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番外編
ある子息の初恋 5
父とジリアン伯爵様の話し合いのもと、婚約期間は1年間。
その後、結婚という話になった。
僕としたら、1年も待ちたくない。
もっと早く結婚したい、そう訴えたけれど、父もジリアン伯爵様もそこだけは頑として折れてくれなかった。
だが、僕はどうしても納得できない。
年齢的には、今すぐに結婚してもなんの問題もないはずだ。
僕は、父親とうまくいっていないメアリー嬢を、あの屋敷から早く連れ出したいのに。
だから、なんとか、婚約期間を短くできる方法はないかと考えていると、メアリー嬢が言った。
「私もすぐに結婚するより、婚約期間はあったほうがいいですわ」
「何故……? もしかして、本当は僕と結婚したくないのですか!?」
メアリー嬢の言葉に僕は焦った。
メアリー嬢の気がかわったのか……?
それとも、何も持っていない僕が、メアリー嬢に釣り合わない人間だと気づいてしまったのか……?
いろんな悪い想像が次々と頭をよぎる。
「まさか……。すぐにでもジョイス様と一緒になりたいですわ。でも、私はジョイス様に恥をかかせたくないから。由緒正しい子爵家に嫁ぐのだもの。子爵夫人として立派にやっていけるよう準備をしておきたいんです。ジョイス様のお父様は私たちの結婚に反対でしょう? そんなお父様に、ジョイス様の妻として認めてもらえるように、しっかり準備しますから。……私はジョイス様が誇れる妻になりたい。だから、結婚するのは、1年我慢しましょう。そのあとはずっと一緒にいられますわ」
メアリー嬢は甘やかな声で僕にそう告げた。
彼女の言葉に胸が熱くなる。
メアリー嬢は僕のためを思って言ってくれているんだ。
それなのに、僕はメアリー嬢の気持ちを疑った。
自分のこととなるとすぐに悪いほうに考えてしまう、自分にしみついた卑屈さが嫌になる。
メアリー嬢は、この1年、僕のために頑張ろうとしてくれている。
彼女の望むことならば、僕はなんでもしよう。
改めて、そう心に誓った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
婚約後、メアリー嬢は週に3日ほど、うちの屋敷に通ってくるようになった。
といっても、僕に会いにくるわけじゃなくて、子爵夫人としての仕事を学びにくるためだ。
子爵夫人は父の後妻で、僕の継母にあたる。
僕を産んだ実の母は僕が幼い頃になくなっていて、僕が5歳の時に父は再婚した。
ちなみに、僕は継母のことを、母と呼んだことは一度もない。
というか、呼べなかった。
だから、今もずっとローラさんと呼んでいる。
ローラさんと父の間に子どもはおらず、前妻の子である僕しかいない。
かわいげもなかった僕に、嫌な顔ひとつしなかったローラさんはいい人だと思う。
それでも僕はなつくことができず、いまだにローラさんとの距離は遠い。
意外なことに、僕が、メアリー嬢が子爵夫人の仕事を学びたいと言っているから、教えてあげてほしいと頼むと、ローラさんはことのほか嬉しそうだった。
婚約後も父はメアリー嬢を受け入れていない様子だったから、メアリー嬢が初めて訪ねてきた日、ローラさんがあたたかく迎え入れてくれたことは正直ありがたいと思った。
そんなローラさんについて、メアリー嬢も熱心に学び始めた。
もともと学園では生徒会に入るくらい優秀だったメアリー嬢。
ローラさんがメアリー嬢の覚えの良さを手放しで褒めると、最初は警戒していた父も、少しずつ、メアリー嬢を見る目が好意的に変わっていった。
メアリー嬢はうちに来るときは、ジリアン伯爵夫人と一緒に焼いたというお菓子などを手土産にもってきてくれる。
メイドや執事など使用人たちの分まで用意してきてくれるから、1か月もすれば、屋敷中のみんながメアリー嬢を歓迎するようになっていた。
その様子を見ていると、学園時代のメアリー嬢をありありと思い出す。
みんなに賞賛されるような模範的な生徒だったメアリー嬢。
僕だけが、その隠された闇に気づいていた。
見合いで久々に見たメアリー嬢は、闇が深く大きくなって、隠しきれないくらいだった。
でも、今は、その闇が鳴りを潜めている。
学園時代のように、美しく勤勉で優しい。
そんな完璧な外側が目立っているからだ。
あの時は、アーノルド様に近づくために、メアリー嬢はがんばっていた。
じゃあ、今はなんの目的があって、がんばっているんだ……?
そう思ったら、得体のしれない不安がおそってきたが、すぐに、その思いを打ち消した。
メアリー嬢が頑張ってくれているのは僕のためだ。
彼女自身が言ってくれたじゃないか。
僕の誇れる妻になりたい、と。
その後、結婚という話になった。
僕としたら、1年も待ちたくない。
もっと早く結婚したい、そう訴えたけれど、父もジリアン伯爵様もそこだけは頑として折れてくれなかった。
だが、僕はどうしても納得できない。
年齢的には、今すぐに結婚してもなんの問題もないはずだ。
僕は、父親とうまくいっていないメアリー嬢を、あの屋敷から早く連れ出したいのに。
だから、なんとか、婚約期間を短くできる方法はないかと考えていると、メアリー嬢が言った。
「私もすぐに結婚するより、婚約期間はあったほうがいいですわ」
「何故……? もしかして、本当は僕と結婚したくないのですか!?」
メアリー嬢の言葉に僕は焦った。
メアリー嬢の気がかわったのか……?
それとも、何も持っていない僕が、メアリー嬢に釣り合わない人間だと気づいてしまったのか……?
いろんな悪い想像が次々と頭をよぎる。
「まさか……。すぐにでもジョイス様と一緒になりたいですわ。でも、私はジョイス様に恥をかかせたくないから。由緒正しい子爵家に嫁ぐのだもの。子爵夫人として立派にやっていけるよう準備をしておきたいんです。ジョイス様のお父様は私たちの結婚に反対でしょう? そんなお父様に、ジョイス様の妻として認めてもらえるように、しっかり準備しますから。……私はジョイス様が誇れる妻になりたい。だから、結婚するのは、1年我慢しましょう。そのあとはずっと一緒にいられますわ」
メアリー嬢は甘やかな声で僕にそう告げた。
彼女の言葉に胸が熱くなる。
メアリー嬢は僕のためを思って言ってくれているんだ。
それなのに、僕はメアリー嬢の気持ちを疑った。
自分のこととなるとすぐに悪いほうに考えてしまう、自分にしみついた卑屈さが嫌になる。
メアリー嬢は、この1年、僕のために頑張ろうとしてくれている。
彼女の望むことならば、僕はなんでもしよう。
改めて、そう心に誓った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
婚約後、メアリー嬢は週に3日ほど、うちの屋敷に通ってくるようになった。
といっても、僕に会いにくるわけじゃなくて、子爵夫人としての仕事を学びにくるためだ。
子爵夫人は父の後妻で、僕の継母にあたる。
僕を産んだ実の母は僕が幼い頃になくなっていて、僕が5歳の時に父は再婚した。
ちなみに、僕は継母のことを、母と呼んだことは一度もない。
というか、呼べなかった。
だから、今もずっとローラさんと呼んでいる。
ローラさんと父の間に子どもはおらず、前妻の子である僕しかいない。
かわいげもなかった僕に、嫌な顔ひとつしなかったローラさんはいい人だと思う。
それでも僕はなつくことができず、いまだにローラさんとの距離は遠い。
意外なことに、僕が、メアリー嬢が子爵夫人の仕事を学びたいと言っているから、教えてあげてほしいと頼むと、ローラさんはことのほか嬉しそうだった。
婚約後も父はメアリー嬢を受け入れていない様子だったから、メアリー嬢が初めて訪ねてきた日、ローラさんがあたたかく迎え入れてくれたことは正直ありがたいと思った。
そんなローラさんについて、メアリー嬢も熱心に学び始めた。
もともと学園では生徒会に入るくらい優秀だったメアリー嬢。
ローラさんがメアリー嬢の覚えの良さを手放しで褒めると、最初は警戒していた父も、少しずつ、メアリー嬢を見る目が好意的に変わっていった。
メアリー嬢はうちに来るときは、ジリアン伯爵夫人と一緒に焼いたというお菓子などを手土産にもってきてくれる。
メイドや執事など使用人たちの分まで用意してきてくれるから、1か月もすれば、屋敷中のみんながメアリー嬢を歓迎するようになっていた。
その様子を見ていると、学園時代のメアリー嬢をありありと思い出す。
みんなに賞賛されるような模範的な生徒だったメアリー嬢。
僕だけが、その隠された闇に気づいていた。
見合いで久々に見たメアリー嬢は、闇が深く大きくなって、隠しきれないくらいだった。
でも、今は、その闇が鳴りを潜めている。
学園時代のように、美しく勤勉で優しい。
そんな完璧な外側が目立っているからだ。
あの時は、アーノルド様に近づくために、メアリー嬢はがんばっていた。
じゃあ、今はなんの目的があって、がんばっているんだ……?
そう思ったら、得体のしれない不安がおそってきたが、すぐに、その思いを打ち消した。
メアリー嬢が頑張ってくれているのは僕のためだ。
彼女自身が言ってくれたじゃないか。
僕の誇れる妻になりたい、と。
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