(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん

文字の大きさ
101 / 135
番外編

円徳寺 ラナ 45

しおりを挟む
「この剣の持ち主は……あなたですよ」
と告げた占い師さんの言葉が、頭の中で、繰り返される。

違う、私じゃない! 
そう言いたいのに、何故だか、こちらに向けられた剣の柄を握りたくなってしまう。

すると、ベール越しに、また、占い師さんが言った。

「さあ。この剣を手に取ってください。手遅れにならないうちに」

「手遅れ? それって、どういう意味ですか……?」

「界を渡ったこの剣が使える時間には限りがあるからです。剣が元の世界を忘れてしまえば、その剣はただの剣になってしまう」

「は? 界を渡る……? 一体何を言ってるんですか……?」

「つまり、この剣は、あなたの世界の物ではない」

「全然意味が分からない……。なにより、あなたは一体誰なんですか!?」
混乱して、大きな声をあげてしまった私。

次の瞬間、ぶわっと脳裏に男性の顔が浮かんだ。
グリーンの瞳の、やけに美しく華やかな顔立ちの人。

燃えるように真っ赤な髪の色だけは占い師さんと同じだけれど、まるで別人。
でも、さっきから聞こえる声とその顔が、私の中で一致した。

ベール越しに、その声は更に私に訴えかけてくる。

「あなたの傍に、内側に違う存在が入っている者がいる。その存在は、あなたの世界にいてはいけない。本来の世界に戻らなければならない。あなたが、この剣を使ってくれれば、後は剣が、その存在を元の世界へと道案内ができる。……こう言えば、あなたなら、その人物が誰かわかるはずですよね?」

その瞬間、ルリの顔が浮かんだ。
記憶を失ってから、まるで別人のようになったルリ。

この人の言ったように、中身だけが別の世界から来た別人だったとしたら……。
今までの違和感も全て腑に落ちる。

つまり、その人が違う世界へ戻ってしまうと、また、本当のルリが戻ってくるってことよね。
前の生活に戻ってしまう。

「そんなの嫌……」
思わず、本音が口からでた。

「気持ちはわかります」

「え?」

「いえ、なんでもありません……。が、今、あなたのまわりは歪んだ状態です」

「……それは、どういうことですか?」

「あなたのそばにいる人間は、内側だけが違う存在であっても、同じ外側の体が、2つの世界にある状態です。そして、内側の存在の体はどちらの世界にもない。つまり、界を渡った二人の人間の時空が歪んでしまっているということ。そんな状態の存在と関わっていて、今、あなたが表面上、穏やかな日々を感じていたとしても、それは歪んだ時空の上にある仮初の状態。いつ、どうなるかはわからない」

「……」

「それに、あなたの近くにいる存在は、そちらの世界にいても、傷ついた心が真に救われることはない。そして、こちらの世界に迷い込んだ者も、報いを受けるのは、こちらの世界ではない。元いた世界で、己のしでかしてきたことに向き合うべきだ」

やっぱり、ルリのことだ……。
そう、確信した。

「その二人に関わっているあなたを、この剣は選んだのです。おそらく、あなた自身も歪んだ縁は切れるはず。……ここからは、私自身の願いになりますが、私の弟は、今、あなたの近くにいる存在を、身を削りながら、ずっと待っています。弟のためにも、なんとしてでも帰ってきてもらいたい……」

今までの冷静な声と違って、やけに人間らしく聞こえた。
弟さんのことを、とても心配していることが伝わってくる。

「あの……、今、ルリの中に入って……いえ、こっちに来てしまった方のお名前はなんていうのですか?」

「クリスティーヌ嬢です」

「クリスティーヌさんって言うのね……」

その名前を聞いた途端、しっくりきた。

私は、クリスティーヌさんがルリの体に入ってからの穏やかになった日々を思いだす。
優しくて素敵な女性だと思う。

何があって、ルリの体に入ったかはわからないけれど、元いた世界には、そんなにも、クリスティーヌさんを待っている人がいるんだね。

確かに、クリスティーヌさんは、ここでルリの体に入ったままで過ごすより帰ったほうがいい。
私に穏やかな日々をくれたクリスティーヌさんには、幸せになって欲しいから。

私の覚悟が決まった。

歪んだ世界を正す為などではなく、クリスティーヌさんの為に、私ができることをしたいと思った。

「わかりました。やってみます。この剣で刺しても、刺した相手は傷はつかないのですよね?」

「ええ、もちろんです。歪んだ一切を断ち切り、あるべきところに戻すだけです。剣の柄に紫色の石があるでしょう?」

剣に目を向けると、紫色の石が異様なほど光っている。

「はい、ありますが……」
と、石を見ながら答えた。

「それは魔石です。私はその魔石を通して、今、あなたを見て、近くの者の口を借り、会話をしている。だが、界を超えてそれができるのも、これが限界。もう、これ以降、話すことはできません。最後に、せめてもの感謝の気持ちを込めて、あなたがこの剣を使う時、私の魔力でもって、あなたに全力の加護を注ぐように魔石にこめておきます。この剣を使って、あなた自身も自由になりなさい。ラナ……いや、魂と音が違うな……。ハナ……」

え、なんで、その名前を……!? 

と、その時、「うわあっ!」と、目の前で声がした。
占い師さんが、ひったくるようにしてベールをぬいだ。

「ねえ、今、私、なんか憑依してたよね!? 意識がとんじゃって、全然、わからなかったんだけど!? 何が起こったの!?」
と、興奮気味に聞いてくる占い師さん。

が、私は、答えることもせず、ただ、とまどっていた。
というのも、あの声に「花」と呼ばれたことで、私の心の奥で閉まっていた何かが開いたような気がしたから。





※リアルのほうがバタバタしていて、更新が大変遅くなりました。すみません! 
そんな不定期な更新のなか、読んでくださっている方には感謝しかないです。本当にありがとうございます!
お気に入り登録、ご感想、エールもありがとうございます! 大変、励みになります!
しおりを挟む
感想 467

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 一度完結したのですが、続編を書くことにしました。読んでいただけると嬉しいです。 いつもありがとうございます。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

もう何も信じられない

ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。 ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。 その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。 「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」 あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。

処理中です...