(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん

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番外編

ラナから花へ 17

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電話にでたとたん、スピーカーから、お母様の叫ぶような声が聞こえてきた。

「ラナ! あなた、今、どこにいるの!? なんですぐに電話にでないの!?
ルリがこんなに大変なことになってるのに、付き添わないで、なにしてるのよ! 
まさか、のんきに大学に行ってるんじゃないでしょうね!? お父様が行っていいと言ったらしいけれど、そんな場合じゃないことくらいわかってるでしょう!? 
ラナ、あなた、一体、どういうつもりなの!? 今すぐ、病院に来なさい! 
……ちょっと、ラナ! 聞いてるの、ラナ!? 返事をしなさい、ラナ!」

お母様の怒りに満ちた声が、「ラナ」と連呼しながら、私の心にずかずかとはいりこんできた。
私の心を踏みつけながら、ラナを捕まえようと暴れまわる、お母様の声……。

気が付けば、勝手に体が震えだしていた。
何か言わなきゃと、と思っても、のどがつまって、声がでてこない。

怒るお母様を前にしたら、ただ怯えるしかなかった、小さなラナに戻りそうになってしまう。

その時だ。

背中にあたたかいものがあたった。

手……?

ふと、横を見ると、にっこり微笑む春さん。
春さんが手をのばし、私の背中をしっかりと支えてくれていた。

あたたかい……。

そえられた手から、あたたかいものが、ふるえる体に流れ込んでくる。

すると、反対側から、今度は、森野君がささやいてきた。

「花……。花は、もうラナじゃない。花なんだ」

森野君のあたたかい声がしみこんできて、私の心を荒らしていた、お母様の声をかき消していく。

あ、そうか……。私は、花なんだ……。
お母様に認めてもらえるように、言うことを聞く必要なんてないんだ……。

それに、私は、もうひとりぼっちじゃない。

今だって、外側からは春さんの手が、内側からは森野君の声が、私のお母様を恐れる気持ちを消していってくれている。
私には、こんなに心強い味方がふたりもいる。

そう思ったら、完全に体の震えがとまった。

私は大きくひとつ呼吸をしてから、口をひらいた。

「ちゃんと聞いています、お母様……。でも、私は、病院には行けません……。というか、行きません……」

「な……ラナっ……!?」
と言ったまま、黙ってしまったお母様。

今まで、お母様の言うことに、反論したことは一度もなかった私。
驚いているだろう気配が、電話ごしにも伝わってくる。

が、すぐに、
「ラナっ! あなた、自分が何を言っているのか、わかって言っているの!?」
と、怒りのあまり、更に興奮したお母様の声が聞こえてきた。

「……はい、わかっています。でも、病院には行きませんし、……私は、もう、お母様の言うことには従いません」

短いけれど、さっきよりは、しっかりと大きな声がでた。

沈黙のあと、お母様が、いくぶんトーンダウンした声で言った。

「……ああ……なるほど、わかったわ。あなたの気持ちが……。ラナ、あなた、ルリを守れなかった責任を感じて、ルリの顔が見にこれないのね? ラナの役目が果たせなかったから、申し訳なくて、逃げているのよね? 
まあ、確かに、その気持ちはわかるわ。ラナとして、一番大事なこと。ルリを守れなかったんだもの。そのためだけに、あなたをひきとって、養女にしたのにね」

「あ……!? 何言ってんだ、こいつ……!」
と、地をはうような低い声で、つぶやいた森野君。

「まだ、だめよ、守。今は、耐えなさい」

森野君にささやくように注意する春さんの声にも、また、怒りがこもっていた。

そんなふたりの声が聞こえていないお母様。私に向かって、今度は、妙に明るい声をだして言った。

「ねえ、ラナ……。あなたに、挽回のチャンスをあげるわ」

「挽回……?」

お母様の言ったことが理解できずに、とっさに聞き返してしまった私。

「そうよ、ラナ。あなたは、当然、ルリを守れなかったことを悔やんでいるわよね。
だから、ラナ。あなたは、ルリの姉として、ルリのためになることをして挽回しなさい。そのためには、ラナにやってもらいたいことがあるのよ。……あなた、ルリから何か聞いていないの? ルリを突き落した女のこと」

え……? 

つまり、それは、彼氏をルリに取られた女子生徒のことを言っているのよね?

なんで、私に聞くんだろう……? 
時間が戻る前は、お母様にそんなことを一度も聞かれなかったのに……。






※ 読んでくださった方、本当にありがとうございます!
ご感想、エール、お気に入り登録もありがとうございます! 大変、励みになっております!

3月に入ったとたん、リアルがあわただしくなり、また、間があいてしまいました。
不定期な更新で、読みづらくてすみません……。

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