17 / 67
4話 知見
04
しおりを挟む
しばらくして戻ってきた牧野の手には、小さな器。
器の中には、雑穀で作られたおかゆが入っていた。さすがに、以前のように肉というのは、杉原に注意されたのだ。
「ってわけで、P。食ってみないか?」
少しだけ眉を潜めたP03に、牧野も予想通りだと、P03の前に腰を下ろした。
そして、ふたつ持ってきていたスプーンのひとつを手に取ると、自分の口へ運んだ。
「ん……うまいよ」
しっかりとおかゆを飲み込むと、もう一方のスプーンでおかゆを掬い、P03へ差し出す。
「大丈夫だ。ほら、Pも食べてみろ」
もし、P03が食事の仕方を学んだとすれば、それはあの4人だ。
彼らは必ず、G45が毒味をして、安全を確認してから食べ物を口に運ぶ。彼らなりの生き残り方だ。
だとすれば、P03も誰かがその食べ物が安全であることを示せば、食事を口にする可能性は高い。
「…………」
スプーンを差し出しながら、P03が動くのを待っていれば、おずおずとスプーンの先に口を付けた。
ゆっくりとした頬の動きが止まると、今度はスプーン全体を覆うように、口を付けた。
「うまいか?」
「……うん」
「腹が痛かったり、気持ち悪くなったりは?」
「ううん」
大丈夫そうだと安心しながら、器をP03へ渡そうとすれば、口を開けて待っているP03。
「……」
反射的に、またおかゆを掬って、口に運んでしまう。
「P、ちゃんと自分で……」
また口を開けて待っているP03に、今回は仕方ないと、口に運ぶ牧野だった。
「興味深いデータでした。協力感謝致します。牧野軍曹」
突然やってきては、許可も取らずP03の部屋に入り、仮眠を取り始めた時は何事かと思ったが、P03の能力によるものと知れたのは、研究部隊にとっても大きな収穫だった。
その上、P03が頑なに食事を取らなかった理由もわかったのは大きい。
「そうなると、やはり確認したいのは、軍曹が体験したという精神世界ですね。実を言うと、エンジェルポーションを私も吸ってみたんです」
「は!? 嘘でしょ!?」
「ちゃんと許可を取りましたよ。数が少なくては、事実すら確証を得られませんから」
研究所から回収したデータの確認が終われば、今度は実際にいるヴェノリュシオンたちとの照合を行う予定になっている。
ただP03に関しては、ヴェノム研究所ですら、ほとんどわかっていないというのが事実であり、”エンジェルポーション”すら確立された技術ではなかった。
「エンジェルポーションを使用したと思われる方々にも確認を取ったんですが、既に依然感じたような兆候は見られないと。私も精神世界に入れたことはありませんし、今のところ、人間では軍曹だけが現状、精神世界に入っている存在ということになります」
P03の能力の解明には、彼女の協力はもちろん、彼女たちが口する精神世界についてを知る必要がある。
”超能力”という、今まで人間が踏み込むことのできなかった世界に踏み込むことのできる存在。研究者でなくても、心躍る存在だ。
「ですので、協力お願いしますね。牧野軍曹」
これが命令でなければ、ぜひ拒否したいものだ。
嬉しそうにレポートをまとめている橋口をしり目に、杉原はカメラに映し出されるP03を見つめていた。
P03の事情が分かった今、次にやることは決まった。
「牧野軍曹」
「ん?」
橋口から以前体験した精神世界について、根掘り葉掘り尋ねられた牧野は、少し疲れた様子で杉原を見上げる。
「ヴェノリュシオンたちを、全員一緒に監視することは可能ですか?」
定期的な検診は必要だが、P03が日常生活が可能であることを確認できれば、彼女も他のヴェノリュシオン同様、何か役に立てる方法を探ることになる。
既に、エンジェルポーションの事例があるため、医療部隊で活躍することは可能だろう。
だが、理解できない力での治療は、治療以上に恐怖を生む。ならば、他のヴェノリュシオンたちと共に行動した方がいい。
「回復後、Pは他と合流する予定だったろ。何か問題があったか?」
「えっと……人間基準なのかもしれませんが、他のヴェノリュシオンは男でしょう? 以前の、G45に関しても、力の差があるように感じまして……我々よりは力があるようですが、ヴェノリュシオンに比べたら、P03は人間に近い肉体をしています」
P03は、牧野同様、ヴェノリュシオンの攻撃で容易く怪我をする可能性がある。
身体的な問題については、研究部隊である橋口も同じ意見らしく、肉体としての強度は、他のヴェノリュシオンに比べて低いという。
「もし、群れ内部での戦いが起きた場合、まず勝てないと思われます。ただ、雌雄という話であれば、唯一のメス個体ではありますので、そもそも戦いに巻き込まれない可能性も高いですが」
「一応、人間ですよ。橋口さん」
「あぁ、そうでしたね。失礼しました。ただ、男女としてしまうと、少々生々しいでしょう?」
「そ、れは確かに……」
ふたりが懸念することはよくわかった。
その上で、牧野は、大丈夫だという確信があった。
「Pの能力には、どうやらあいつらにも拒否できないことがあるらしく、T曰く、俺もPのせいで攻撃をできないらしい」
「あぁ……先程の牧野軍曹のように、体を支配するということですか」
「詳しいことはわからないが、そういうことなんだろう」
寝ぼけて攻撃されないように守ると言ったことも、おそらく同じことだ。
P03の能力なのだろう。
橋口たちもそれならば、監視を牧野に任せることにするのだった。
牧野自身、とても個人的な感覚のため、口にはしなかったが、例えP03の能力が無かったとしても、4人はP03を傷つけるようなことはしないように思えた。
器の中には、雑穀で作られたおかゆが入っていた。さすがに、以前のように肉というのは、杉原に注意されたのだ。
「ってわけで、P。食ってみないか?」
少しだけ眉を潜めたP03に、牧野も予想通りだと、P03の前に腰を下ろした。
そして、ふたつ持ってきていたスプーンのひとつを手に取ると、自分の口へ運んだ。
「ん……うまいよ」
しっかりとおかゆを飲み込むと、もう一方のスプーンでおかゆを掬い、P03へ差し出す。
「大丈夫だ。ほら、Pも食べてみろ」
もし、P03が食事の仕方を学んだとすれば、それはあの4人だ。
彼らは必ず、G45が毒味をして、安全を確認してから食べ物を口に運ぶ。彼らなりの生き残り方だ。
だとすれば、P03も誰かがその食べ物が安全であることを示せば、食事を口にする可能性は高い。
「…………」
スプーンを差し出しながら、P03が動くのを待っていれば、おずおずとスプーンの先に口を付けた。
ゆっくりとした頬の動きが止まると、今度はスプーン全体を覆うように、口を付けた。
「うまいか?」
「……うん」
「腹が痛かったり、気持ち悪くなったりは?」
「ううん」
大丈夫そうだと安心しながら、器をP03へ渡そうとすれば、口を開けて待っているP03。
「……」
反射的に、またおかゆを掬って、口に運んでしまう。
「P、ちゃんと自分で……」
また口を開けて待っているP03に、今回は仕方ないと、口に運ぶ牧野だった。
「興味深いデータでした。協力感謝致します。牧野軍曹」
突然やってきては、許可も取らずP03の部屋に入り、仮眠を取り始めた時は何事かと思ったが、P03の能力によるものと知れたのは、研究部隊にとっても大きな収穫だった。
その上、P03が頑なに食事を取らなかった理由もわかったのは大きい。
「そうなると、やはり確認したいのは、軍曹が体験したという精神世界ですね。実を言うと、エンジェルポーションを私も吸ってみたんです」
「は!? 嘘でしょ!?」
「ちゃんと許可を取りましたよ。数が少なくては、事実すら確証を得られませんから」
研究所から回収したデータの確認が終われば、今度は実際にいるヴェノリュシオンたちとの照合を行う予定になっている。
ただP03に関しては、ヴェノム研究所ですら、ほとんどわかっていないというのが事実であり、”エンジェルポーション”すら確立された技術ではなかった。
「エンジェルポーションを使用したと思われる方々にも確認を取ったんですが、既に依然感じたような兆候は見られないと。私も精神世界に入れたことはありませんし、今のところ、人間では軍曹だけが現状、精神世界に入っている存在ということになります」
P03の能力の解明には、彼女の協力はもちろん、彼女たちが口する精神世界についてを知る必要がある。
”超能力”という、今まで人間が踏み込むことのできなかった世界に踏み込むことのできる存在。研究者でなくても、心躍る存在だ。
「ですので、協力お願いしますね。牧野軍曹」
これが命令でなければ、ぜひ拒否したいものだ。
嬉しそうにレポートをまとめている橋口をしり目に、杉原はカメラに映し出されるP03を見つめていた。
P03の事情が分かった今、次にやることは決まった。
「牧野軍曹」
「ん?」
橋口から以前体験した精神世界について、根掘り葉掘り尋ねられた牧野は、少し疲れた様子で杉原を見上げる。
「ヴェノリュシオンたちを、全員一緒に監視することは可能ですか?」
定期的な検診は必要だが、P03が日常生活が可能であることを確認できれば、彼女も他のヴェノリュシオン同様、何か役に立てる方法を探ることになる。
既に、エンジェルポーションの事例があるため、医療部隊で活躍することは可能だろう。
だが、理解できない力での治療は、治療以上に恐怖を生む。ならば、他のヴェノリュシオンたちと共に行動した方がいい。
「回復後、Pは他と合流する予定だったろ。何か問題があったか?」
「えっと……人間基準なのかもしれませんが、他のヴェノリュシオンは男でしょう? 以前の、G45に関しても、力の差があるように感じまして……我々よりは力があるようですが、ヴェノリュシオンに比べたら、P03は人間に近い肉体をしています」
P03は、牧野同様、ヴェノリュシオンの攻撃で容易く怪我をする可能性がある。
身体的な問題については、研究部隊である橋口も同じ意見らしく、肉体としての強度は、他のヴェノリュシオンに比べて低いという。
「もし、群れ内部での戦いが起きた場合、まず勝てないと思われます。ただ、雌雄という話であれば、唯一のメス個体ではありますので、そもそも戦いに巻き込まれない可能性も高いですが」
「一応、人間ですよ。橋口さん」
「あぁ、そうでしたね。失礼しました。ただ、男女としてしまうと、少々生々しいでしょう?」
「そ、れは確かに……」
ふたりが懸念することはよくわかった。
その上で、牧野は、大丈夫だという確信があった。
「Pの能力には、どうやらあいつらにも拒否できないことがあるらしく、T曰く、俺もPのせいで攻撃をできないらしい」
「あぁ……先程の牧野軍曹のように、体を支配するということですか」
「詳しいことはわからないが、そういうことなんだろう」
寝ぼけて攻撃されないように守ると言ったことも、おそらく同じことだ。
P03の能力なのだろう。
橋口たちもそれならば、監視を牧野に任せることにするのだった。
牧野自身、とても個人的な感覚のため、口にはしなかったが、例えP03の能力が無かったとしても、4人はP03を傷つけるようなことはしないように思えた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる