23 / 46
番外編
ある子息の初恋 1
※ メアリーのその後もふくめて、諸々、他の人物の視点で書いています。
思った以上にダークな話になってしまい本編に入れづらく、番外編で更新することにしました。
僕の名前はジョイス。
父親が、歴史上、英雄とされる人物の名前からとってつけた。
つまり、この国にはよくある名前だ。
そんなありふれた名前と同様に、僕自身も目立たず、うずもれている。
良くも悪くも、とりたてて特徴もない子爵家の息子で、特に優秀というわけでもなく、成績はごくごく普通。
人に自慢できる特技もないし、容姿についてはいたって地味だ。
そのうえ、人づきあいも苦手なため、学園にはいっても友人はできず、僕の存在は、まわりに認識されていないかのように、ただただ埋もれて過ごしている。
そんな僕だけれど、学園に入学して、好きな女性ができた。
同じクラスになったメアリー嬢だ。
最初に気になったのは、おだやかで、美しい笑みを浮かべているのに、その目にどろりとした暗いものが垣間見えた時だった。
更に、よくよく見ていると、隠しきれない野心みたいなものがにじみ出る時がある。
おとなびた美しさで、常に優しく微笑み、クラスメイト達にも親切に接し、勉強熱心で、まじめで成績優秀な模範的な女子生徒。
そんな輝くような外側とは真逆のなにかを隠し持つメアリー嬢に、僕は強烈にひかれた。
気がついた時には、いつも目で追うようになっていた。
メアリー嬢を見つめるようになって、すぐにわかったことがある。
メアリー嬢がずっと密かに見つめているのは、一体誰なのかを……。
彼女の秘めた視線の先にいるのは、貴族の中でも最高位に君臨する名門キングス公爵家のご子息でアーノルド様だった。
学園の中でも、ひと際、目立つ美しい容姿に、学年一位の成績を誇る優秀な頭脳。
しかも、人柄的にも良さそうだ。
アーノルド様を見ていると、完璧な人生を歩んでいく、まさに光そのもののような存在だと思う。
なにも持っていない僕と違って、すべてを持っている選ばれた人。
メアリー嬢がひかれるのも無理はない。
でも、いくら、メアリー嬢がひかれても、その思いは報われることはない。
アーノルド様にはドルトン公爵家という、これまた貴族の中では最高の家の令嬢が婚約者だから。
身分的には、メアリー嬢のジリアン伯爵家では、正直言って、勝負にならない。
万一、ドルトン公爵家の不況を買ったら、ジリアン伯爵家は簡単に没落するくらいの力の差がある。
でも、理由はそれだけじゃない。
僕の見立てだと、アーノルド様は婚約者を裏切るようなことはしないだろうと思う。
女子生徒たちにどれだけ人気があっても、浮ついたところはまるでなく、距離を保って接していることが見てとれるから。
つまり、メアリー嬢は僕と同様に、気持ちを隠して、アーノルド様を密かに見ていることしかできないんだ。
そう思うと、メアリー嬢に親近感がわき、ますます彼女のことが好きになっていった。
いつも見ているだけのメアリー嬢から、一度だけ声をかけられたことがある。
それは僕が休み時間に筆箱を落としてしまった時だった。
いくつかペンが転がってしまったが、存在感のない僕が何をしようが、まわりは気づかない。
短い休み時間を楽しもうと、話に夢中になっているクラスメイト達の近くで、僕が転がったペンを拾い集めていると、メアリー嬢が急いだ様子で近寄ってきて、僕のペンを拾ってくれた。
そして、とびきり優しい笑みをうかべて、
「はい、どうぞ」
と、僕のペンを手渡してくれた。
僕は、間近で見るメアリー嬢に心が震えた。
もしかして、メアリー嬢は僕を見てくれていたのか……?
ちらっとそんな夢のようなことが頭をよぎった次の瞬間、「こっちにもペンが転がっていたよ」と、背後から生真面目な声がした。
振り向くと、拾ったペンを差し出してくるアーノルド様だった。
そうか……。
メアリー嬢は、僕の背後でアーノルド様が僕のペンを拾ってくれていたから、急いで拾いにきてくれたんだ。
つまり、メアリー嬢は僕を見ていたわけではなく、いつものようにアーノルド様を見ていただけということ。
だから、ペンを手渡してくれるときの微笑みも、僕を見ているようでいて、焦点がずれていたのは、後ろのアーノルド様に向けての笑顔だったと思い至った。
やっぱり、僕は視界にすら入っていなかった……。
そう思ったらがっくりときたが、すぐに、ぞくぞくした。
闇を持つ彼女らしいと思ったからだ。
※ 番外編初回、朝更新しましたが、全く爽やかではないお話になっております💦
本編に続き、読んでくださった方々、本当にありがとうございます!
そして、本編最終話まで読んでくださり、沢山のいいね、エールをありがとうございました!
とても嬉しくて、励まされました!!
次回もジョイス視点が続きます。よろしくお願いします。
思った以上にダークな話になってしまい本編に入れづらく、番外編で更新することにしました。
僕の名前はジョイス。
父親が、歴史上、英雄とされる人物の名前からとってつけた。
つまり、この国にはよくある名前だ。
そんなありふれた名前と同様に、僕自身も目立たず、うずもれている。
良くも悪くも、とりたてて特徴もない子爵家の息子で、特に優秀というわけでもなく、成績はごくごく普通。
人に自慢できる特技もないし、容姿についてはいたって地味だ。
そのうえ、人づきあいも苦手なため、学園にはいっても友人はできず、僕の存在は、まわりに認識されていないかのように、ただただ埋もれて過ごしている。
そんな僕だけれど、学園に入学して、好きな女性ができた。
同じクラスになったメアリー嬢だ。
最初に気になったのは、おだやかで、美しい笑みを浮かべているのに、その目にどろりとした暗いものが垣間見えた時だった。
更に、よくよく見ていると、隠しきれない野心みたいなものがにじみ出る時がある。
おとなびた美しさで、常に優しく微笑み、クラスメイト達にも親切に接し、勉強熱心で、まじめで成績優秀な模範的な女子生徒。
そんな輝くような外側とは真逆のなにかを隠し持つメアリー嬢に、僕は強烈にひかれた。
気がついた時には、いつも目で追うようになっていた。
メアリー嬢を見つめるようになって、すぐにわかったことがある。
メアリー嬢がずっと密かに見つめているのは、一体誰なのかを……。
彼女の秘めた視線の先にいるのは、貴族の中でも最高位に君臨する名門キングス公爵家のご子息でアーノルド様だった。
学園の中でも、ひと際、目立つ美しい容姿に、学年一位の成績を誇る優秀な頭脳。
しかも、人柄的にも良さそうだ。
アーノルド様を見ていると、完璧な人生を歩んでいく、まさに光そのもののような存在だと思う。
なにも持っていない僕と違って、すべてを持っている選ばれた人。
メアリー嬢がひかれるのも無理はない。
でも、いくら、メアリー嬢がひかれても、その思いは報われることはない。
アーノルド様にはドルトン公爵家という、これまた貴族の中では最高の家の令嬢が婚約者だから。
身分的には、メアリー嬢のジリアン伯爵家では、正直言って、勝負にならない。
万一、ドルトン公爵家の不況を買ったら、ジリアン伯爵家は簡単に没落するくらいの力の差がある。
でも、理由はそれだけじゃない。
僕の見立てだと、アーノルド様は婚約者を裏切るようなことはしないだろうと思う。
女子生徒たちにどれだけ人気があっても、浮ついたところはまるでなく、距離を保って接していることが見てとれるから。
つまり、メアリー嬢は僕と同様に、気持ちを隠して、アーノルド様を密かに見ていることしかできないんだ。
そう思うと、メアリー嬢に親近感がわき、ますます彼女のことが好きになっていった。
いつも見ているだけのメアリー嬢から、一度だけ声をかけられたことがある。
それは僕が休み時間に筆箱を落としてしまった時だった。
いくつかペンが転がってしまったが、存在感のない僕が何をしようが、まわりは気づかない。
短い休み時間を楽しもうと、話に夢中になっているクラスメイト達の近くで、僕が転がったペンを拾い集めていると、メアリー嬢が急いだ様子で近寄ってきて、僕のペンを拾ってくれた。
そして、とびきり優しい笑みをうかべて、
「はい、どうぞ」
と、僕のペンを手渡してくれた。
僕は、間近で見るメアリー嬢に心が震えた。
もしかして、メアリー嬢は僕を見てくれていたのか……?
ちらっとそんな夢のようなことが頭をよぎった次の瞬間、「こっちにもペンが転がっていたよ」と、背後から生真面目な声がした。
振り向くと、拾ったペンを差し出してくるアーノルド様だった。
そうか……。
メアリー嬢は、僕の背後でアーノルド様が僕のペンを拾ってくれていたから、急いで拾いにきてくれたんだ。
つまり、メアリー嬢は僕を見ていたわけではなく、いつものようにアーノルド様を見ていただけということ。
だから、ペンを手渡してくれるときの微笑みも、僕を見ているようでいて、焦点がずれていたのは、後ろのアーノルド様に向けての笑顔だったと思い至った。
やっぱり、僕は視界にすら入っていなかった……。
そう思ったらがっくりときたが、すぐに、ぞくぞくした。
闇を持つ彼女らしいと思ったからだ。
※ 番外編初回、朝更新しましたが、全く爽やかではないお話になっております💦
本編に続き、読んでくださった方々、本当にありがとうございます!
そして、本編最終話まで読んでくださり、沢山のいいね、エールをありがとうございました!
とても嬉しくて、励まされました!!
次回もジョイス視点が続きます。よろしくお願いします。
あなたにおすすめの小説
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?
水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。
私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。
※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡
【完結】魅了魔法のその後で──その魅了魔法は誰のため? 婚約破棄した悪役令嬢ですが、王太子が逃がしてくれません
瀬里@SMARTOON8/31公開予定
恋愛
その魅了魔法は誰のため?
一年前、聖女に婚約者である王太子を奪われ、婚約破棄された悪役令嬢リシェル・ノクティア・エルグレイン。
それが私だ。
彼と聖女との婚約披露パーティの噂が流れてきた頃、私の元に王太子が訪れた。
彼がここに来た理由は──。
(全四話の短編です。数日以内に完結させます)
婚約者とその幼なじみがいい雰囲気すぎることに不安を覚えていましたが、誤解が解けたあとで、その立ち位置にいたのは私でした
珠宮さくら
恋愛
クレメンティアは、婚約者とその幼なじみの雰囲気が良すぎることに不安を覚えていた。
そんな時に幼なじみから、婚約破棄したがっていると聞かされてしまい……。
※全4話。