(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん

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番外編

円徳寺 ラナ 8

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翌日の夜、お手伝いさんが私を呼びに来た。応接室まで来るようにと、お母様の伝言だ。
イギリスの留学資料を読んでいた私は、応接室に急いだ。

お母様が私を呼び出す場合は、ほとんどルリ関係の話がある時。
急いだほうがいいのは、身に染みている。

応接室の前まで来ると、楽しそうな話し声がした。

「失礼します。お呼びですか、お母様?」
と言いながら、応接室に入った。

ルリとリュウとお母様がいた。

ああ、そうか。二人は舞台を見てきたのよね。

「リュウ君がルリを送って来てくださったのよ。婚約者のあなたからも、リュウ君にお礼を言って」
と、お母様。

婚約者なのに、誘われなかった私がお礼を言うの…?

苦いものが走ったけれど、お母様の言うことは絶対。
言われたとおりにする。

「リュウ、ルリを送ってくれてありがとう。ルリ、楽しかった?」

「すごく楽しかったよ! ね、リュウ」
と、隣に座っているリュウにすりより、甘ったるい笑みを浮かべたルリ。

距離も近いし、どう見ても、二人のほうが婚約者みたい。

ルリは好みじゃないとか言っていたけれど、好きでもない男性にこんな態度がとれるのかな…?

リュウが嬉しそうに、ルリに向かって、うなずいた。

が、すぐに申し訳なさそうな顔で、私を見て言った。

「ごめんね、ラナ…。ラナはいつも忙しそうだから、ルリを誘ったんだ。今度、うめあわせを…」
リュウの言葉をさえぎって、私は言った。

「あ、別に気にしてないから。埋め合わせなんて考えなくていいよ。ルリが楽しかったのなら、本当に良かったわ」

確かに、嫌な気持ちもするけれど、さっきまで、留学に思いをはせていたからか、いつもほど苦しくはない。
だから、二人にむかって、にっこりと微笑んだ。

何故か、私の笑顔を見て、リュウが傷ついたような顔をした。

隣のルリは不満そうな顔をしている。が、次の瞬間、わざとらしく悲しそうな顔を作った。

あ、嫌な予感…。と思った瞬間、ラナが泣きそうな声で言った。


「ラナお姉ちゃん、そんなに強がって…。やっぱり、リュウがルリを誘ったから、怒ってるんだ…」

え…? なんで、そうなるの?

茫然とする私の前で、ルリの変な芝居は続く。

「あ、そうだ! 今度は三人で行こうよ。ねえ、リュウ。いいでしょう?」

は? 三人で? それは、やめてほしい…。だって、こんな状態の二人をずっと見続けるってことよね? 

「ルリ! 私のことは気を使わなくていいから」
あわてる私を見て、一瞬、にやりとしたルリ。

「ううん。やっぱり、私、三人で遊びに行きたい! ねえ、リュウ、そうしよう?!」
と、リュウの腕をつかんで、甘えた顔で言った。

「あ…、ああ」
ルリに押されたように、リュウが答える。

どうしよう…。それだけは絶対に嫌だ…。

なんとか、断らないとと思い、必死で言い募る。

「それなら、また、リュウとルリ、二人で行ってきて。私は、勉強が忙しいし」

「ラナお姉ちゃん、そんなにルリと行くのは嫌なの…?」
と、芝居がかった顔で、つらそうに言うルリ。

「そうじゃないわ。でも…」
と言いかけた私の言葉を、「ラナ」と、厳しい声が遮った。

もちろん、お母様だ。

「ルリがあなたのためを思って言っているのよ? ルリのためなら、勉強は、一日くらい休んでも大丈夫でしょう?まさか、断ったりしないわよね?」
お母様が有無を言わせない強さで私に言った。

「…はい」
力なく答えた私。

すると、お母様はルリを愛おしそうに見た。

「本当にルリは、姉思いで、優しい子ね。そう思うでしょう、リュウ君?」

「はい! もちろんです!」
リュウが一も二もなく、お母様に賛同している。

「楽しみだね、ラナお姉ちゃん」
そう言って、微笑んだルリの目が、やけにぎらぎらしていた。




逃げるように部屋に戻った私。
もやもやとした気持ちを紛らわせるため、留学の資料をだして、ながめはじめる。

そのとたん、森野君の声が、よみがえってきた。

「行きたいか、行きたくないかで答えてくれ」

そう、森野君は、私の気持ちを聞いてくれる。

でも、この家では、だれも私の気持ちを聞いてくれようとはしない…。
私だけ異物だから…。

もし、許されるのなら、留学に行ってみたい…。
そして、この家から離れてみたい…。そう強く思った。



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