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5話 変化
03
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部屋に訪れた橋口は、G45とT19の二人と主に話していた。
内容としては、特に当たり障りないもので、昨日は眠れたかなどといったもの。
「みんなは、研究所でも狩りをしていたの?」
「うーうん。俺はしてないけど、TとかSはしたことあるんでしょ?」
G型の目的は、食すことだ。狩りではない。
そのため、毎日ひたすらに未知の物質を食らい続けていた。
だが、T型やS型は、その能力から数回研究所の外で調査を行っていた。だからこそ、研究所にいた時の周囲への警戒は、主にS08やT19が行っていた。
「じゃあ、今も二人が指揮を取ってるの?」
「指揮?」
「動きを教えることよ。獲物の動きを止めてほしいとか、仕留めてほしいとか、そういうのを指示する人よ」
指揮をするには、狩りの知識に加えて、狩りを行う隊員たちのことを理解している必要がある。
特徴を理解していない隊長が指揮する部隊など、自己本位に動いた方がまだ成功率も生存率も上がる場合がある。
書類上は、牧野が管理していることになっているが、彼らの能力を把握しきれていない牧野は、フォローこそしても、本格的な指示は行っていないはずだ。
それは普段の様子からも窺える。
基本的に、一線を越えない限り、牧野は彼らの行動を否定することはない。
頭ごなしに否定し、排除しては、いずれそれらを排除しきれなくなった時に、痛い目を見る。これは、橋口も同意見だった。
「指示……Sはまだしも、Tはやだな……」
「は? 脳筋バカなのにナマイキかよ」
「そんなんだから、ヤなんだよ! バーカ!」
怒鳴るG45を煽るように、高速で舌を振るT19に、橋口も苦笑を零してしまう。
ヴェノリュシオンの行動を確認する限り、基本的に団体行動。つまり、群れで行動を行っている。
人間を含めた生物のほとんどが、生存率を上げるために、群れを成すのだから、行動そのものはおかしくない。
ならば、自然と統治している群れのボスがいるはずだ。
個体としての強さであれば、G45だろうが、目の前でT19に食って掛かり、バカにされている。これでは、群れを統治しているとは言えない。同じ理由で、T19も違う。
ずっと遠目でこちらを見ているO12は、隻眼かつ牧野から報告されている狩猟の様子でも、補佐に回っていることが多く、ボスとは言えないだろう。
群れの条件でいうならば、現在姿の見えないS08は、条件を満たしていると言える。
「そうだ。今度、みんなに協力してほしいことがあるの。ちょっとした確認だけだから、危険なものではないわ。いいかしら?」
「別に――――」
「そーゆーのって、牧野に聞くものじゃないですか?」
「もちろん聞くわよ。でも、大切なのは、本人たちの気持ちでしょ?」
「ふーん……」
微笑む橋口に、T19は目を細めて見つめると、ちょうどその時、扉が開き、牧野たちが帰ってきた。
「橋口さん? 一体どうしたんです?」
「少し、ヴェノリュシオンの子たちと話しをしていたんです。カメラも無くなって、観察ができなくなってしまいましたし」
「だからって、中で待ってなくても……こいつら、この見た目ですけど、大人以上に力ありますよ……?」
「その時はその時です」
「そ、そうですか……」
微笑んだまま言葉を返す橋口に、牧野も頬を引きつらせるしかなかった。
以前話していたヴェノリュシオンたちの能力の確認について、本人たちにも同意を取りたかったと、建前と思える理由を牧野に伝えると、扉の向こうに消えていった。
「研究部隊は、変人が多いって聞くが、わからんもんだな」
ヴェノリュシオンたちを怖がる兵士が多い中で、橋口を含め、研究部隊の一部は好意的な態度を取る者も多い。
そのほとんどが、未知なるものへの興味であろうが。
「おかえり。びっくりしたよ。急に出ていくんだもん」
「ただいまぁ。マキノ、呼びに行ってたんだ」
「そっかぁ」
ようやくS08の肩から降ろされるが、S08の眉間には子供とは思えない皺が深く刻まれていた。
「ひとりで外に出るなんて、どうかしてる。二度とするな」
「S? そんなに怒らなくても……別に、建物の中なら危なくないって」
「過保護かよ」
G45とO12が、P03の腕を掴んだままのS08を宥めようとするが、殺気の籠った視線が向けられる。
「人間の身勝手さをわからない奴が口答えするな」
S08は、ヴェノリュシオンたちの中で、P03に次ぐ古い個体だった。
開発初期の手探りの実験から生き残っている個体であり、同一の個体から得られる情報は大きく、研究者たちは毎日のようにS08へ実験を繰り返した。
恵まれた肉体が憎かった。そうでなければ、とっくに楽になっていたというのに。
心はすっかり疲れ切り、ただ終わりを待っていたS08に触れたのは、P03だった。
「喧嘩はダメだよ?」
昔と変わらず、頬に触れた手は、頬を摘まむ。
「それに――――私より知らないでしょ?」
昔の泣きそうな笑顔ではなく、最近の柔らか微笑みでもなく、ひどく冷たい表情に息が詰まった。
「す、まん……」
辛うじて返せた言葉に、P03は目を細め、頬から手を離した。
その表情に、G45とO12が珍しく肩を寄せ合い、牧野すら驚いたように目を見開いていた。
そんな中、たったひとり気にせず、P03の後ろから抱き着くように肩を組むT19。
「めっずらしぃ~Pが怒るとか。ウケる」
「怒っ……てた……?」
「うんうん。怒ってた怒ってた。激おこぷんぷん。そんなにイヤだった? 殺す?」
自分の頬を摘まみながら、P03は心配そうにこちらの様子を伺う三人の様子を見つめると、眉を下げた。
物騒な言葉に、足を半歩進めていた牧野だったが、首を横に振るP03に、少しだけ胸を撫で下ろした。
内容としては、特に当たり障りないもので、昨日は眠れたかなどといったもの。
「みんなは、研究所でも狩りをしていたの?」
「うーうん。俺はしてないけど、TとかSはしたことあるんでしょ?」
G型の目的は、食すことだ。狩りではない。
そのため、毎日ひたすらに未知の物質を食らい続けていた。
だが、T型やS型は、その能力から数回研究所の外で調査を行っていた。だからこそ、研究所にいた時の周囲への警戒は、主にS08やT19が行っていた。
「じゃあ、今も二人が指揮を取ってるの?」
「指揮?」
「動きを教えることよ。獲物の動きを止めてほしいとか、仕留めてほしいとか、そういうのを指示する人よ」
指揮をするには、狩りの知識に加えて、狩りを行う隊員たちのことを理解している必要がある。
特徴を理解していない隊長が指揮する部隊など、自己本位に動いた方がまだ成功率も生存率も上がる場合がある。
書類上は、牧野が管理していることになっているが、彼らの能力を把握しきれていない牧野は、フォローこそしても、本格的な指示は行っていないはずだ。
それは普段の様子からも窺える。
基本的に、一線を越えない限り、牧野は彼らの行動を否定することはない。
頭ごなしに否定し、排除しては、いずれそれらを排除しきれなくなった時に、痛い目を見る。これは、橋口も同意見だった。
「指示……Sはまだしも、Tはやだな……」
「は? 脳筋バカなのにナマイキかよ」
「そんなんだから、ヤなんだよ! バーカ!」
怒鳴るG45を煽るように、高速で舌を振るT19に、橋口も苦笑を零してしまう。
ヴェノリュシオンの行動を確認する限り、基本的に団体行動。つまり、群れで行動を行っている。
人間を含めた生物のほとんどが、生存率を上げるために、群れを成すのだから、行動そのものはおかしくない。
ならば、自然と統治している群れのボスがいるはずだ。
個体としての強さであれば、G45だろうが、目の前でT19に食って掛かり、バカにされている。これでは、群れを統治しているとは言えない。同じ理由で、T19も違う。
ずっと遠目でこちらを見ているO12は、隻眼かつ牧野から報告されている狩猟の様子でも、補佐に回っていることが多く、ボスとは言えないだろう。
群れの条件でいうならば、現在姿の見えないS08は、条件を満たしていると言える。
「そうだ。今度、みんなに協力してほしいことがあるの。ちょっとした確認だけだから、危険なものではないわ。いいかしら?」
「別に――――」
「そーゆーのって、牧野に聞くものじゃないですか?」
「もちろん聞くわよ。でも、大切なのは、本人たちの気持ちでしょ?」
「ふーん……」
微笑む橋口に、T19は目を細めて見つめると、ちょうどその時、扉が開き、牧野たちが帰ってきた。
「橋口さん? 一体どうしたんです?」
「少し、ヴェノリュシオンの子たちと話しをしていたんです。カメラも無くなって、観察ができなくなってしまいましたし」
「だからって、中で待ってなくても……こいつら、この見た目ですけど、大人以上に力ありますよ……?」
「その時はその時です」
「そ、そうですか……」
微笑んだまま言葉を返す橋口に、牧野も頬を引きつらせるしかなかった。
以前話していたヴェノリュシオンたちの能力の確認について、本人たちにも同意を取りたかったと、建前と思える理由を牧野に伝えると、扉の向こうに消えていった。
「研究部隊は、変人が多いって聞くが、わからんもんだな」
ヴェノリュシオンたちを怖がる兵士が多い中で、橋口を含め、研究部隊の一部は好意的な態度を取る者も多い。
そのほとんどが、未知なるものへの興味であろうが。
「おかえり。びっくりしたよ。急に出ていくんだもん」
「ただいまぁ。マキノ、呼びに行ってたんだ」
「そっかぁ」
ようやくS08の肩から降ろされるが、S08の眉間には子供とは思えない皺が深く刻まれていた。
「ひとりで外に出るなんて、どうかしてる。二度とするな」
「S? そんなに怒らなくても……別に、建物の中なら危なくないって」
「過保護かよ」
G45とO12が、P03の腕を掴んだままのS08を宥めようとするが、殺気の籠った視線が向けられる。
「人間の身勝手さをわからない奴が口答えするな」
S08は、ヴェノリュシオンたちの中で、P03に次ぐ古い個体だった。
開発初期の手探りの実験から生き残っている個体であり、同一の個体から得られる情報は大きく、研究者たちは毎日のようにS08へ実験を繰り返した。
恵まれた肉体が憎かった。そうでなければ、とっくに楽になっていたというのに。
心はすっかり疲れ切り、ただ終わりを待っていたS08に触れたのは、P03だった。
「喧嘩はダメだよ?」
昔と変わらず、頬に触れた手は、頬を摘まむ。
「それに――――私より知らないでしょ?」
昔の泣きそうな笑顔ではなく、最近の柔らか微笑みでもなく、ひどく冷たい表情に息が詰まった。
「す、まん……」
辛うじて返せた言葉に、P03は目を細め、頬から手を離した。
その表情に、G45とO12が珍しく肩を寄せ合い、牧野すら驚いたように目を見開いていた。
そんな中、たったひとり気にせず、P03の後ろから抱き着くように肩を組むT19。
「めっずらしぃ~Pが怒るとか。ウケる」
「怒っ……てた……?」
「うんうん。怒ってた怒ってた。激おこぷんぷん。そんなにイヤだった? 殺す?」
自分の頬を摘まみながら、P03は心配そうにこちらの様子を伺う三人の様子を見つめると、眉を下げた。
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