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違和感 (アーノルド視点)
最終学年になり、僕にとっては最後の学園祭がやってきた。
生徒会は広間で行われる催しをとりしきることが決まった。
当日、生徒会長の僕は、司会をしなければならず、舞台に立っていると、いきなり、隣に立っていたメアリー嬢が触れそうなほど近寄ってきた。
学園内では、よろめいたふりをして近づこうとする令嬢たちもいるからとっさに警戒してしまうが、メアリー嬢はそんなことをする人ではない。
アンジェのことを大事に思ってくれている信用のおける人だ。
きっと、よろけてしまったんだろうと思い、うっかり触れてしまわないよう、体を後ろにひこうとしたら、メアリー嬢が小声で話しかけてきた。
「秘密にするようお願いされていましたが、今日はアンジェリンさんが見にきています。アーノルド様の司会をされる様子が見たいのですって」
え? アンジェがここに来てるのか……!?
思ってもみなかったことに、一瞬、困惑してしまう。
でも、外出することを怖がるアンジェが、僕を見るために、こんなに人の多い場に来てくれたと思うと、嬉しくて顔がゆるんだ。
が、すぐにはっとした。
のんきに喜んでいる場合じゃない!
アンジェはどこにいる!?
大丈夫だろうか!?
司会のことはすっかり頭からとび、アンジェを探して、きょろきょろと会場中を見渡した。
あの美しい銀色の髪だから、すぐに見つけられると思ったのに、人が多すぎてわからない。
メアリー嬢に聞いても、アンジェがどこにいるかはわからないという。
焦る僕に、メアリー嬢が「アンジェリンさんはアーノルド様の司会する姿を見にきたのですから、しっかり終わらせましょう。催しがおわったら、すぐに会えます」と言葉をかけてきた。「もう少しですからね」とも。
確かに、あとふたりだけ、だしものが終われば休憩に入る。
その時にアンジェを探そう。
アンジェにいいところを見せたくて、張り切って司会をしたあと、休憩に入るなり、会場中を探した。
が、アンジェには会えなかった。
やっぱり、外に出るのは苦手なアンジェだから、すぐに帰ってしまったのかもしれない。
僕は学園が終わるなり、ドルトン公爵家の屋敷に急いで向かった。
そこで、ドルトン公爵様から聞かされたのは、アンジェがたおれたということ。
頭がまっしろになった。
アンジェの顔だけでも見たかったけれど、眠ったままだからとドルトン公爵様に断られた。
「久々に人が多いところにいったから疲れたのだろう。心配かけて悪いね、アーノルド君」
ドルトン公爵様はそう言ったけれど、アンジェがたおれる理由は疲れじゃないことは、ドルトン公爵様はもちろん、僕だってわかっている。
きっとなにか悪意にさらされて、心が大きく動揺したんだろう。
「アンジェに何があったのですか!?」
あの場にいた誰かが、アンジェを傷つけたんだ。
それが誰であっても僕は許せない!
わきあがる怒りで、思わず、こぶしをにぎりしめる。
そんな僕を静かに見据えるドルトン公爵様。
「本人が目覚めていないから、今はわからない」
「でも、いつものように侍女のルイーズさんが一緒だったんでしょう!? 何か知っているのではないですか!?」
声を荒げる僕に、ドルトン公爵様が言った。
「ルイーズの報告はあくまでルイーズが見聞きしたことだ。アンジェが倒れた理由ではないかもしれない。アンジェの心はアンジェ本人にしかわからないからな。不用意に君に伝えることはできない」
きっぱりと言い切ったドルトン公爵様。
いつもとちがって、僕を見るその瞳は冷たく光っているように感じられた。
もしかして、僕のせいなのか……!?
僕のせいで、アンジェが嫌な目にあって、たおれたのでは……?
嫌な予感に、心がざわついた。
その日は、結局、それ以上、ドルトン公爵様から何も聞きだせず帰るしかなかった。
アンジェが目覚めるのを待つしかない。
翌日も、学園が終わるなり、ドルトン公爵家に直行したが、アンジェは目覚めていなかった。
ふつかも目覚めないだなんて、ただごとではない。
魔力をすいとれる魔石を手にいれてから、アンジェがたおれることはなくなっていたのに……。
やっぱり、魔力が急激にたまるような嫌な思いをしたのに違いない。
僕はアンジェのことが心配で何も手につかなかった。
アンジェ、早く目覚めてくれ……。
願うのはそのことばかり。
本当は学園も休んで、アンジェのそばで寄り添っていたかったけれど、ドルトン公爵様からは「アンジェのことは大丈夫だ。くれぐれもアンジェのために学園を休まないように」と、しっかりと釘をさされている。
つまり、学園を休んでアンジェに会いに行っても、ドルトン公爵家の屋敷には入れてもらえないということ。
そのため、学園が終わるまで待って、うちの馬車がとまっているところへ走っていくと、そこには、困った様子でうろうろしているメアリー嬢がいた。
僕を見るなり、はっとしたような顔で近づいて来たメアリー嬢。
急いでいたけれど、無視するわけにもいかず、一応、どうしたのか聞いてみる。
すると、アンジェのところにお見舞いに行こうと思っていたら、手違いで、ジリアン伯爵家の馬車がいなかったようだった。
「アンジェリンさんが倒れたと聞いて、私、心配で心配で……。私がアーノルド様が学園祭で司会をされるなんて教えてしまったから……。私のせいです。アンジェリンさんに無理をさせてしまって……」
涙ぐむメアリー嬢。
学園祭の翌日、僕がアンジェに会いに行ったことを知っているメアリー嬢が、アンジェが僕の司会を見た感想をなんて言っていたのか聞いてきたので、実は、学園祭を見に来て、アンジェはたおれたんだと伝えた。
ちなみに、メアリー嬢は、アンジェが魔力のせいでたおれることは知らない。
アンジェの魔力にまつわることは、アンジェの家族と、婚約者の僕と僕の家族、そして、アンジェのごく身近で働く屋敷の人たちくらいしか知らない。
だから、メアリー嬢はアンジェが体が弱いと思っているだけだ。
でも、アンジェを心配する気持ちは痛いほどわかるから、うちの馬車に同乗するか聞いてみた。
僕にとったら、兄同然の従者のジムも馬車に乗っているから、ふたりきりにはならないし。
涙ぐむほど悲しそうな顔をしていたメアリー嬢が、途端に晴れやかに笑った。
そのかわりように、一瞬、なんともいえない違和感がうまれる。
アンジェが大変な時に、なんで、そんな晴れやかな笑顔になれるのか……。
いぶかしく思ったのが顔にでたのか、メアリー嬢があわてたように言った。
「アンジェリンさんに一刻も早く会いたかったから、ほっとしてしまって……」
あ、そういうことか。
アンジェを思ってくれる人なのに不審に思って失礼だった。
そう思った僕は、すぐさま、心にうかんだ違和感を消し去った。
生徒会は広間で行われる催しをとりしきることが決まった。
当日、生徒会長の僕は、司会をしなければならず、舞台に立っていると、いきなり、隣に立っていたメアリー嬢が触れそうなほど近寄ってきた。
学園内では、よろめいたふりをして近づこうとする令嬢たちもいるからとっさに警戒してしまうが、メアリー嬢はそんなことをする人ではない。
アンジェのことを大事に思ってくれている信用のおける人だ。
きっと、よろけてしまったんだろうと思い、うっかり触れてしまわないよう、体を後ろにひこうとしたら、メアリー嬢が小声で話しかけてきた。
「秘密にするようお願いされていましたが、今日はアンジェリンさんが見にきています。アーノルド様の司会をされる様子が見たいのですって」
え? アンジェがここに来てるのか……!?
思ってもみなかったことに、一瞬、困惑してしまう。
でも、外出することを怖がるアンジェが、僕を見るために、こんなに人の多い場に来てくれたと思うと、嬉しくて顔がゆるんだ。
が、すぐにはっとした。
のんきに喜んでいる場合じゃない!
アンジェはどこにいる!?
大丈夫だろうか!?
司会のことはすっかり頭からとび、アンジェを探して、きょろきょろと会場中を見渡した。
あの美しい銀色の髪だから、すぐに見つけられると思ったのに、人が多すぎてわからない。
メアリー嬢に聞いても、アンジェがどこにいるかはわからないという。
焦る僕に、メアリー嬢が「アンジェリンさんはアーノルド様の司会する姿を見にきたのですから、しっかり終わらせましょう。催しがおわったら、すぐに会えます」と言葉をかけてきた。「もう少しですからね」とも。
確かに、あとふたりだけ、だしものが終われば休憩に入る。
その時にアンジェを探そう。
アンジェにいいところを見せたくて、張り切って司会をしたあと、休憩に入るなり、会場中を探した。
が、アンジェには会えなかった。
やっぱり、外に出るのは苦手なアンジェだから、すぐに帰ってしまったのかもしれない。
僕は学園が終わるなり、ドルトン公爵家の屋敷に急いで向かった。
そこで、ドルトン公爵様から聞かされたのは、アンジェがたおれたということ。
頭がまっしろになった。
アンジェの顔だけでも見たかったけれど、眠ったままだからとドルトン公爵様に断られた。
「久々に人が多いところにいったから疲れたのだろう。心配かけて悪いね、アーノルド君」
ドルトン公爵様はそう言ったけれど、アンジェがたおれる理由は疲れじゃないことは、ドルトン公爵様はもちろん、僕だってわかっている。
きっとなにか悪意にさらされて、心が大きく動揺したんだろう。
「アンジェに何があったのですか!?」
あの場にいた誰かが、アンジェを傷つけたんだ。
それが誰であっても僕は許せない!
わきあがる怒りで、思わず、こぶしをにぎりしめる。
そんな僕を静かに見据えるドルトン公爵様。
「本人が目覚めていないから、今はわからない」
「でも、いつものように侍女のルイーズさんが一緒だったんでしょう!? 何か知っているのではないですか!?」
声を荒げる僕に、ドルトン公爵様が言った。
「ルイーズの報告はあくまでルイーズが見聞きしたことだ。アンジェが倒れた理由ではないかもしれない。アンジェの心はアンジェ本人にしかわからないからな。不用意に君に伝えることはできない」
きっぱりと言い切ったドルトン公爵様。
いつもとちがって、僕を見るその瞳は冷たく光っているように感じられた。
もしかして、僕のせいなのか……!?
僕のせいで、アンジェが嫌な目にあって、たおれたのでは……?
嫌な予感に、心がざわついた。
その日は、結局、それ以上、ドルトン公爵様から何も聞きだせず帰るしかなかった。
アンジェが目覚めるのを待つしかない。
翌日も、学園が終わるなり、ドルトン公爵家に直行したが、アンジェは目覚めていなかった。
ふつかも目覚めないだなんて、ただごとではない。
魔力をすいとれる魔石を手にいれてから、アンジェがたおれることはなくなっていたのに……。
やっぱり、魔力が急激にたまるような嫌な思いをしたのに違いない。
僕はアンジェのことが心配で何も手につかなかった。
アンジェ、早く目覚めてくれ……。
願うのはそのことばかり。
本当は学園も休んで、アンジェのそばで寄り添っていたかったけれど、ドルトン公爵様からは「アンジェのことは大丈夫だ。くれぐれもアンジェのために学園を休まないように」と、しっかりと釘をさされている。
つまり、学園を休んでアンジェに会いに行っても、ドルトン公爵家の屋敷には入れてもらえないということ。
そのため、学園が終わるまで待って、うちの馬車がとまっているところへ走っていくと、そこには、困った様子でうろうろしているメアリー嬢がいた。
僕を見るなり、はっとしたような顔で近づいて来たメアリー嬢。
急いでいたけれど、無視するわけにもいかず、一応、どうしたのか聞いてみる。
すると、アンジェのところにお見舞いに行こうと思っていたら、手違いで、ジリアン伯爵家の馬車がいなかったようだった。
「アンジェリンさんが倒れたと聞いて、私、心配で心配で……。私がアーノルド様が学園祭で司会をされるなんて教えてしまったから……。私のせいです。アンジェリンさんに無理をさせてしまって……」
涙ぐむメアリー嬢。
学園祭の翌日、僕がアンジェに会いに行ったことを知っているメアリー嬢が、アンジェが僕の司会を見た感想をなんて言っていたのか聞いてきたので、実は、学園祭を見に来て、アンジェはたおれたんだと伝えた。
ちなみに、メアリー嬢は、アンジェが魔力のせいでたおれることは知らない。
アンジェの魔力にまつわることは、アンジェの家族と、婚約者の僕と僕の家族、そして、アンジェのごく身近で働く屋敷の人たちくらいしか知らない。
だから、メアリー嬢はアンジェが体が弱いと思っているだけだ。
でも、アンジェを心配する気持ちは痛いほどわかるから、うちの馬車に同乗するか聞いてみた。
僕にとったら、兄同然の従者のジムも馬車に乗っているから、ふたりきりにはならないし。
涙ぐむほど悲しそうな顔をしていたメアリー嬢が、途端に晴れやかに笑った。
そのかわりように、一瞬、なんともいえない違和感がうまれる。
アンジェが大変な時に、なんで、そんな晴れやかな笑顔になれるのか……。
いぶかしく思ったのが顔にでたのか、メアリー嬢があわてたように言った。
「アンジェリンさんに一刻も早く会いたかったから、ほっとしてしまって……」
あ、そういうことか。
アンジェを思ってくれる人なのに不審に思って失礼だった。
そう思った僕は、すぐさま、心にうかんだ違和感を消し去った。
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