【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~ 

ツヅラ

文字の大きさ
20 / 67
5話 変化

03

しおりを挟む
 部屋に訪れた橋口は、G45とT19の二人と主に話していた。
 内容としては、特に当たり障りないもので、昨日は眠れたかなどといったもの。

「みんなは、研究所でも狩りをしていたの?」
「うーうん。俺はしてないけど、TとかSはしたことあるんでしょ?」

 G型の目的は、食すことだ。狩りではない。
 そのため、毎日ひたすらに未知の物質を食らい続けていた。

 だが、T型やS型は、その能力から数回研究所の外で調査を行っていた。だからこそ、研究所にいた時の周囲への警戒は、主にS08やT19が行っていた。

「じゃあ、今も二人が指揮を取ってるの?」
「指揮?」
「動きを教えることよ。獲物の動きを止めてほしいとか、仕留めてほしいとか、そういうのを指示する人よ」

 指揮をするには、狩りの知識に加えて、狩りを行う隊員たちのことを理解している必要がある。
 特徴を理解していない隊長が指揮する部隊など、自己本位に動いた方がまだ成功率も生存率も上がる場合がある。

 書類上は、牧野が管理していることになっているが、彼らの能力を把握しきれていない牧野は、フォローこそしても、本格的な指示は行っていないはずだ。
 それは普段の様子からも窺える。
 基本的に、一線を越えない限り、牧野は彼らの行動を否定することはない。
 頭ごなしに否定し、排除しては、いずれそれらを排除しきれなくなった時に、痛い目を見る。これは、橋口も同意見だった。

「指示……Sはまだしも、Tはやだな……」
「は? 脳筋バカなのにナマイキかよ」
「そんなんだから、ヤなんだよ! バーカ!」

 怒鳴るG45を煽るように、高速で舌を振るT19に、橋口も苦笑を零してしまう。

 ヴェノリュシオンの行動を確認する限り、基本的に団体行動。つまり、群れで行動を行っている。
 人間を含めた生物のほとんどが、生存率を上げるために、群れを成すのだから、行動そのものはおかしくない。
 ならば、自然と統治している群れのボスがいるはずだ。

 個体としての強さであれば、G45だろうが、目の前でT19に食って掛かり、バカにされている。これでは、群れを統治しているとは言えない。同じ理由で、T19も違う。
 ずっと遠目でこちらを見ているO12は、隻眼かつ牧野から報告されている狩猟の様子でも、補佐に回っていることが多く、ボスとは言えないだろう。
 群れの条件でいうならば、現在姿の見えないS08は、条件を満たしていると言える。

「そうだ。今度、みんなに協力してほしいことがあるの。ちょっとした確認だけだから、危険なものではないわ。いいかしら?」
「別に――――」
「そーゆーのって、牧野に聞くものじゃないですか?」
「もちろん聞くわよ。でも、大切なのは、本人たちの気持ちでしょ?」
「ふーん……」

 微笑む橋口に、T19は目を細めて見つめると、ちょうどその時、扉が開き、牧野たちが帰ってきた。

「橋口さん? 一体どうしたんです?」
「少し、ヴェノリュシオンの子たちと話しをしていたんです。カメラも無くなって、観察ができなくなってしまいましたし」
「だからって、中で待ってなくても……こいつら、この見た目ですけど、大人以上に力ありますよ……?」
「その時はその時です」
「そ、そうですか……」

 微笑んだまま言葉を返す橋口に、牧野も頬を引きつらせるしかなかった。

 以前話していたヴェノリュシオンたちの能力の確認について、本人たちにも同意を取りたかったと、建前と思える理由を牧野に伝えると、扉の向こうに消えていった。

「研究部隊は、変人が多いって聞くが、わからんもんだな」

 ヴェノリュシオンたちを怖がる兵士が多い中で、橋口を含め、研究部隊の一部は好意的な態度を取る者も多い。
 そのほとんどが、未知なるものへの興味であろうが。

「おかえり。びっくりしたよ。急に出ていくんだもん」
「ただいまぁ。マキノ、呼びに行ってたんだ」
「そっかぁ」

 ようやくS08の肩から降ろされるが、S08の眉間には子供とは思えない皺が深く刻まれていた。

「ひとりで外に出るなんて、どうかしてる。二度とするな」
「S? そんなに怒らなくても……別に、建物の中なら危なくないって」
「過保護かよ」

 G45とO12が、P03の腕を掴んだままのS08を宥めようとするが、殺気の籠った視線が向けられる。

「人間の身勝手さをわからない奴が口答えするな」

 S08は、ヴェノリュシオンたちの中で、P03に次ぐ古い個体だった。
 開発初期の手探りの実験から生き残っている個体であり、同一の個体から得られる情報は大きく、研究者たちは毎日のようにS08へ実験を繰り返した。
 恵まれた肉体が憎かった。そうでなければ、とっくに楽になっていたというのに。
 心はすっかり疲れ切り、ただ終わりを待っていたS08に触れたのは、P03だった。

「喧嘩はダメだよ?」

 昔と変わらず、頬に触れた手は、頬を摘まむ。

「それに――――?」

 昔の泣きそうな笑顔ではなく、最近の柔らか微笑みでもなく、ひどく冷たい表情に息が詰まった。

「す、まん……」

 辛うじて返せた言葉に、P03は目を細め、頬から手を離した。
 その表情に、G45とO12が珍しく肩を寄せ合い、牧野すら驚いたように目を見開いていた。
 そんな中、たったひとり気にせず、P03の後ろから抱き着くように肩を組むT19。

「めっずらしぃ~Pが怒るとか。ウケる」
「怒っ……てた……?」
「うんうん。怒ってた怒ってた。激おこぷんぷん。そんなにイヤだった? 殺す?」

 自分の頬を摘まみながら、P03は心配そうにこちらの様子を伺う三人の様子を見つめると、眉を下げた。
 物騒な言葉に、足を半歩進めていた牧野だったが、首を横に振るP03に、少しだけ胸を撫で下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...