【完結】ヴェノリュシオン ~ 違法研究所を摘発したら、実験体にされていた遺伝子組み換えされた子供を育てることになりました ~ 

ツヅラ

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10話 水面下

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 橋口は、数日ぶりに駐屯地へ戻ってくると、扉が外されたままの部屋を覗き込んでいた。

「あらま……みんな、まだ戻ってきてないのね」

 中はすっかり片付けられており、もちろん元の住人であるヴェノリュシオンたちもいない。

「橋口さん? もう戻ってきたんですか!?」

 驚いた声に視線をやれば、研究部隊のひとりが驚いたように橋口を見ていた。

「今回って、イエローですけど、居住区内での会議でしたよね!? テキトーな理由つけて、遊んできたらいいのに! もったいない!!」

 居住区内に入るには、外部から危険なウイルスを持ち込まないため、検査をする必要がある。
 検査の結果が出るまでの間は、居住区内でも”イエロー”と呼ばれる隔離区画で待機する必要がある。
 それらの検査とイエロー内で一定の隔離期間を経て、問題なしと判断されれば、”グリーン”と呼ばれる完全に管理された居住区に入ることができる。つまり、一度外部と接触してしまうと、再度中に入るには、時間がかかる。久留米が、今回の襲撃を受けて、滞在期間を伸ばしたのは、これらの理由が大きい。

 居住区の外で働く人間が、居住区内に入ることのできる機会は、正直ほとんどない。
 自衛隊の中枢の大部分が居住区内のため、久留米などの士官になれば、入る機会も多いが、彼女の歳では少ないだろう。

「私としては、こっちで研究していた方が楽しいけど」
「えぇ……確かに、今の題材がおもしろいことは認めますけど、やるならイエローでいいから、居住区内がいいです。というか、今回の研究が認められて、中で本格的に研究を進めるとかないですかね!?」
「イグも取れないんじゃないかしら? 政治的に」
「わぁ……どうにもならないやつ……」

 そもそも、研究内容が危険だと判断すれば、居住区内での研究許可は出ない。
 現在、橋口たち研究部隊が、メインに研究しているのは”ヴェノリュシオン”のことだ。
 彼らの能力を調べるならば、彼らの住処で、拠点のこの駐屯地は絶好の観測場所だし、再現性を調べるならば、感染性などの問題から、許可は絶対に降りない。

「橋口さんって、元々中の研究員だったんですよね? 中に知り合いとかいないですか? 紹介してくださいよ……紹介なしで外出身が、中の企業に乗り込むの絶望的なんですよ」
「いないことはないけど、と未だに連絡取るような人だけど、いい?」
「あ゛、やっぱやめときます」

 杉原のような、医者同士の権力争いに負けて追い出されたわけではなく、橋口は『変異種の研究を満足にできないから』という理由で、居住区内の研究所から望んで外に出た。
 そんな人間と未だに連絡を取るような相手だ。同じタイプの確率が高い。

 露骨に肩を落とす彼女と共に、研究室に戻る。この数日で、劇的に何かが起きたり、発見があったわけではないようだ。

「どうなりました?」

 資料を最後まで手伝ってくれた一人に声をかけられる。
 今回の会議は、研究の元となる”ヴェノリュシオン”の存在そのものが存在してよいものかを判断するもの。
 もし、”不可”と判断されれば、この研究室の全ての研究を終了せざるおえなくなる。
 さすがに、作業をしていた続けていた隊員たちも、橋口の言葉を待つように、目を向けていた。

「ヴェノリュシオンの研究は、生かしたまま継続。議題に上がったのは、ヴェノリュシオン作成時のウイルスのストックの存在と、ヴェノリュシオンたちからの二次感染について」

 出てくる質問は、おおよそ予想通りだった。
 故に、久留米は先んじて、目ぼしい上官たちに根回しをしていた。

「クリーン室内の人たちは気難しいわね……久留米少尉は本当に凄いと思うわ。あんなの、正直相手にする気しないもの」
「まぁ、すごいとは思いますが、橋口さんは少し根回しっていうのを覚えてくださいよ」
「ちゃんとやってるわよ。だいたい、資料を読めば、普通わかるでしょ? それを読まない上に、今までの知識から発想できる想像力もないって人間をどうしろと?」

 苦労して提出したレポートは、そのほとんどを読まれることはない。
 特に、今回のように、マイナスの印象が多い案件では、レポートを読ませるより読み聞かせることで、印象を操作する必要があった。
 その点、久留米は本当にうまかった。

「でも、もしですよ? に気付いたら、結構マズくないですか?」

 根回しによって、会議は乗り越えたが、強硬手段を取った人間がいるということは、あの場にいた全員が納得したわけではないということの証明だ。

「でも、避けることもできないし、事実である以上、書かないわけにもいかないだろ」

 そのほとんどを読まれず、捨てられるレポート。
 だが、それを読み込み、精査する人間がいることは事実。そして、それはヴェノリュシオンたちに肯定的、否定的、後者の方が圧倒的な比率となる。

 故に、嘘は書けない。
 嘘を書けば、彼らに明確な弱みを見せてしまうことになるから。
 ただ、事実を、印象を操作する目的を持って記載する。
 データと事実だけを抜き出し、精査したのなら、とある事実が浮き彫りになることだろう。
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