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番外編
ある子息の初恋 18
メアリーが落とした扇子を拾うため手をのばしたら、自分の手がふるえていることに気がついた。
それでも、なんとか扇子を拾いあげると、わずかな希望をもって、「メアリー……」と、もう一度、声をかけてみる。
が、メアリーは僕に背をむけたまま、ふりむくことはない。
そのかわり、後ろ髪につけられた髪飾りだけが少しゆれた。
自然と夜会に来る前のことが思い出されて、胸がしめつけられる。
うしろをむいて、僕にこの髪飾りを見せてくれたメアリー。
髪飾りについている緑の石が僕の瞳の色みたいだから買ったと、微笑みながら言ってくれたのに……。
僕の瞳の色がきれいだと言ってくれたのに……。
今のメアリーの後ろ姿を見れば、この髪飾りのことも、僕の瞳の色のことも、……いや、僕自身がここにいることですら、忘れてしまっているのだろう……。
メアリーが誰を見ているのか……確認するのが怖い。
だが、このまま見ずにすむわけではないし、視界にいれなければ、なかったことにできるわけでもない。
僕は覚悟を決めて、メアリーが見ている方向に視線をむけた。
第二王子オズワルド様と王子妃リンダ様の前に、近づいていく長身の男性。
ダークな色味の飾り気のない地味な服を着ていても、思わず目を奪われるほどの容姿。
記憶の中よりも、シャープになったその面立ちは精悍で、甘さがぬけたようにも思える。
それでも輝くような金色の髪と鮮やかなブルーの瞳はそのままで、間違えようもない。
あああ、やっぱり……。
アーノルド様だ……。
頭で想像していても、実際、目にすると、思いっきり殴られたような衝撃がきた。
なんで、アーノルド様がここにいるんだ……!?
夜会には来ないはずじゃなかったのか……!?
やっとやっとメアリーと結婚できる日が近づいてきたのに……。
今になって、メアリーがアーノルド様を見てしまうなんて……あんまりだろう……。
どうしていいかわからなくて、頭がまっしろになる。
「アーノルド! 久しぶりだな! やっと顔をだしてくれたか!」
と、嬉しそうに声をあげたオズワルド様。
「お久しぶりです、オズワルド様。遅くなってすみません。仕事がながびいてしまって……」
と、落ち着いた様子で答えるアーノルド様。
「いや、来てくれて嬉しいよ! 忙しいのに無理を言って悪かったな。だが、どうしても、今日の夜会にはアーノルドに来てほしかったんだ。リンダの披露目の夜会でもあるからな」
「アーノルド様、今日は来てくださってありがとうございます。オズワルド様からアーノルド様のことはよく聞いております。お会いできてうれしいですわ!」
「リンダ様。そう言っていただけて光栄です。遅くなりましたが、ご結婚、心よりお祝い申し上げます。……リンダ様、オズワルド様のことをよろしくお願いします」
と、おだやかな笑みをうかべるアーノルド様。
その後も楽しそうに話をする華やかな三人は、周りの視線を一心に集めている。
アーノルド様たちがいる場所と、僕たちがいる場所の間には、結構な人がいる。
こちらからは、人と人との間を縫うようにして見ているけれど、向こうから、こちらの顔は見えないだろう。
それだけが救いだと思った。
目立つことさえしなければ、アーノルド様がメアリーを見つけることはないからだ。
ただ、距離としたら近い。
まわりの人たちも、アーノルド様たちの様子を興味深そうにうかがっているため、あたりは、妙にしんとしている。
そのため、そう大きな声をだしていなくても、会話ははっきりと聞こえてくる。
もちろん、メアリーにも聞こえているはずだ。
アーノルド様の声が……。
僕に背を向けたまま動かないメアリーは、今、どんな顔をしているのだろう……。
想像するだけで怖い。
その時、近くにいた婦人たちが小声でひそひそと話しはじめた。
「今、オズワルド様とお話されているあの素敵な方は、もしかして、キングス公爵家のご子息かしら……?」
「まあ! キングス公爵家って、もしかして、あの噂のあったご子息……!? 社交界にでられないからお顔を見たことがなかったのだけれど、本当に美しい方なのね。そういえば、キングス公爵夫人に面影が……」
まずい……。
メアリーの前で、その話はやめてくれ!
僕はいまだ動かないままのメアリーを見た。
メアリーを守れるのは僕だ。
アーノルド様が現れたことに、不安になっている場合じゃない。
とにかく、目立たないように、ここから、メアリーを連れて離れよう。
これ以上、夜会にいたら、とりかえしのつかないことになる気がする。
今ならまだ間に合うはずだ。
ここから離れさえすれば、メアリーはまた僕を見てくれる。
僕の瞳の色をきれいだと言ってくれたメアリーにきっと戻ってくれる。
だから、メアリーと一緒に早く帰ろう。
僕はそう心に誓って、僕に背をむけたままのメアリーの手をにぎった。
※ 更新が遅くなってすみません! 不定期な更新のうえ、読みづらいところも多々あると思いますが、読んでくださっているかた、本当にありがとうございます!!
そして、お気に入り登録、いいね、エールも本当にありがとうございます! とても励まされております!
それでも、なんとか扇子を拾いあげると、わずかな希望をもって、「メアリー……」と、もう一度、声をかけてみる。
が、メアリーは僕に背をむけたまま、ふりむくことはない。
そのかわり、後ろ髪につけられた髪飾りだけが少しゆれた。
自然と夜会に来る前のことが思い出されて、胸がしめつけられる。
うしろをむいて、僕にこの髪飾りを見せてくれたメアリー。
髪飾りについている緑の石が僕の瞳の色みたいだから買ったと、微笑みながら言ってくれたのに……。
僕の瞳の色がきれいだと言ってくれたのに……。
今のメアリーの後ろ姿を見れば、この髪飾りのことも、僕の瞳の色のことも、……いや、僕自身がここにいることですら、忘れてしまっているのだろう……。
メアリーが誰を見ているのか……確認するのが怖い。
だが、このまま見ずにすむわけではないし、視界にいれなければ、なかったことにできるわけでもない。
僕は覚悟を決めて、メアリーが見ている方向に視線をむけた。
第二王子オズワルド様と王子妃リンダ様の前に、近づいていく長身の男性。
ダークな色味の飾り気のない地味な服を着ていても、思わず目を奪われるほどの容姿。
記憶の中よりも、シャープになったその面立ちは精悍で、甘さがぬけたようにも思える。
それでも輝くような金色の髪と鮮やかなブルーの瞳はそのままで、間違えようもない。
あああ、やっぱり……。
アーノルド様だ……。
頭で想像していても、実際、目にすると、思いっきり殴られたような衝撃がきた。
なんで、アーノルド様がここにいるんだ……!?
夜会には来ないはずじゃなかったのか……!?
やっとやっとメアリーと結婚できる日が近づいてきたのに……。
今になって、メアリーがアーノルド様を見てしまうなんて……あんまりだろう……。
どうしていいかわからなくて、頭がまっしろになる。
「アーノルド! 久しぶりだな! やっと顔をだしてくれたか!」
と、嬉しそうに声をあげたオズワルド様。
「お久しぶりです、オズワルド様。遅くなってすみません。仕事がながびいてしまって……」
と、落ち着いた様子で答えるアーノルド様。
「いや、来てくれて嬉しいよ! 忙しいのに無理を言って悪かったな。だが、どうしても、今日の夜会にはアーノルドに来てほしかったんだ。リンダの披露目の夜会でもあるからな」
「アーノルド様、今日は来てくださってありがとうございます。オズワルド様からアーノルド様のことはよく聞いております。お会いできてうれしいですわ!」
「リンダ様。そう言っていただけて光栄です。遅くなりましたが、ご結婚、心よりお祝い申し上げます。……リンダ様、オズワルド様のことをよろしくお願いします」
と、おだやかな笑みをうかべるアーノルド様。
その後も楽しそうに話をする華やかな三人は、周りの視線を一心に集めている。
アーノルド様たちがいる場所と、僕たちがいる場所の間には、結構な人がいる。
こちらからは、人と人との間を縫うようにして見ているけれど、向こうから、こちらの顔は見えないだろう。
それだけが救いだと思った。
目立つことさえしなければ、アーノルド様がメアリーを見つけることはないからだ。
ただ、距離としたら近い。
まわりの人たちも、アーノルド様たちの様子を興味深そうにうかがっているため、あたりは、妙にしんとしている。
そのため、そう大きな声をだしていなくても、会話ははっきりと聞こえてくる。
もちろん、メアリーにも聞こえているはずだ。
アーノルド様の声が……。
僕に背を向けたまま動かないメアリーは、今、どんな顔をしているのだろう……。
想像するだけで怖い。
その時、近くにいた婦人たちが小声でひそひそと話しはじめた。
「今、オズワルド様とお話されているあの素敵な方は、もしかして、キングス公爵家のご子息かしら……?」
「まあ! キングス公爵家って、もしかして、あの噂のあったご子息……!? 社交界にでられないからお顔を見たことがなかったのだけれど、本当に美しい方なのね。そういえば、キングス公爵夫人に面影が……」
まずい……。
メアリーの前で、その話はやめてくれ!
僕はいまだ動かないままのメアリーを見た。
メアリーを守れるのは僕だ。
アーノルド様が現れたことに、不安になっている場合じゃない。
とにかく、目立たないように、ここから、メアリーを連れて離れよう。
これ以上、夜会にいたら、とりかえしのつかないことになる気がする。
今ならまだ間に合うはずだ。
ここから離れさえすれば、メアリーはまた僕を見てくれる。
僕の瞳の色をきれいだと言ってくれたメアリーにきっと戻ってくれる。
だから、メアリーと一緒に早く帰ろう。
僕はそう心に誓って、僕に背をむけたままのメアリーの手をにぎった。
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