悪役令嬢? いえ、私、先回り令嬢です!

水無月あん

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強制力に負けない

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ふと隣をみると、お父様が固まったまま。
余程、ニューバージョンのシャノンに驚いているんだと思う。

ということで、お父様はそのまま放置して、アイリーンさんとマリアンヌちゃんを見た。

すると、アイリーンさんが空虚な瞳で私を見ながら言った。

「アイリーンと申します。よろしくお願いします」

マンガの記憶同様に心はここにないようで、顔は美しいのに生気がまるでない。

「マリアンヌです。よろしくお願いします」

私を見定めようとしているのがびしびしと伝わってくるマリアンヌちゃん。

でも、今の私は日本で高校生をしていた前世がまじっているからね。

マリアンヌちゃんがいくらツンツンしていても、かわいい美少女にしか見えない。
思わず、にこっと微笑むと、マリアンヌちゃんが嫌そうに顔をしかめた。

そんな状況で、夕食ははじまった。

さっき思い出したマンガの中では、この食事場面は、ほぼ無言だった。

マリアンヌとシャノンも挨拶しかしていないと思う。

それなのに、無言だった食事が終わった途端、マリアンヌがシャノンに向けて爆弾を放った。
そう、いきなり、シャノンのブローチを欲しがり、しかも奪い取るという暴挙にでたんだよね。

ありえない展開……。
が、そう設定したのも、これまた前世の私……。
つまり、一番ありえないのは前世の私じゃない!?

悪役令嬢の鉄則は奪うだからね! と、リッキーに力説していた浅はかな前世の自分が浮かんでくる。

あーなんて、適当なことを言うんだ、前世の私……。
自分の言ったことが、こんな風に戻ってくるとは!

口は災いの元。身から出た錆。自業自得。

前世の言葉がわきでる、わきでる。

ということで、自分の作った設定をぶち壊すべく、漫画のシャノンとは全く違う行動をとることにした。

「マリアンヌちゃんって、何月生まれなの?」
と、積極的に話しかけてみた。

「……11月だけど……」

いぶかしげに答えるマリアンヌちゃん。

「私は6月生まれなんだ。じゃあ、ちょっとだけ、私のほうがお姉さんだね? ということで、シャノンおねえちゃんって呼んでくれたらうれしいな」

「は……?」

真っ赤な美しい瞳が、驚いたように私を見る。
黙っていれば大人びた美少女だけれど、素の表情は年相応の女の子で、とってもかわいい!

うん、眼福。

「こんなかわいいマリアンヌちゃんが私の妹になるのか……。嬉しいな……」

思わず、心の声がもれてしまった。

マリアンヌちゃんが目を大きく見開いた。
私がにっこり微笑むと、すっと目を細めて、まるで虫けらを見るような目つきに変わった。

でも、そんな目つきをしても、かわいいものはかわいい。

ストーリーを改良するため、特にマリアンヌに関して口をだしまくった私は、本物を目の前にしたら、不思議なくらい情がわいちゃってる。

もう、これって、娘みたいなもんじゃない?
どんな顔をしても、かわいいでしょ、うちの娘。親バカ万歳って感じなんだよね。

気持ち悪そうに私を見るマリアンヌちゃんを見ながら、自分の顔がどんどんゆるんでくる。

すると、また、私の隣で、お父様がぶつぶつとつぶやきはじめた。

「一体、これはだれだ……? シャノンじゃないだろう……? おかしい……。もしかして、倒れた時になにかに憑依されたとか……? 除霊したほうがいいのか……」

憑依って、ひどいな……。

まあ、確かに、今の私は前世の別人格が半分はいっちゃってるからね。

でも、霊とかじゃなくて、前世の「のぞみ」だから心配しないで。
なんて、お父様に言ったら、本当に除霊を頼みそう。

そんななか、無言で食事をつづけるアイリーンさん。
でも、食べたくて食べているようには見えない。

なんというか、ただただ作業のように手を動かし、口を動かしているだけ。

マリアンヌちゃんのお父様と離れたショックを引きずっているんだろうけれど、こんな悲しい設定を考えたのも、またもや前世の私……。

マンガの中では、アイリーンのその後をリッキーは書いていなかったし、私も悪役令嬢マリアンヌをいかに悪役にするかばかりを考えていて、その母親のアイリーンのことは、後半、その存在すら忘れていた。

本当に無責任にかかわって申し訳なかった……。
と、反省しつつ、アイリーンさんに話しかけてみた。

「アイリーンさんは趣味とかありますか?」

まるで、お見合いのような質問になってしまったけれど、アイリーンさんは手をとめて私を見た。
きれいな青い瞳はガラス玉のように無……。

「ないですわ」

会話終了……。

アイリーンさんは食事に戻った。

その間もお父様は私を驚いたように見ているだけで、何の助け舟もださない。
マリアンヌちゃんは、私を見る目が虫けらから、未知の生物を見るような目にかわっている。

つまり、このテーブルには会話をもりあげようとする人は私以外皆無ということ。

そして、私は気がついた。
いくら前世の私がまざっても、ひとりでしゃべり続けるスキルはないってことを。
こんなことなら、前世で落語を練習しておけばよかったかも……。

とりあえず、漫画のシチュエーションにならないようにしないと。

そう思ったけれど、ひとりで話す話題も思いづかず、気が付けば、「うわあ、このお料理おいしい!」とか、料理の感想だけが寒々しく響く食事となってしまった。

漫画にあった、ほぼ無言の食事場面を私を除く3人は遂行してしまった。

つまり、これも強制力か……。
恐るべし、強制力……。

だけど、強制力にまだ負けたわけではない。

だって、私はこの先、何がおきるのかを知っている。
そう、悪役令嬢ならぬ、先回り令嬢だからね……フフフ!

(ねえ、のんちゃん。先回り令嬢って、なんか、かっこ悪いよ)

懐かしいリッキーの声が聞こえた気がした。
時空をとんできたのかな?

でも、「可憐なスミレに絡まるトゲ」なんて、変なタイトルをつけようとするリッキーには絶対に言われたくないんだけどね。
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