【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~ 

ツヅラ

文字の大きさ
28 / 67
7話 必要な嘘

03

しおりを挟む
 S08は、医務室の部屋の外で、ひとり座っていた。
 自分が中でできることはないし、何かをするつもりもない。なら、邪魔なだけだと、P03の気が済むのを外で待っていた。

「…………」

 否応なしに周囲の音を拾う鼓膜を、少しだけ煩わしそうに抑えると、沸き立つように聞こえてきた喜びの声。
 そっと囲っていた手を開けば、聞き慣れた声と騒がしい声が何度か会話を繰り返した後、慌ただしく足音が近づいてくる。

「誰かいるか!?」
「はい? なんですか。騒がしくしないでください」

 杉原が何事かと部屋から顔を出せば、負傷した兵士たちを抱えた兵士たちに、慌てて処置室に運ぶように指を差す。

「どうして、彼らが?」

 負傷した兵士たちを、運び込む時、杉原だけではなく、その場にいた医療部隊の隊員たちも不思議な表情をしていた。
 彼らは、変異種に襲われ、救出を諦められた部隊の兵士たちだった。

「帰ってきたんだよ! 自力で! がんばって!」

 無駄に大きな声と、若干引きつった声色で、語彙力の欠片もない言葉と共に、医官である杉原の肩を掴む兵士に、杉原は驚くほど冷たい視線を送る。
 しかし、長いため息と共に必死で残念な言い訳を続ける兵士の腕を引き剥がすと、処置室に向かった。

「よっしっ! 納得してくれた!!」
「どう見てもしてなかっただろ。バカなのか。こいつ」
「うるせぇ! 大人には建前っていうのがあるんだよ!」
「そうだそうだ! よくわかんないけど、うまくいったならいいじゃん!」
「はぁ……バカにお気楽、脳筋と来たか。花と会話してた方がマシだな」
「あ゛?」

 O12の言葉に、G45もいつものように掴みかかりそうになるが、部屋から顔を出してふたりに目をやるP03に、前屈みになっていた姿勢を戻す。

「P! ただいま!」
「おか、えり……?」

 G45の言葉に、O12が一瞬目を見開き、G45へ視線をやるが、すぐに諦めたように視線を逸らした。
 負傷した兵士たちを連れてきた彼らまでも、慌てたように周囲に目をやっている様子に、少なくともふたりが先程まで畑仕事を手伝っていたとは思えなかった。

「聞いてよ! SもTも、全然ついてきてくれなくてさぁ! 俺、探し物は苦手だって言ってんのに!」

 だが、周りの慌てる容姿に気が付かず、G45は言葉を続ける。
 その様子に、O12は長いため息をつきながら、頭に手をやった。

「バカにも程があんだろ……」
「おまっ……まだ文句言うつもりかよ!」
「ここでそれ言う奴がいるかよ。俺たちは、本当は牧野がいなきゃ、あの部屋から出ちゃいけねぇんだろーが」
「…………」

 O12の言葉に、ようやく意味を理解したらしく、G45は慌てたように処置室の方へ目をやるが、忙しそうな声だけが響いてくる。
 彼らの居場所を把握をしていなかったP03も、この反応では、さすがにG45とO12が、運び込まれた負傷した兵士たちを救助に向かっていたということは察してしまった。

 O12の言う通り、ヴェノリュシオンたちの行動は、牧野ありきのものだ。G45が部屋の外にいる時は、常に場所を把握されていたし、誰かの目が必ずあった。
 だが、今回は、牧野が把握していない上に、P03がひとりで部屋の外を出歩いたどころではなく、駐屯地から勝手に出ていたとなれば、牧野は怒るだろう。

「で、でもさ、マキノさんだって、助けに行こうとしてたじゃん。オッサンにダメって言われただけでさ」

 牧野だって、久留米に止められるまでは、救助に賛成していたはずだ。実際、G45たちがいなければ、危険だった兵士もいた。悪いことをしたわけじゃない。

「お、怒られるかな……」

 しおらしく顔を俯かせるG45に、O12は呆れたように明後日の方向に視線をやっていた。

「今更かよ」
「なんだよ。てか、わかってたのに、お前ついてきたの? …………どうしたんだよ」

 普段なら、人が失敗したり、怒られたりするのを、離れたところからニヤニヤと見てるのが、O12だ。
 顔を逸らしていたO12の何か言いたげな表情は、G45には見えなかったが、振り返ったO12の表情は、よく知っているG45をバカにする顔だった。

「牧野の慌てる顔が見足りなかったからな」
「うわ……サイテー」

 言葉を漏らしたのは、G45だけだったが、周りの兵士も同じことを思っていた。
 しかし、G45に首根っこを掴まれ、強制的に森の中に連行されていったことをしているS08は、ついP03へ視線をやってしまう。

「…………どっちも本心」

 先程の何とも言えない表情も、先程の言葉も、どちらも本心であるO12に、P03は困ったように笑みをこぼした。
 素直じゃないにも程がある。ある意味、素直とも言えるが。

「S?」

 苦笑するP03から視線をG45たちへ戻すS08の、初めて見る感情に、つい目を瞬かせてしまう。
 そして、小さく目尻を下げた。

 そのP03の微笑みに気が付いたのか、S08が少しだけ目を見開くと、睨むようにP03へ目をやったが、その直後だ。
 小さな爆発音が駐屯地に響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...