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10話 水面下
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ふと鼻についた匂いに、顔を掛け布団から出せば、よりはっきりする匂い。
「……」
しばらく何か考えるように、目を閉じたまま鼻に意識を集中するT19だったが、もぞもぞと体を起こすと、テントから頭だけを出した。
「おわっ……!? T……お前なぁ」
足元に突然現れたT19の頭に、また嫌がらせかと牧野がため息をつけば、意外にもその顔は笑うわけでもなく、眠そうだった。
T19が交代して睡眠をとってから、まだ3時間ほど。眠いのだろう。
「俺をビビらせても何も面白くないだろ……」
睡眠時間を削ってまで、自分へちょっかいを出したい理由はわからない。
執拗な性格ではあるが、同時に自己本位な性格でもある。
眠いならば、睡眠を優先するタイプのはずだ。
何か伝えたいことでもあるのだろうか。
「Pが怪我してる……じゃ」
「は……?」
牧野が言葉を理解するよりも早く、それだけ言い残すとT19はテントの中に、頭をひっこめた。
「…………」
ようやくT19の言葉を理解すると、牧野はガリガリと頭をかき、奥で作業するP03へ声をかけた。
「これでよし。怪我したら、ちゃんと言えよ?」
他のヴェノリュシオンに比べて、体の弱いP03は、楸が持ってきた不揃いの装備のほぼ全ての防具を身に着けていた。
彼女の意思というより、他の4人に押し付けられたような形だったが、こうして体が露出している腕部分に少量とはいえ、出血する傷ができているのだから、彼らの判断は正しかったのだろう。
「小さな傷だって、ばい菌が入ったら膿むからな」
「うむ?」
「えーっと……傷口でばい菌が増えて、体が治ろうとするのを防いじゃうことかな? すごく痛いし、傷の治りも遅くなる」
だから、傷口は清潔にして、ガーゼなどで保護するのだと、説明すれば、じっと包帯を巻かれた腕を見つめるP03。
治癒能力について聞かれた際には、よくわからないと答えていたし、P03の知識の元は、あの頑丈な4人だ。怪我や病気についての基礎的な応急処置などは、知らない可能性がある。
「じゃあ、ばい菌に勝てばいいの?」
「まぁ、そうだな。こうしてきれいにしてれば、普通は勝てるから大丈夫だぞ」
どこか話の噛み合ってない違和感があった。
「マキノ?」
「あ、いや、Pは自分の体は治せないのか?」
P03の能力は、実体験も含めて知っているし、他人へ使うこともあった。
だが、自分へ使っているのを見たことはない。今まで、P03が怪我をすることが無かったが、先程も手当をしていなかったのは、自分へあの能力は使えないということだからだろうか。
「えっと……うん。よくわからなくて」
「よくわからない?」
「他の人ならわかるんだけど、自分はよくわからなくて」
その感覚が分からないわけではない。
自分のことは、大人だって客観視できる人は少ない。特にP03の能力は、他の人間と感覚を共有するものもある。尚更、自分の感覚というものが曖昧なのかもしれない。
自分というものがわからなければ、結果的に感覚に頼っている能力の対象にはしにくいということだろう。
「あ、でも、ばい菌に勝つのはできそう!」
「どういうこと?」
いきなりすぎる会話についていけないでいれば、P03の自信満々な表情。
「動きを止めればいいんでしょ?」
「待った。もしかして、細菌とも感覚共有できるのか?」
ぞわりとした背筋に走った悪寒。
これは、研究部隊のヴェノリュシオンの研究課題のひとつ。
P03の感覚共有範囲の特定。
今のところ、ヴェノリュシオンたち4人を含め、彼らの聴取から、他の実験体についても同様に感覚共有をされていたと考えられる。
他には、不特定多数の兵士たち。
人間や動物は、感覚共有の有効範囲と考えられていたが、もし細菌まで入るとしたら、P03の能力は、本当に計り知れないものになりかねない。
「よくわからないけど、この辺をピタッと止めればいいんでしょ?」
「…………止められるの?」
「うん」
橋口を含めた研究部隊からは、もしヴェノリュシオンに関する新たな情報、特にP03の能力について新しい情報があれば、すぐに報告を入れてほしいと言われている。
今回の件も、あとで報告を上げておかなければいけないだろう。
「無理はするなよ」
頷くP03の頭を撫でれば、夜間に使う薪の用意を進めていた楸の元へ向かう。
「だぁからぁ!! ヘリクツばっか言ってると、マジで遠征に出されるぞ!?」
「ハッ出せるもんなら出してみろよ」
「自分の立場理解しているガキのヘリクツ程、頭にくるもんネーな……」
どうやらこちらは、O12と口喧嘩中らしい。
O12とT19は、口が回るというか、人に対する悪意を隠すつもりがないからか、隊員たちと揉めることが多い。
「あ、軍曹! こいつ、遠征送りにしません!?」
「しません。ここの許可だって、少尉曰く大変だったらしいんだ。本格的な遠征はまだ無理に決まってんだろ。あと、Oは外にいる時に、仲間に喧嘩売らない」
「そうだそうだ! 喧嘩売るなら、かわいげを出しやがれ!」
そういう問題じゃねぇと注意したかったが、O12すらも呆れたように楸を見ていた。
「かわいげのない男なんてモテないだからな! やーい! 喪男!」
「…………O。薪で一発殴ることを許可する」
関係ないけど、ちょっとイラっとした。
「横な」
「縦は」
「死んじゃうでしょ」
あくまで、P03が容易に治せる範囲だ。
「……」
しばらく何か考えるように、目を閉じたまま鼻に意識を集中するT19だったが、もぞもぞと体を起こすと、テントから頭だけを出した。
「おわっ……!? T……お前なぁ」
足元に突然現れたT19の頭に、また嫌がらせかと牧野がため息をつけば、意外にもその顔は笑うわけでもなく、眠そうだった。
T19が交代して睡眠をとってから、まだ3時間ほど。眠いのだろう。
「俺をビビらせても何も面白くないだろ……」
睡眠時間を削ってまで、自分へちょっかいを出したい理由はわからない。
執拗な性格ではあるが、同時に自己本位な性格でもある。
眠いならば、睡眠を優先するタイプのはずだ。
何か伝えたいことでもあるのだろうか。
「Pが怪我してる……じゃ」
「は……?」
牧野が言葉を理解するよりも早く、それだけ言い残すとT19はテントの中に、頭をひっこめた。
「…………」
ようやくT19の言葉を理解すると、牧野はガリガリと頭をかき、奥で作業するP03へ声をかけた。
「これでよし。怪我したら、ちゃんと言えよ?」
他のヴェノリュシオンに比べて、体の弱いP03は、楸が持ってきた不揃いの装備のほぼ全ての防具を身に着けていた。
彼女の意思というより、他の4人に押し付けられたような形だったが、こうして体が露出している腕部分に少量とはいえ、出血する傷ができているのだから、彼らの判断は正しかったのだろう。
「小さな傷だって、ばい菌が入ったら膿むからな」
「うむ?」
「えーっと……傷口でばい菌が増えて、体が治ろうとするのを防いじゃうことかな? すごく痛いし、傷の治りも遅くなる」
だから、傷口は清潔にして、ガーゼなどで保護するのだと、説明すれば、じっと包帯を巻かれた腕を見つめるP03。
治癒能力について聞かれた際には、よくわからないと答えていたし、P03の知識の元は、あの頑丈な4人だ。怪我や病気についての基礎的な応急処置などは、知らない可能性がある。
「じゃあ、ばい菌に勝てばいいの?」
「まぁ、そうだな。こうしてきれいにしてれば、普通は勝てるから大丈夫だぞ」
どこか話の噛み合ってない違和感があった。
「マキノ?」
「あ、いや、Pは自分の体は治せないのか?」
P03の能力は、実体験も含めて知っているし、他人へ使うこともあった。
だが、自分へ使っているのを見たことはない。今まで、P03が怪我をすることが無かったが、先程も手当をしていなかったのは、自分へあの能力は使えないということだからだろうか。
「えっと……うん。よくわからなくて」
「よくわからない?」
「他の人ならわかるんだけど、自分はよくわからなくて」
その感覚が分からないわけではない。
自分のことは、大人だって客観視できる人は少ない。特にP03の能力は、他の人間と感覚を共有するものもある。尚更、自分の感覚というものが曖昧なのかもしれない。
自分というものがわからなければ、結果的に感覚に頼っている能力の対象にはしにくいということだろう。
「あ、でも、ばい菌に勝つのはできそう!」
「どういうこと?」
いきなりすぎる会話についていけないでいれば、P03の自信満々な表情。
「動きを止めればいいんでしょ?」
「待った。もしかして、細菌とも感覚共有できるのか?」
ぞわりとした背筋に走った悪寒。
これは、研究部隊のヴェノリュシオンの研究課題のひとつ。
P03の感覚共有範囲の特定。
今のところ、ヴェノリュシオンたち4人を含め、彼らの聴取から、他の実験体についても同様に感覚共有をされていたと考えられる。
他には、不特定多数の兵士たち。
人間や動物は、感覚共有の有効範囲と考えられていたが、もし細菌まで入るとしたら、P03の能力は、本当に計り知れないものになりかねない。
「よくわからないけど、この辺をピタッと止めればいいんでしょ?」
「…………止められるの?」
「うん」
橋口を含めた研究部隊からは、もしヴェノリュシオンに関する新たな情報、特にP03の能力について新しい情報があれば、すぐに報告を入れてほしいと言われている。
今回の件も、あとで報告を上げておかなければいけないだろう。
「無理はするなよ」
頷くP03の頭を撫でれば、夜間に使う薪の用意を進めていた楸の元へ向かう。
「だぁからぁ!! ヘリクツばっか言ってると、マジで遠征に出されるぞ!?」
「ハッ出せるもんなら出してみろよ」
「自分の立場理解しているガキのヘリクツ程、頭にくるもんネーな……」
どうやらこちらは、O12と口喧嘩中らしい。
O12とT19は、口が回るというか、人に対する悪意を隠すつもりがないからか、隊員たちと揉めることが多い。
「あ、軍曹! こいつ、遠征送りにしません!?」
「しません。ここの許可だって、少尉曰く大変だったらしいんだ。本格的な遠征はまだ無理に決まってんだろ。あと、Oは外にいる時に、仲間に喧嘩売らない」
「そうだそうだ! 喧嘩売るなら、かわいげを出しやがれ!」
そういう問題じゃねぇと注意したかったが、O12すらも呆れたように楸を見ていた。
「かわいげのない男なんてモテないだからな! やーい! 喪男!」
「…………O。薪で一発殴ることを許可する」
関係ないけど、ちょっとイラっとした。
「横な」
「縦は」
「死んじゃうでしょ」
あくまで、P03が容易に治せる範囲だ。
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