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番外編
ある子息の初恋 11
ロワルダ伯爵家の夜会が無事終わると、その後も、出席の返事をしていたいくつかの夜会にメアリーと一緒に参加した。
最初こそ緊張していたけれど、だいたい、どこの夜会でもすることは同じ。
段々と慣れてきた。
それに、ひとつ気づいたことがある。
僕が心配していたほど、みんなはメアリーを気にしていないということだ。
あからさまに、メアリーを傷つけるようなことを言う人はいないし、意味ありげにメアリーを見る人も、ごくまれだ。
だいたい、にこやかに、あたりさわりのない会話をして終わり。
僕たちが特別、注目されることもない。
それよりも、今、どこの夜会にいっても耳にするのは、ビルズ侯爵家の令嬢の話だ。
この国では、由緒ある貴族のひとつビルズ侯爵家。
その令嬢が、隣国の公爵子息と結婚直前になって、自分の従者とかけおちしたという話だ。
「社交界の華とよばれていたあのご令嬢が信じられない」だとか、「父親のビルズ侯爵がショックで寝込んでいる」とか、「隣国の公爵家が怒り、この国との仕事のつながりを切った」「従者とはずっと恋人だったらしい」などと、本当か嘘かもわからないことを、夜会のあちこちで面白おかしく話して盛り上がっている声が聞こえてくる。
僕にしてみたら、僕と全く関係のない令嬢がかけおちしようがなんの興味もわかないが、そんな僕にすら、まるで天気の話でもするように、この話を挨拶代わりにしてくる人もいる。
噂とは、こうやってひろがっていくのか……。
過去のことより、今のこと。
そして、だれかの幸せな話より不幸な話のほうが、より盛り上がるのが社交界の噂。
くだらない。
噂を好む人間にとったら、メアリーの噂は過去のこと。
それに、あれだけ噂がひろがったのは、キングス公爵家とドルトン公爵家という二大公爵家が関わっていたからだ。
でも、メアリーの今の婚約者は、しがない子爵家の息子である地味な僕だ。
メアリーは僕たちが仲がいい婚約者だと見せつけて、過去の噂を消したいと言ったけれど、噂好きの貴族にとったら、今の僕たちがどうであろうと興味をひかれないだろう。
僕はメアリーに言った。
「メアリー、もう、こんなに無理して夜会にでなくてもいいんじゃないか? メアリーの過去の噂を気にしている人なんていないよ」
「いえ、ダメよ、ジョイス。私たちの耳に入らないだけかもしれないし。結婚するまでに、できるだけ夜会にでて、私たちの仲の良さを知らしめて、少しでも噂を消しておきたいの。……私のせいで、ジョイスやゴラン家に迷惑をかけたくないもの」
「迷惑だなんて……! メアリーが婚約者になってくれて僕がどれだけ幸せか……」
僕の言葉に、メアリーが抱きついてきた。
「嬉しい、ジョイス! 私も幸せよ。……だからこそ、ジョイスと結婚する前に、今、私にできることは全部やっておきたいの。結婚するまで、あと半年もないわ。お願い、ジョイス。このまま夜会に行かせて?」
僕に抱きついたまま、メアリーが僕の目をじっと見つめてきた。
縋るようなその目には、やはり、闇がとけだしている。
不安に思いつつも、僕はメアリーの瞳にからめとられてしまう。
抗うことなんて無理だ。
僕は、漠然とひろがる不安を消し去るように、自分に言い聞かせた。
メアリーは僕のために夜会にでたいと言ってくれている。
僕のため、僕の家のために。
だから、不安に思うことは何もない。
「わかった。夜会にこれからも参加しよう。……僕のためにありがとう、メアリー」
そう言うと、メアリーがほっとしたように微笑んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結婚まであと2か月になった。
この間、僕とメアリーは、招待状がきた夜会に参加し続けている。
メアリーが僕に願ったことは、結局夜会に出席することだけ。
他には何も願ってこない。
せめて、夜会用のドレスを贈りたいといっても、それすら受け取ってくれない。
「ドレスは結婚したあとにプレゼントしてもらうわ。だから、その費用は結婚後に貯めておいて」
と、絶対に譲らないメアリー。
僕の余裕のない懐を心配してくれているんだろう。
そのやさしさをありがたいと思う。
でも、僕の瞳の色である深緑色のドレスを僕がメアリーにプレゼントして、そのドレスを着て夜会に行ってほしいと願ってしまう。
今、メアリーが夜会に着ていくドレスはどれもブルー系だ。
小さい頃からブルーが好きだから、ブルーのドレスが多いの、とメアリーは僕に言った。
でも、ブルーを見れば、どうしても思い出してしまう。
晴れた空のような瞳の色をした、まぶしかったあの存在を。
ダメだ……。
また、すぐに自分を苦しめる想像をしてしまう。
僕のために、メアリーは過去の噂を消そうとしてくれているんだ。
それなのに、僕が彼女の過去にとらわれてどうする!
それに、ブルーが好きな人なんて、この世には沢山いる。
実際、ローラさんもブルー系が好きだと、メアリーと楽しそうに話していたじゃないか。
そう、全部、僕の考えすぎだ。
最初こそ緊張していたけれど、だいたい、どこの夜会でもすることは同じ。
段々と慣れてきた。
それに、ひとつ気づいたことがある。
僕が心配していたほど、みんなはメアリーを気にしていないということだ。
あからさまに、メアリーを傷つけるようなことを言う人はいないし、意味ありげにメアリーを見る人も、ごくまれだ。
だいたい、にこやかに、あたりさわりのない会話をして終わり。
僕たちが特別、注目されることもない。
それよりも、今、どこの夜会にいっても耳にするのは、ビルズ侯爵家の令嬢の話だ。
この国では、由緒ある貴族のひとつビルズ侯爵家。
その令嬢が、隣国の公爵子息と結婚直前になって、自分の従者とかけおちしたという話だ。
「社交界の華とよばれていたあのご令嬢が信じられない」だとか、「父親のビルズ侯爵がショックで寝込んでいる」とか、「隣国の公爵家が怒り、この国との仕事のつながりを切った」「従者とはずっと恋人だったらしい」などと、本当か嘘かもわからないことを、夜会のあちこちで面白おかしく話して盛り上がっている声が聞こえてくる。
僕にしてみたら、僕と全く関係のない令嬢がかけおちしようがなんの興味もわかないが、そんな僕にすら、まるで天気の話でもするように、この話を挨拶代わりにしてくる人もいる。
噂とは、こうやってひろがっていくのか……。
過去のことより、今のこと。
そして、だれかの幸せな話より不幸な話のほうが、より盛り上がるのが社交界の噂。
くだらない。
噂を好む人間にとったら、メアリーの噂は過去のこと。
それに、あれだけ噂がひろがったのは、キングス公爵家とドルトン公爵家という二大公爵家が関わっていたからだ。
でも、メアリーの今の婚約者は、しがない子爵家の息子である地味な僕だ。
メアリーは僕たちが仲がいい婚約者だと見せつけて、過去の噂を消したいと言ったけれど、噂好きの貴族にとったら、今の僕たちがどうであろうと興味をひかれないだろう。
僕はメアリーに言った。
「メアリー、もう、こんなに無理して夜会にでなくてもいいんじゃないか? メアリーの過去の噂を気にしている人なんていないよ」
「いえ、ダメよ、ジョイス。私たちの耳に入らないだけかもしれないし。結婚するまでに、できるだけ夜会にでて、私たちの仲の良さを知らしめて、少しでも噂を消しておきたいの。……私のせいで、ジョイスやゴラン家に迷惑をかけたくないもの」
「迷惑だなんて……! メアリーが婚約者になってくれて僕がどれだけ幸せか……」
僕の言葉に、メアリーが抱きついてきた。
「嬉しい、ジョイス! 私も幸せよ。……だからこそ、ジョイスと結婚する前に、今、私にできることは全部やっておきたいの。結婚するまで、あと半年もないわ。お願い、ジョイス。このまま夜会に行かせて?」
僕に抱きついたまま、メアリーが僕の目をじっと見つめてきた。
縋るようなその目には、やはり、闇がとけだしている。
不安に思いつつも、僕はメアリーの瞳にからめとられてしまう。
抗うことなんて無理だ。
僕は、漠然とひろがる不安を消し去るように、自分に言い聞かせた。
メアリーは僕のために夜会にでたいと言ってくれている。
僕のため、僕の家のために。
だから、不安に思うことは何もない。
「わかった。夜会にこれからも参加しよう。……僕のためにありがとう、メアリー」
そう言うと、メアリーがほっとしたように微笑んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
結婚まであと2か月になった。
この間、僕とメアリーは、招待状がきた夜会に参加し続けている。
メアリーが僕に願ったことは、結局夜会に出席することだけ。
他には何も願ってこない。
せめて、夜会用のドレスを贈りたいといっても、それすら受け取ってくれない。
「ドレスは結婚したあとにプレゼントしてもらうわ。だから、その費用は結婚後に貯めておいて」
と、絶対に譲らないメアリー。
僕の余裕のない懐を心配してくれているんだろう。
そのやさしさをありがたいと思う。
でも、僕の瞳の色である深緑色のドレスを僕がメアリーにプレゼントして、そのドレスを着て夜会に行ってほしいと願ってしまう。
今、メアリーが夜会に着ていくドレスはどれもブルー系だ。
小さい頃からブルーが好きだから、ブルーのドレスが多いの、とメアリーは僕に言った。
でも、ブルーを見れば、どうしても思い出してしまう。
晴れた空のような瞳の色をした、まぶしかったあの存在を。
ダメだ……。
また、すぐに自分を苦しめる想像をしてしまう。
僕のために、メアリーは過去の噂を消そうとしてくれているんだ。
それなのに、僕が彼女の過去にとらわれてどうする!
それに、ブルーが好きな人なんて、この世には沢山いる。
実際、ローラさんもブルー系が好きだと、メアリーと楽しそうに話していたじゃないか。
そう、全部、僕の考えすぎだ。
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