天使かと思ったら魔王でした。怖すぎるので、婚約解消がんばります!

水無月あん

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幸運をもたらすもの

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そして、馬車が止まり、次の目的地に到着。

ドラゴンに会えるなんて、ドキドキがとまらない!
どこまでも、テンションがあがってしまうわ!

と、思ったら、斜め前の人から、どよーんとした重たい気が流れてくる。
頭のツノが消え、気落ちしたランディ王子だ。
あんな変なものがとれて、喜ぶならわかるけど、何故、気落ち?

私は、隣のユーリに小声で言った。
「ねえ、ランディ王子が、なんか落ち込んでるから、ユーリの魔力、適当に流してあげられないかしら?
あの氷の柱が、頭についている時、ユーリの魔力が感じられて喜んでたみたいだったから」

ユーリは、
「ふーん、変わってるね? じゃあ、手っ取り早く、凍らせる?」
と、小首をかしげた。

「ちょっと、かわいいしぐさで、なんてことを言うの?!
人を凍らせるもんじゃありません! ダメよ、ユーリ!」
私は、あわててとめた。

すると、ユーリが、うれしそうに微笑んだ。

「アデルが、かわいいって言ってくれた」

「いや、しぐさがかわいいって、言っただけだけど?」

「同じでしょ?」

「違います」

「同じだよね。だって、しぐさも、ぼくがしたことだからね」

「違うわ。しぐさのみを、かわいいって言ったの」

そんな不毛なやりとりをしていると、ジリムさんが、
「かわいい論争の途中、申し訳ありませんが、降りてください」
と、冷静に言った。

気がついたら、馬車の中は、ジリムさんと、私とユーリ、そして、ランディ王子だけになっている。

「では、私は先に降りますので、師匠様は、動かなくなっている弟子を回収してきてください」
そう言って、ジリムさんも降りていった。

あ、うなだれているランディ王子よね。
とにかく、動いてもらうには、またユーリの魔力を感じられればいいんだよね? 
もう一回、あのツノを作るにも、ここには水がないしね…。
あ、そうだ!

私は、襟元の小さなブローチを外して、
「ねえ、これにユーリの魔力をこめてくれる? ランディ王子につけてあげるから」
と、ユーリに頼んだ。

すると、ユーリは、
「絶対ダメ! ぼくでさえ、アデルから、アクセサリーなんてもらったことないのに」
と、断固拒否だ。

そんなこと言ってもね…。早くしないと、皆、外で待ってるし…。

その時、ユーリが、私のポシェットに目をやった。
「ねえ、朝から、ずっと気になってたんだけど、それなに?」

「ポシェットだよ。今日は観光だから、ハンカチくらいは持ってないと困るでしょ?」

「ポシェットはわかるよ。そうじゃなくて、ポシェットにぶらさがっている、ピンク色の変なまるいやつ」

「あ、これ、かわいいでしょ? 幸運をもたらすマスコットなんだって。
この旅行に来る前に、マルクにもらったの!」

「かわいい? 幸運? それが? で、結局、その物体はなんなの?」

「マカロンだよ! ユーリ、見てわからないの?」

「…」
無言になったユーリ。

そして、言った。
「アデル、それに魔力をこめて、ランディにあげる。だから、すぐに、はずして」

「ええっ、これ?! 結構、気に入ってるんだけど?」
と、私が反論すると、

「それよりは、はるかに幸運になりそうなものを、後であげるから。
それに、マルクとは言え、他の男のプレゼントをつけてるのは気に入らない。
だから、はずして? ね、アデル」
と、ユーリが、妖しく微笑んだ。

有無を言わせない圧の強さ。魔王っぽさが、もれだしている。

はいはい、わかりましたよ!
さようなら、私のマカロン!

私は、マカロンを外すと、ユーリに手渡した。

ユーリは、すぐさま、手をかざす。ひんやりとした空気が漂いはじめる。

「はい、終わり。じゃあ、ランディ、ぼくの魔力の入ったこれをあげるから」
と言って、うなだれているランディ王子の手のひらにのせた。

すると、はっと顔をあげたランディ王子。

「ユーリさんの魔力だ! 冷たくて、気持ちいい…」

「さっきの氷の柱よりは持つから。きれたら、また、ぼくの魔力をいれるよ」
と、ユーリが言うと、ランディ王子が、満面の笑みを浮かべて、ユーリを見た。

「ありがとう、ユーリさん!」
すっかり、元気になったランディ王子は、ピンクのマカロンのマスコットを、胸につけはじめた。

え?! そこへつけるの? マスコットは、ピンでとめられるけど、そこ?!
わたしも、マカロンはかわいいとは思うけど、そこ?!

結構、そのマカロン、大きいよね? しかも、ピンクだよ?
ランディ王子は、高級そうなシャツに、迷わず、ピンをつきさしている。

私はマカロンって知ってるから、そう見えるけど、知らない人だったら、不思議な丸いものを胸につけているように見えるだろうね。しかも、ボリュームがあるので、まず、目がそこへいく。

要するに、胸につけるものではないってことかしら…。

でも、本人は幸せそうよね。
マカロンパワー、恐るべし!

マルク、このマカロン、すでに幸運をもたらしたよ!
 オパール国へ帰ったら、私も、買おうっと!
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