【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~ 

ツヅラ

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1話 ヴェノム研究所

04

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 周囲に警戒しながら、車から下り、自らの足で研究所へ向かう。
 静かな森の中。日暮れで暗い森の中は、より不気味さを増している。

『――。――』

 無線のノイズに、班員全員が足を止め、言葉を待つが、何度かノイズが響いたと思えば、ノイズが止まった。

「軍曹、今のは」
「……なにかいるな」

 どの班かはわからないが、やられたらしい。
 変異種か、研究所の人間か、それはわからない。だが、確実にこちらに害を為す”なにか”がいる。
 先程無線が入ったことから、相手に無線を奪われた可能性があるため、下手に無線で連絡を取るのは危険だ。

『――こちらデルタ3。ひとりやられた』

 だが、予想に反し、すぐに聞こえてきた声に、無線に手をやる。

『石だ。投石器でも使って、こっちに投げてきてる』
「投石器? よっぽど予算がないのか……?」

 確かに、勢いさえあれば、石であろうと十分脅威になるが、銃の方が容易のはずだ。

『投石器の視認はできるか?』
『できません』

 視認さえできれば、こちらの持っている銃火器の方が射程も威力もある。破壊して、使っている人間を抑えられる。
 不意打ちでひとりやられたのは大きいが、投石器からの攻撃であれば、この視界が悪く、遮蔽物も多く、道も悪い森の中で、何度も連続して当てられるはずがない。

『投石器の破壊後、そちらへ合流します』
『了解』

 一体いくつ投石器が作られているかはわからないが、複数作られているとすれば、別方向から向かっている自分たちの方角にも一台は置いているだろう。
 身を低く、警戒しながら進もうとしたその時、強く風を切る音と共に、隣の隊員から鈍い音が響いた。

「ぐぁ゛……」

 防弾チョッキの上からとはいえ、質量のある石が勢い良くぶつかれば、衝撃はあるもので、座り込んだ。
 攻撃されたと石の飛んできた方向へ、銃弾を数発撃ち、すぐに動けるように睨みながら、舌打ちを零す。

「無事か!?」
「な、なんとか……」
「何が投石器だ。水平に飛んでくる投石器なんて聞いたことねェぞ」

 ボールでも投げるかのように、まっすぐに飛んできた石。
 投石器だというなら、相当な質量の岩を放物線を描いて飛ばす。森の中だから小さくしたのか。
 だが、いくら何でも威力があり過ぎる。
 無事だと言っているが、すぐに立ち上がれない様子を見る限り、相当なダメージが入っているのだろう。

「…………まさかな」

 頭に過った実験体の可能性を否定したかったが、排除しきれない可能性に、牧野は木陰に隠れるように身を低くする。
 そして、周りにも手ぶりだけで、屈むように指示をする。
 資料には、視覚、聴覚を改良する案もあった。どの程度の物かはわからないが、少なくとも石がこちらへ放たれたのは、無線で音が出た後だ。
 音で感知される可能性が高い。
 じっと動かず、音のひとつも鳴らさないようにすれば、遠くに微かに草を踏む音。
 音を立てないように、銃を構え、音の位置へ照準を合わせようとした時、また無線からノイズが響く。

「!!」

 咄嗟に身を逸らせば、自分の後ろにあった木の幹が抉れた。
 足音がしていた方向だが、先程投げられた方向とは、別方向だ。

「追います!」

 追撃をさせないために、発砲した部下が、草むらをかき分け走り出す。

「待て!!」

 最早確信めいた予想に、牧野もすぐに立ち上がり、部下を追いかけた。

『こど、も……?』

 誰かもわからない声が無線から響く中、目の前には、首だけをこちらに向けた部下が倒れていた。

 牧野たちは、一度車の止めていた場所まで戻ると、状況を確認し、頭を抱えた。

「デルタが全滅とはな……」

 4班に分けた内、1班が全滅。研究所裏手から退路を断つように配置した班は、無事だったが雨も降っていないのに沼地のようになっていた地面が行く手を邪魔していた。
 その沼地は、おそらく研究所側の妨害工作だろう。侵入経路を限定することにより、迎撃しやすくする。常套手段ではあるが、あくまでそれは防衛するための力がある場合の話だ。
 研究所にはそれだけの戦力があるということなのか。
 確かに、デルタは全滅。アルファも1人が死亡、1人が負傷している。森での戦闘は,、こちらに不利にも見える。

「応援を呼びますか?」
「いや……必要ない」

 この戦い方は、どこか特徴的であった。
 相手には、銃火器はもちろん、戦力に数えられる人が少ない。
 だからこそ、侵入経路を限定し、戦闘能力の高い人物をそこへ配置。確実に、ひとりずつ削っている。

 そして、その戦力なっているのは、実験として遺伝子を弄られた子供だ。

「子供……?」

 無線で最後に聞こえた言葉は、嘘ではなく、見たままの真実だったのだろう。

「作戦も戦闘も、どこか拙かった。経験はない。だが、この世界で生きられるように、身体能力だけは強化された変異種の人間の子供。そいつらが、俺たちの敵だ」

 銃が当たらなかったのも、単純な高さの問題だったのだろう。自分たちの想定していた敵の身長よりも、ずっと身長の低い相手。
 そして、あの異常な威力の投擲。投石器などではなく、単純に彼らが石を投げていただけであったのなら、音がしないことや石の飛んでくる方向がすぐに変わる理由に説明がつく。

 敵に当たりが付くならば、対策の立てようもある。
 人間の変異種ということは、久留米から渡された資料のどれかに対応する能力を持つということだ。

「軍曹。確認ですが、子供は、殺すのですか?」

 仲間が殺されたのは事実だ。だが、だからと言って、実験に使われた子供を殺すのは、気が引けた。
 それに、遺伝子を改良することのできた人間ならば、それにはまた価値がある。

「…………無力化可能ならば、確保だ。不可能なら、殺す」

 道徳心、人類の未来と仲間の命。天秤にかけるならば、牧野は迷わず仲間の命を取る。

*****

 研究所の屋上から、森の方へ目をやっていた2人の少年の内、ひとりが何かに気が付いたように顔を上げた。

「まずいっ……! 車で突っ込んでくるぞ!」

 最初に気が付いたのは、耳がいい少年だった。
 止まる気などないエンジンの音は、道無き道を走りながら、研究所の前まで辿り着くと、入り口に体当たりでもするかのように車体を擦り付けながら、ドリフトをする。

「うっわぁ……マジか……」

 本来開く方向ではない方向へ扉をこじ開けると、乗っていた隊員たちが一斉に建物の中へ下りて行った。
 その様子を森の木の枝の上で見ていた少年は、唖然と見送っていたが、やがて楽し気に口元を歪めた。

「進め! 進め! あいつらが戻ってくる前に、制圧しろ!!」

 ロクな作戦もなく、訓練された大人を殺害できる変異種の子供など、まともに相手にする気にもならない。
 彼らが森で迎撃すると言うなら、それを無視して彼らに命令する大人のいる研究所を占拠してしまうのが、一番手っ取り早く、被害が少ない。
 暗い研究所内へ隊員たちが飛び込んだ直後、入口に止められた車から何かが落下する音。
 足を止めずに振り返った先に見えたのは、荷台の上に乗った貯水タンク。

「屋上に一人以上いるな。職員の確保急げ!」

 研究所内に、戦闘ができる人間が誰もいないとは思っていなかったが、貯水タンクを投げ飛ばせるようなのは、変異種の人間くらいだろう。
 どちらにしろ、言葉が通じるのなら、研究員を脅せば、変異種を無力化することはできるはずだ。
 やけに暗い研究所に、どこか既視感を覚えながら走れば、すぐに辿り着いたモニタールームらしい場所。

「は……? なんだ、こりゃ……」

 入ってすぐに目に入ってきたのは赤。それから、鼻につく生臭く、錆びついた匂い。
 破壊されたモニターや散乱した機材は、ここで何かが起きたことだけは証明していたが、肝心な物は何一つしてなかった。

「軍曹。この先の実験区画は、5つの区画に分かれているようです」

 動いているモニターを操作すれば、モニターしていたであろう5つの区画が表示される。
 ここに来るまでに研究員の姿は無かった。残るは、この先の実験区画だけだ。
 だが、予想外の目の前の惨状は、だいぶ気掛かりだ。

「……チャーリーはここに残れ。アルファ、ブラボーで、この先の区画を捜索する」

 研究員を探すという目的は変わらないが、すんなりとは行かないかもしれない。
 牧野たちは実験区画へ侵入すると、先程よりも電気の通う音に、静かに頷き合うと、音のする通路に別れ、進む。

「子供だ。本当に子供がいる……!!」

 通路の向こう側、石を投げようと構えている子供の姿に声を上げれば、その子供は驚いたように目を見開くが、石は容赦なく飛んできた。
 投げる姿さえ見えていれば避けることはできるが、あまりにもただの子供の姿に、引き金を引く指が躊躇する。
 その僅かな隙に、少年は通路の向こうへ隠れてしまった。

「あいつら、暗闇でもこっちが見えてんのか」
「ハァ? 前のやつらは見えてなかったじゃんか!」
「あの目につけてる機械だろうな」
「じゃあ、俺が外してくるよ」

 ひとりが獣のように両腕を床につけ、構えるが、その様子を呆れたように見つめるふたり。

「見えないくせになに言ってんだ」
「ばっ!? ぶつかったの全部ぶん殴ればいいんだろ!?」
「ハァ~~……さすが、全身筋肉ヤロウは言うことが違うなぁ」
「テメェからぶっ殺してやろうか!?」
「お前らな……それに、お前もまた手あたり次第ぶっ壊して、今度こそPの部屋の電源が落ちたらどうする気だ」
「う゛……それは……」

 バツの悪そうに視線を逸らす少年の視界に映った、拳大の何かは、壁に跳ねて、こちらの通路に転がると、大きな音と光を立てた。
 
 ”スタングレネード”
 閃光と爆音で相手を怯ませ、無力化させる手榴弾は、視覚と聴覚を改良した変異種に、それは良く効くだろう。
 牧野の予想通り、通路の向こうで苦し気な声が聞こえる。

「今のうちに取り押さえ――」

 今のうちに変異種を無力化しようとした時、鉄の拉げる音が急激に近づいてくる。
 前を走る部下を押しのけ、手あたり次第に突進してくる少年の目も耳も聞こえてはいない。
 ただ、ひたすらに走り、触れたものを殴っては破壊して進む。

「ガァァアアァアァアアッ!!!」

 叫ぶ言葉は人間の物ではなく、牧野は目の前に迫る少年を撃ち、受け流すと、今度は殺傷力のある手榴弾を投げた。
 強い光によって視界の回復していない少年にとって、それは避けられるはずもなく、数秒後、少年の近くで手榴弾は弾けた。

「2人確保しました!」
「ブラボーはそのまま、ふたりを拘束しておけ」

 手榴弾の弾けた傍にいた少年に目をやれば、赤い血だまりを作り倒れたまま、動かない。

「アルファはこのまま進む」

 牧野は、微かに音の響く部屋にゆっくりと足を進める。
 どこか、馴染み深い足取りに違和感を持ちながら。

「さて、子供使った研究をしてるクソ野郎の顔でも拝もうかね」

 他の通路や部屋とは違い、明らかに生きている電源の部屋。
 もし、研究員が生きて、隠れているならここだ。
 決して誰も逃がすことのないように、銃を構えながら、部屋の扉を蹴り破った。

「――――」

 その部屋は、六畳もないほどの小さな部屋で、たったひとりだけがそこにいた。
 水槽の中で、頭から四肢にかけて、体中にたくさんのチューブを取り付けられた少女。

 それは、夢の中で会った”死神”の少女だった。

「牧野軍曹!!!」

 切羽詰まった部下の声に振り返れば、先程手榴弾に当たったはずの少年が、血に濡れ赤く染まったまま、荒い息で扉の向こうから顔を出していた。
 その様子は、まるであの夢の最後にでてきた赤い獣のようだった。
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