【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~ 

ツヅラ

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1話 ヴェノム研究所

05

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「離れ、ろ……!! そこから、離れろォォオオッッ!!!」

 雄たけびを上げながら、こちらに迫る少年をいなし蹴れば、床に倒れ込むが、金属製の床を抉り掴むように、こちらに体を向けたまま堪えると、大きく口を開け、顔を上げる。
 牧野も照準を少年の頭に合わせるが、引き金よりも先に尋ねた。

「どうして、その子は眠っているんだ」

 あの夢の最後、彼女は苦しんでいた。

 エンジェルポーションの出所は、この研究所。
 そして、エンジェルポーションの使用後に、その研究所で明らかな実験体となっている少女と夢の中で出会う。
 偶然などではない。
 この施設も、夢の中で確かに彼女と共に歩いた建物だ。

「ガァ゛ァ゛ア゛ア゛ッァ゛ア゛ァ゛ァ゛ア゛ァ゛ア゛ッッ!!!!」

 尋ねる言葉などわからないかのように、叫び、飛び掛かってくる。

 会話は不可能。
 危険な赤い獣は、即座に排除する対象。
 銃に噛みつかんとする少年の口に、引き金を引かなければいけない。

「ゥ゛ア゛ァ゛ッ!!」

 少年の口が閉じ、銃口を噛み砕いた衝撃が腕に伝わる。
 同時に、牧野は銃から手を離し、少年の頭を掴んだ。

「テメェは――――人間だろッッ!! 言いたいことは言葉で言えッ!!」

 そのまま、地面に頭から叩きつければ、凶悪な口は塞がり、背中に乗れば、簡単には動けない。

「その子を助けたいなら、言葉で、伝えろッ!!」

 抑える腕の下から覗く殺気の籠った視線に、負けじと牧野は続けた。

「テメェらガキだけじゃ、その子は、助けられねェだろッ!!」

 ピクリと指先に感じた感覚と共に、腕に感じる抵抗が弱まった。
 
「その人、助けて、くれるのか……?」

 腕の下から覗く目は、まだ疑っているようだったが、先程よりは会話できそうだった。

「約束はできない。俺たちも、この施設のことも実験のことも理解してるわけじゃない。だから、詳しい奴がいる。ここの研究員はどこにいる?」
「全員殺した」

 半ば予想はついていた答え。
 彼らが生きるためには仕方なかったのだろう。

「何があった」
「……知らない。ただ、その人が苦しそうに叫ぶから」

 そっと逸らされた視線は嘘をついているわけではなく、本当にわからないのだろう。
 何もわからないが、それでも水槽の中の彼女を助けるために、戦うしかなかった。

「そいつがわかるわけないじゃん。バカだもん」

 突然、会話に入ってきた声に振り返れば、腕の下の少年と同じくらいの少年と後ろで銃を構えている隊員。
 どうやら、彼は研究所の外の森で待ち構えていた少年らしい。
 牧野たちの突入後、しばらくしてから投降してきたという。

「怖い顔しないでくださーい。両手を上げたら、降参なんでしょ? 負け試合にエントリーする気はないって」

 終始このようなおちょくるような、真意の見えない態度のため、部下たちもどう対応すべきか迷い、連れてきたようだ。
 研究員が誰一人生きていないことが分かった今、少年たちの中で少しでも施設について知っている者がいるなら、話を聞きたいところだ。
 戦意がないというなら、なおいい。

「なら、お前はわかるのか?」
「聞きたい?」

 張り付けたような笑みで、蛇のようにこちらを見つめる少年に、後ろで銃を構えている部下に、銃を下させる。

「僕たちはね、生まれてからずっと、大人たちの言う”大事な実験”に付き合ってたんだ。特にPは、代わりのない大事な実験体だったんだよ」

 でも、あの日、大人たちは焦るように、今まで強引な実験を行っていなかったPに対して、突然自分たちに行うような体へ負担のかかる実験を行った。
 本来、実験体同士は、型番が違えばお互いを知ることなどないが、Pだけは違った。
 実験の傷を癒すため、Pは実験体の全員と意識を繋いでいた。故に、実験が行われた瞬間、全員にその苦痛が伝わってきた。

「そんで、キレたそいつが研究所を破壊しまくったってわけ」

 少年の話を、部下はまるで信じられないと眉を潜めていたが、牧野はあの夢での記憶と、異様な回復速度を見せた体のせいで、その話を絵空事だと一蹴することはできなかった。
 むしろ、夢だと捨て置いたことが、この研究所に来てから、やけに現実味を帯びてきている。

「こいつってば、適当に壊すもんだから、まともな設備が残ってんのがここくらいで」

 話しながら近づく少年は、身振り手振りで伝えるように牧野に向かって腕を振るう。
 妙な感覚に、牧野が視線を自分の腕へ向ければ、袖が刃物に切られたかのように裂けていた。

「あれ? うーん……オジサン、もしかして、Pと知り合い?」

 先程までと変わらない調子で会話を続ける少年は、少し不思議そうに牧野を見つめるが、牧野はそれどころではなかった。
 確実に、少年を抑えている腕を落とそうと、下手すれば自分を殺そうとしていた。
 何の殺気のないまま。武器のひとつも持たずに、素手で。
 銃を噛み砕かれてから、ようやく収まってきていたはずの心臓がまたうるさく響く。

「あーへぇ……んじゃ、いいや」

 だが、予想に反し、少年は水槽で眠る少女を一瞥すると、その手を頭の後ろに組み、踵を返した。

「いやいやいや!? 今、お前、俺を殺そうとしたよな!?」

 あまりにも行動が読めない少年に、つい牧野が声を上げれば、少年は心底めんどくさそうな表情で足を止めると、振り返った。

「殺してないんだからいいじゃん。こっまかいなぁ」
「細かくねェよ!! とんでもねェガキだな……」

 本当にめんどくさいとばかりに眉を潜める少年は、ふと目に入ったこちらへ向けられる銃口に、大きくため息をつくと、水槽に眠る少女を指さした。

「その子、助けないと、今度こそ殺されちゃうかもしれないですよ?」

 だから、とっとと助けてくださいね。
 ニヒルに笑う少年に、牧野は大きく息を吐き出した。
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