【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~ 

ツヅラ

文字の大きさ
41 / 67
10話 水面下

01

しおりを挟む
 橋口は、口元に浮かべた笑顔はそのままに、彼らが資料を読み終えるのを待っていた。
 立涌中尉の障害から、ヴェノリュシオンの存在は上層部へ一気に広まった。

 とある国から始まった”アポリュオン”ウイルスのパンデミック。
 既存の生物の遺伝子を変異させる凶悪なウイルス。
 一時は、感染力が強い株もあり、人間が感染することも少なくなかった。毒性は、様々で体が大きく変異するものから、感染に気付かないようなものまで存在した。
 人間に感染するとなれば、無論、感染対策が取られる。
 特に、未知のウイルスならば、取れる感染対策は単純。隔離だ。

「弱毒性のアポリュオンを用いた遺伝子組み換え……ウイルスの回収はこれで全てか? セーフ区画内に撒かれた可能性は?」
「0ではありません。ただ限りなく低いと考えています」

 未知のウイルスに対して、隔離は有効な手段だが、ウイルスの繁殖できる生物が大量に存在する地表を明け渡した時点で、時間が解決することはなくなる。
 そうなれば、次に行わなければならないことは、そのウイルスについて知り、対策を考えること。

 各国が協力し、ウイルスについて研究を行った結果、人類は首の皮一枚繋がり、以前の形を変異させず生き残っている。
 その努力は、違法か合法かは別として、今でも世界中で続けられている。おかげで、この人類の危うい生命線は保たれていた。
 新人類、つまり、ヴェノリュシオンたちの研究もその人類の生存のために、大切な資料に他ならない。
 余すことなく、糧にしなければいけない。

「受精卵にアポリュオンを感染させることで、遺伝子変異を起こす。これは、哺乳類が胎児へ成長した段階で、二次感染を起こさないエビデンスを持っている、比較的安全な研究です」
「それはあくまで管理下に置いての話だ。アポリュオンの脅威は、その変異の速さだ。ヴェノリュシオンたちは、知識を持ち合わせていない人間の子供というより、人間に飼われた犬猫に近い存在なのだろう? ウイルス標本そのものを破損していた場合は?」
「……近くにウイルスが繁殖可能な分化速度の遅い宿主がありません」

 アポリュオンは、他のウイルス同様、ウイルス単独で増えることはできない。他の細胞の増殖に相乗りする形で増殖する。
 それが結果として、生物の変異を起こすことになる。
 弱毒アポリュオンを用いた故意の遺伝子操作は、人の細胞が新しく作り直される速度とウイルスの増殖速度の違いを用いることで、最終的にウイルスは自身の免疫機能によって排除される。結果、出来上がるのは、ウイルス本体は存在しない遺伝子変異を起こした肉体となる。

「それは生きた生物の話だろう。以前にもあっただろう。研究所内のネズミの死体に感染して、パンデミックを起こしたという事件だ」

 研究所の研究者たちは、誰一人として逮捕されていない。
 ヴェノリュシオンたちによって、緊急警報装置が起動している記録などから、殺害されたのだろうと考察されている。

「はい。存じています。その上で、申し上げています。宿、と」

 あくまで、状況証拠からの推測だ。
 ひとつ、本来いるはずの研究者たちが誰一人として逮捕されず、死体が発見されていないために、殺害されたのだろうという考察しかできていない事実。
 ふたつ、ヴェノリュシオンたちは調理を知らず、狩猟する際に無毒であるなら、生肉で食すという事実。
 みっつ、彼らの食事量と研究所襲撃から保護までの期間。

 これらを総合的に判断した結果、彼らは”研究所にいた人間しょくりょうを全て食している”可能性が出てくる。

「人間を……?」

 骨まで残らず、全て食らい尽くしている。
 その事実に、その場にいた男たちは、表情を強張らせた。

「先程おっしゃっていたではありませんか。ヴェノリュシオンたちは、人間に飼われた犬猫に近いと。犬猫がやせ衰える中、元飼い主だからと目の前にある手軽に入れられる食料をみすみす腐らせますか?」

 淡々と告げる橋口に、彼らは言葉を詰まらせるが、誰かが小さく息を吐き出すとともに言葉を発する。

「おぞましいな……」
「やはり、殺処分にすべきではないか?」

 臭い物には蓋をする。
 人類に手が及ぶものであるなら、先に排除してしまう。前例の多い、単純な回答だ。

「それをお待ち頂きたい」

 単純で簡単な回答には人が集まる。だからこそ、それを止めた久留米には、視線が集まった。

「久留米少尉。まだ何かあると?」
「はい。先程、ヴェノリュシオンたちを犬猫と同じとおっしゃいました。それは事実です。ですが、それは訓練されていないからです。幸い、彼らに言葉は通じます。事実、一名の監督下で狩猟を行わせたところ、食糧問題は大きく改善しています」
「つまり、訓練次第では、使えるようになると?」
「自分はそのように考えています」

 危険ではないかと、眉を潜める人間はいた。だが、手元にある資料には、食糧問題、変異種の討伐、遭難した隊員の救助と、彼らのこれまでの実績が記載されている。
 しかも、彼らに対する追加でかかったコストは、ほぼなし。

「首輪はしっかり絞めておけよ」
「承知致しました」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...