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4話 知見
03
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牧野は、やや霞んだ視界の中、足を進めていた。
O12が監視カメラを破壊してからというもの、夜間の彼らの監視のために、一緒の部屋に寝泊まりすることになったが、正直、ほとんど眠れていなかった。
彼らに寝首をかかれる心配もあるが、それよりも心配なのは、彼らが寝ぼけて自分に襲い掛かってくることだった。
無意識のため、手加減などはなく、殺意などもない。
つまり、避けようもない癖に、牧野にとっては致命傷になりかねない恐怖が、間近に4つも存在することになる。
これなら、森で一人野宿した方がまだ安心できるというものだ。
「クソ……P03の様子見たら、一回寝よう……」
川窪がヴェノリュシオンたちを見てくれている間に、少しでも仮眠を取っておこうと思っていたが、橋口たちからP03がまた食事を取らなくなっているため、様子を見に来てほしいと頼まれ、研究棟へ向かっていた。
以前、G45と共に様子を見に行った時は、大した苦労もなく食事を取っていたはずだ。
他のヴェノリュシオンと会う口実にしたいという仮説もあるが、G45以外を安全に研究棟へ連れてこれる自信はない。
特に、今の体調では、暴れ出したヴェノリュシオンを抑えられる自信はない。
「しかし、本当に、眠い……」
本格的に重くなってきた瞼に、5分ほどでも仮眠を取ってから行くべきかと、思い直した時だ。
ぷつりと意識が途切れた。
次に目を覚ましたのは、白い布の上だった。
覚えのない景色に、視線を添わせていれば、P03の寝顔。
「!?」
慌てて飛び起きれば、そこはP03の病室だった。
入った覚えは、ない。
「起きたの? おはよう」
眠そうに目をこするP03に、挨拶を返すが、頭に浮かぶのは疑問符ばかり。
しかし、妙に軽い体。
どのくらい寝たかはわからないが、嫌にスッキリしている眠気。
「?」
目の前で首を傾げる少女が、”エンジェルポーション”と呼ばれ、その効果の中に疲労回復があったことを思い出しては、頭に手をやってしまう。
「なぁ、俺をここに呼んだのは、お前?」
確認はしておくべきだろうと、P03に問いかければ、何事もないかのように頷かれた。
「マキノ、最近寝てないでしょ。みんなが怖くて」
細められる目に、言葉が詰まる。
誰にも言っていないはずの心の内を、はっきりと口にされて、ただ妙にスッキリとしている頭は悪態を垂れることもせず、落ち着いていた。
「Pは、人の心が読めるのか?」
「……読めるわけじゃないよ」
少しだけ意外そうに目を丸くしたP03は、不思議そうに首を傾げた。
「マキノ、これは怖くないのに、どうしてみんなと一緒に寝るのが怖いの?」
P03の様子を見に来る人のほとんどが、P03が自分の感情を言い当てれば、恐怖した。
気持ち悪いものを見るように怖がった。
しかし、牧野は驚くだけで、ヴェノリュシオンたちと部屋にいる時のような恐怖は抱いていなかった。
「そりゃ、アレだ。アイツらが、寝ぼけて暴れたら、俺の骨なんか軽く折れるだろ。痛いのイヤなんだよ。かっこ悪いから、他の奴らには内緒な?」
こっそりと小声で告げられた言葉に、P03はその言葉が嘘ではないことを感じ取ると、楽し気に笑い、頷いた。
「じゃあ、私が守ってあげるね」
「どういうことだ?」
「みんなが寝ぼけても、マキノの骨を折らないように、私が守ってあげる」
「でも、P03はまだここから出られないぞ?」
そう言いながら、牧野は未だP03に繋がる点滴へ目をやる。
食事を一度取った時には、点滴が外せるかもしれないという話もあったが、食事を取っていない現状ではまた難しくなっていた。
「ここにいてもできるよ」
自信ありげに答えるP03が言う方法が、どういったものかを牧野が理解することはできないが、無意識の内にこの部屋にいた自分の行動を鑑みれば、きっと可能なのだろう。
「そりゃ助かる」
「…………微妙に信じてない」
「う゛っ……」
不貞腐れたように牧野を見上げるP03に、つい顔を逸らしてしまう。
彼らのことを理解できているわけではない。特にP03の超能力など、理解できるはずもない。
むしろ、牧野は実体験があるだけ、半信半疑で留まっている方だ。
「それより、また飯食ってないって聞いたぞ。前は食べてただろ。何かあったか?」
話を逸らせば、不貞腐れたように見上げていた目は、視線が逸れる。
「食べたくない?」
以前と同じ言葉を言うのかと問いかければ、少しだけ口を強く結んだ。
「食べたら、みんなと一緒にいられるって言ったら、食べるか?」
食事こそ取れるようになれば、他の身体的問題はないため、他のヴェノリュシオンと一緒に管理する話が上がっている。
内部には批判の声もあるが、5人のことを考えれば、一緒にいられた方がいいだろう。
「4人と一緒にいたくない?」
「いたい」
はっきりと口にするP03に、牧野も眉を下げてしまう。
P03は、他のヴェノリュシオンに比べて、ずっと大人びていて、話もできる。人間に対して敵意があるかは、正直わからないと言ったところだが、少なくともそれを彼らのように、態度に示すことはない。
だというのに、食事だけは拒否する。
眠っていたから、食事をするという感覚がないというわけではない。それなら、G45と食事を取らなかったはずだ。
そもそも立ったり、歩いたりすることだって、生物は見ることで学び、真似をする。
P03の場合、現実で初めて目を開けたのは、あの水槽から出た時だ。
だが、その前からP03は、あの世界で生きていた。
他のヴェノリュシオンたちと、そして牧野のようにエンジェルポーションを使ったことで迷い込んでいた人間たちと。
現実ではなくとも、あの世界で、P03は生きて、学んでいた。
「――――」
ふと頭に過ったそれに牧野は席を立った。
O12が監視カメラを破壊してからというもの、夜間の彼らの監視のために、一緒の部屋に寝泊まりすることになったが、正直、ほとんど眠れていなかった。
彼らに寝首をかかれる心配もあるが、それよりも心配なのは、彼らが寝ぼけて自分に襲い掛かってくることだった。
無意識のため、手加減などはなく、殺意などもない。
つまり、避けようもない癖に、牧野にとっては致命傷になりかねない恐怖が、間近に4つも存在することになる。
これなら、森で一人野宿した方がまだ安心できるというものだ。
「クソ……P03の様子見たら、一回寝よう……」
川窪がヴェノリュシオンたちを見てくれている間に、少しでも仮眠を取っておこうと思っていたが、橋口たちからP03がまた食事を取らなくなっているため、様子を見に来てほしいと頼まれ、研究棟へ向かっていた。
以前、G45と共に様子を見に行った時は、大した苦労もなく食事を取っていたはずだ。
他のヴェノリュシオンと会う口実にしたいという仮説もあるが、G45以外を安全に研究棟へ連れてこれる自信はない。
特に、今の体調では、暴れ出したヴェノリュシオンを抑えられる自信はない。
「しかし、本当に、眠い……」
本格的に重くなってきた瞼に、5分ほどでも仮眠を取ってから行くべきかと、思い直した時だ。
ぷつりと意識が途切れた。
次に目を覚ましたのは、白い布の上だった。
覚えのない景色に、視線を添わせていれば、P03の寝顔。
「!?」
慌てて飛び起きれば、そこはP03の病室だった。
入った覚えは、ない。
「起きたの? おはよう」
眠そうに目をこするP03に、挨拶を返すが、頭に浮かぶのは疑問符ばかり。
しかし、妙に軽い体。
どのくらい寝たかはわからないが、嫌にスッキリしている眠気。
「?」
目の前で首を傾げる少女が、”エンジェルポーション”と呼ばれ、その効果の中に疲労回復があったことを思い出しては、頭に手をやってしまう。
「なぁ、俺をここに呼んだのは、お前?」
確認はしておくべきだろうと、P03に問いかければ、何事もないかのように頷かれた。
「マキノ、最近寝てないでしょ。みんなが怖くて」
細められる目に、言葉が詰まる。
誰にも言っていないはずの心の内を、はっきりと口にされて、ただ妙にスッキリとしている頭は悪態を垂れることもせず、落ち着いていた。
「Pは、人の心が読めるのか?」
「……読めるわけじゃないよ」
少しだけ意外そうに目を丸くしたP03は、不思議そうに首を傾げた。
「マキノ、これは怖くないのに、どうしてみんなと一緒に寝るのが怖いの?」
P03の様子を見に来る人のほとんどが、P03が自分の感情を言い当てれば、恐怖した。
気持ち悪いものを見るように怖がった。
しかし、牧野は驚くだけで、ヴェノリュシオンたちと部屋にいる時のような恐怖は抱いていなかった。
「そりゃ、アレだ。アイツらが、寝ぼけて暴れたら、俺の骨なんか軽く折れるだろ。痛いのイヤなんだよ。かっこ悪いから、他の奴らには内緒な?」
こっそりと小声で告げられた言葉に、P03はその言葉が嘘ではないことを感じ取ると、楽し気に笑い、頷いた。
「じゃあ、私が守ってあげるね」
「どういうことだ?」
「みんなが寝ぼけても、マキノの骨を折らないように、私が守ってあげる」
「でも、P03はまだここから出られないぞ?」
そう言いながら、牧野は未だP03に繋がる点滴へ目をやる。
食事を一度取った時には、点滴が外せるかもしれないという話もあったが、食事を取っていない現状ではまた難しくなっていた。
「ここにいてもできるよ」
自信ありげに答えるP03が言う方法が、どういったものかを牧野が理解することはできないが、無意識の内にこの部屋にいた自分の行動を鑑みれば、きっと可能なのだろう。
「そりゃ助かる」
「…………微妙に信じてない」
「う゛っ……」
不貞腐れたように牧野を見上げるP03に、つい顔を逸らしてしまう。
彼らのことを理解できているわけではない。特にP03の超能力など、理解できるはずもない。
むしろ、牧野は実体験があるだけ、半信半疑で留まっている方だ。
「それより、また飯食ってないって聞いたぞ。前は食べてただろ。何かあったか?」
話を逸らせば、不貞腐れたように見上げていた目は、視線が逸れる。
「食べたくない?」
以前と同じ言葉を言うのかと問いかければ、少しだけ口を強く結んだ。
「食べたら、みんなと一緒にいられるって言ったら、食べるか?」
食事こそ取れるようになれば、他の身体的問題はないため、他のヴェノリュシオンと一緒に管理する話が上がっている。
内部には批判の声もあるが、5人のことを考えれば、一緒にいられた方がいいだろう。
「4人と一緒にいたくない?」
「いたい」
はっきりと口にするP03に、牧野も眉を下げてしまう。
P03は、他のヴェノリュシオンに比べて、ずっと大人びていて、話もできる。人間に対して敵意があるかは、正直わからないと言ったところだが、少なくともそれを彼らのように、態度に示すことはない。
だというのに、食事だけは拒否する。
眠っていたから、食事をするという感覚がないというわけではない。それなら、G45と食事を取らなかったはずだ。
そもそも立ったり、歩いたりすることだって、生物は見ることで学び、真似をする。
P03の場合、現実で初めて目を開けたのは、あの水槽から出た時だ。
だが、その前からP03は、あの世界で生きていた。
他のヴェノリュシオンたちと、そして牧野のようにエンジェルポーションを使ったことで迷い込んでいた人間たちと。
現実ではなくとも、あの世界で、P03は生きて、学んでいた。
「――――」
ふと頭に過ったそれに牧野は席を立った。
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