルリのことが好きみたいで、そうなると、かっこよく見えないんだよね……。ほら、この前、しつこかった男の子もそう。クラスの女の子の彼氏だった時はかっこよくみえたけど、いざ、ルリの彼氏にしたら、全然かっこよくなくて、すぐに別れたんだ。そしたら、しつこくされて……。クラスの女の子たちには、逆恨みされるし、ほんと、ひどいよね」
と、ブーブー文句を言うルリ。
その後も、ひとしきり、クラスの女子たちの悪口を言ったあと、「じゃあ、明日は、お留守番のラナお姉ちゃんにお土産買ってくるね!」そう言って、部屋から出て行った。
リュウが婚約者の私ではなくてルリを誘った。
リュウの気持ちは、やっぱり、ルリにあるのよね。
うすうすわかっていたことだけれど、ルリの口からはっきり聞くと、気持ちがずっしりと重くなる。
いくらラナの役目とはいえ、リュウと結婚してやっていけるんだろうか……。
次から次へと嫌な考えばかりが浮かんでくる。
気を紛らわそうと、森野君からもらったイギリス留学の資料を隠していた本棚からとりだして、読みはじめた。
リュウともルリとも離れて留学をする。
そう考えると、荒れていた心が凪いでいく。
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