21 / 67
5話 変化
04
しおりを挟む
午後になれば、雨は弱くなり、風も随分と収まってきた。
そうなれば、行うのは、被害状況の確認と修繕だ。
「朝から肉体労働ばっかァ~~!!」
「文句言うな。畑の修繕なだけマシだろ」
セーフ区画とはいえ、人を襲う変異種はいるし、駐屯地の周りには柵が用意されている。
それが壊れていないかを点検する部隊に、周囲の森を捜索し、地形や変異種の分布の変化を確認する部隊も編制されている。
柵内部で、畑や建物の修繕に当たれるのは、比較的安全で運がいいと言えた。
「土のついたのは弾けよ。そこから腐るから」
「はぁーい」
ヴェノリュシオンたちのおかげで、肉についての食料事情はずいぶん良くなった。
植物に関しては、ヴェノリュシオンたちにとっても、発見は時の運が大きく、安定はしない。特に、穀物は畑が頼りだ。
随分と倒れてしまっている稲に、今年の収穫量は大きく下がることが容易に想像ができてしまう。
「日本酒……」
「おまっ……この米で酒作ったら、マジで殺されるぞ」
「それはさすがにわかってる」
品種改良というより、遺伝子変異によって、環境に適応し、少ない株でも多くの実をつけるようになった現代の米は、以前のものに比べれば、ずっと味が落ちているという。
だが、この変異のおかげで、居住区に収まりきらなかった人間が助かった。
その一本で箒が作れそうな稲穂をつける稲ですら、食糧不足を解消するには足りない。そんな貴重な米で日本酒など作ってみろ。ただ殺してくれるだけでも優しい。
「…………」
選定されていく稲たちを眺めていれば、遠くから聞こえる場違いな声。
その声に、選定していた兵士たちも口を閉じ、その声の方へ静かに耳を傾けていた。
「…………Gじゃん! 今ヒマ!? ヒマだよねぇ? 手伝ってぇ!!」
楸は、その声の方へ手を振ると、駆け寄り、抱き着いた。
「もう朝から荷物運びだの、土運びだの、チョー疲れたぁ!! いいでしょぉ?」
「えぇ……俺、これから狩りだし、ムリだよ。あとで手伝うから」
楸に抱き着かれながら、G45も慣れた様子で、後でと返す。
楸と出会ってからというもの、こうして絡まれることにも慣れてしまった。というか、一日一回どころではないのだ。事あるごとに、「おねがぁ~い」と擦り寄ってくるのだ。この男。
「マジでぇ? 男に二言はなしだからな!?」
「別に言わないよ。重いの残しといてくれたらやるよ」
「おっとこまえ……キュンです」
「ハ?」
言っていることは理解できないことが多いし、正直G45以外に同じ態度を取ったのなら、殴られる覚悟は必要だろうが、彼らが外に出てくることも少なく、楸は絡んだことが無かった。
だが、今日は狩りに行くというだけあり、他のヴェノリュシオンたちも一緒らしい。
その中には、今朝あったP03とS08もいた。
「Pちゃんも朝ぶり~ちゃんと靴履いてきたんだねぇ。似合ってるよ」
「ありがとー」
噂に聞いたヴェノリュシオンは5人。
目の前にいる5人がそうなのだろう。全員、まだ小さな子供だ。それが、毎日のように積み上げられている変異種の山を狩ってきている張本人たちなどと、誰が想像するというのか。
「足元悪いだろうから、気を付けなよ」
「心配してくれるの? ありがとう」
微笑むP03は、ふと引っ張られる袖に振り返れば、O12が袖を引いていた。
「アホが伝染る」
はっきりと告げられた言葉に、三人はその意味を理解するまで同じように瞬きを繰り返すと、ふたりが同時に叫んだ。
「誰がアホだ!?」
「オブラートに包めよ!?」
事前に耳を塞いでいたS08が、それでもうるさそうに眉を潜め、T19が呆れたように明後日の方向へ目をやった。
「はいはい。終わりだ終わり。今日は、周辺調査もあるから、いつもより時間ないって言っただろ。喧嘩はやめてくれ」
いまだにO12に文句を言い続けているG45の首根っこを掴みつつ、楸にも戻るように命令すると、未だにO12に飛び掛かろうとしているG45を引きずるように森の方へ歩いて行った。
「お前、よく自分から行けるな」
作業に戻れば、心配をしているのか、気味が悪いのか、視線を逸らしたままかけられる言葉。
「牧野軍曹は、わりとフレンドリーな方だと思うけど……え、何? 苦手なの? 仲介してやろっか?」
「ちげーよ! ヴェノリュシオンたちの方だよ!」
わかってて言ってるだろ。と、呆れるような視線を向けられるが、楸は笑いながら手を振った。
「お前ら、Gに色々手伝ってもらってんじゃん」
「それは、Gだけだろ」
G45以外のヴェノリュシオンたちとは会話をしたことはないし、遠巻きに見たことがある程度だ。
「まぁ、俺もG以外とは今日会ったばっかだけどなぁ」
しかも、P03以外は名前も知らない。
「んーでも、まぁ、なんつーか、そんなに俺らと変わらないように見えるんだよなぁ」
友達にちょっかいをかけては喧嘩して、自分の主張が正しいと思って突き進んで大人に怒られて、自分たちと何も変わらない。
楸は、目の前にある実りかけの稲穂を見つめながら、そう呟いた。
「楸、お前……そんないい感じのこと言っていいのか……? 死亡フラグっぽいぞ」
「ちょぉっ……!? 縁起でもないこと言うなよ!?」
冗談だと笑う仲間に、口を尖らせながら楸が文句を言っていれば、遠くから呼ぶ声に目を向ければ、召集の声だった。
そうなれば、行うのは、被害状況の確認と修繕だ。
「朝から肉体労働ばっかァ~~!!」
「文句言うな。畑の修繕なだけマシだろ」
セーフ区画とはいえ、人を襲う変異種はいるし、駐屯地の周りには柵が用意されている。
それが壊れていないかを点検する部隊に、周囲の森を捜索し、地形や変異種の分布の変化を確認する部隊も編制されている。
柵内部で、畑や建物の修繕に当たれるのは、比較的安全で運がいいと言えた。
「土のついたのは弾けよ。そこから腐るから」
「はぁーい」
ヴェノリュシオンたちのおかげで、肉についての食料事情はずいぶん良くなった。
植物に関しては、ヴェノリュシオンたちにとっても、発見は時の運が大きく、安定はしない。特に、穀物は畑が頼りだ。
随分と倒れてしまっている稲に、今年の収穫量は大きく下がることが容易に想像ができてしまう。
「日本酒……」
「おまっ……この米で酒作ったら、マジで殺されるぞ」
「それはさすがにわかってる」
品種改良というより、遺伝子変異によって、環境に適応し、少ない株でも多くの実をつけるようになった現代の米は、以前のものに比べれば、ずっと味が落ちているという。
だが、この変異のおかげで、居住区に収まりきらなかった人間が助かった。
その一本で箒が作れそうな稲穂をつける稲ですら、食糧不足を解消するには足りない。そんな貴重な米で日本酒など作ってみろ。ただ殺してくれるだけでも優しい。
「…………」
選定されていく稲たちを眺めていれば、遠くから聞こえる場違いな声。
その声に、選定していた兵士たちも口を閉じ、その声の方へ静かに耳を傾けていた。
「…………Gじゃん! 今ヒマ!? ヒマだよねぇ? 手伝ってぇ!!」
楸は、その声の方へ手を振ると、駆け寄り、抱き着いた。
「もう朝から荷物運びだの、土運びだの、チョー疲れたぁ!! いいでしょぉ?」
「えぇ……俺、これから狩りだし、ムリだよ。あとで手伝うから」
楸に抱き着かれながら、G45も慣れた様子で、後でと返す。
楸と出会ってからというもの、こうして絡まれることにも慣れてしまった。というか、一日一回どころではないのだ。事あるごとに、「おねがぁ~い」と擦り寄ってくるのだ。この男。
「マジでぇ? 男に二言はなしだからな!?」
「別に言わないよ。重いの残しといてくれたらやるよ」
「おっとこまえ……キュンです」
「ハ?」
言っていることは理解できないことが多いし、正直G45以外に同じ態度を取ったのなら、殴られる覚悟は必要だろうが、彼らが外に出てくることも少なく、楸は絡んだことが無かった。
だが、今日は狩りに行くというだけあり、他のヴェノリュシオンたちも一緒らしい。
その中には、今朝あったP03とS08もいた。
「Pちゃんも朝ぶり~ちゃんと靴履いてきたんだねぇ。似合ってるよ」
「ありがとー」
噂に聞いたヴェノリュシオンは5人。
目の前にいる5人がそうなのだろう。全員、まだ小さな子供だ。それが、毎日のように積み上げられている変異種の山を狩ってきている張本人たちなどと、誰が想像するというのか。
「足元悪いだろうから、気を付けなよ」
「心配してくれるの? ありがとう」
微笑むP03は、ふと引っ張られる袖に振り返れば、O12が袖を引いていた。
「アホが伝染る」
はっきりと告げられた言葉に、三人はその意味を理解するまで同じように瞬きを繰り返すと、ふたりが同時に叫んだ。
「誰がアホだ!?」
「オブラートに包めよ!?」
事前に耳を塞いでいたS08が、それでもうるさそうに眉を潜め、T19が呆れたように明後日の方向へ目をやった。
「はいはい。終わりだ終わり。今日は、周辺調査もあるから、いつもより時間ないって言っただろ。喧嘩はやめてくれ」
いまだにO12に文句を言い続けているG45の首根っこを掴みつつ、楸にも戻るように命令すると、未だにO12に飛び掛かろうとしているG45を引きずるように森の方へ歩いて行った。
「お前、よく自分から行けるな」
作業に戻れば、心配をしているのか、気味が悪いのか、視線を逸らしたままかけられる言葉。
「牧野軍曹は、わりとフレンドリーな方だと思うけど……え、何? 苦手なの? 仲介してやろっか?」
「ちげーよ! ヴェノリュシオンたちの方だよ!」
わかってて言ってるだろ。と、呆れるような視線を向けられるが、楸は笑いながら手を振った。
「お前ら、Gに色々手伝ってもらってんじゃん」
「それは、Gだけだろ」
G45以外のヴェノリュシオンたちとは会話をしたことはないし、遠巻きに見たことがある程度だ。
「まぁ、俺もG以外とは今日会ったばっかだけどなぁ」
しかも、P03以外は名前も知らない。
「んーでも、まぁ、なんつーか、そんなに俺らと変わらないように見えるんだよなぁ」
友達にちょっかいをかけては喧嘩して、自分の主張が正しいと思って突き進んで大人に怒られて、自分たちと何も変わらない。
楸は、目の前にある実りかけの稲穂を見つめながら、そう呟いた。
「楸、お前……そんないい感じのこと言っていいのか……? 死亡フラグっぽいぞ」
「ちょぉっ……!? 縁起でもないこと言うなよ!?」
冗談だと笑う仲間に、口を尖らせながら楸が文句を言っていれば、遠くから呼ぶ声に目を向ければ、召集の声だった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる