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12話 潜入
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勢いに任せて、遠足帰りと偽り、施設内部に潜入はできたが、案内してくれる警備員の目は険しい。
ある意味、あの中尉がいてくれた方が、扱いやすかった気もするが、それはそれで動きにくいのも確かだ。
「いやぁ、久々に消臭剤の匂いがするトイレに入れました。感謝します」
「……いえ、お役に立てたならよかった。アウトサイドで仕事をされていたんですか?」
「はい。今回は、長野方面のダム整備でして」
遠足マニアと呼ばれるだけある、アウトサイドの遠征記憶から、話せる内容を滞りなく語り出す楸に、疑いの目を向けていた警備員の目も徐々に柔らかくなっていく。
「ここより危険でしょうに、どうして志願を?」
「備蓄庫から酒をちょっと拝借したら、酒税を少々取られました」
「はは……それは高くつきましたね」
お調子者と呼ばれるタイプの人間が、人の輪に入りやすいように、潜在的に皆が持っているちょっとした欲求に従い結果、失敗した人に人は安心感を持つ。
恥もプライドもない楸にとって、それは有効な生存政略で、その時々の勝ち馬に乗り、時には自分以外を見捨てて、生き残ってきた。
「あれ? 出口ってこっちでは?」
「……認可番号は、もうよろしいのですか?」
困ったように眉を下げて確認する警備員に、楸もつい声を漏らしてしまった。
先程の中尉との会話で、認可番号については、建前だと彼も知っているだろうが、建前であっても確認する必要はあるのだろう。
戻るのが遅いと、外で待機しているヴェノリュシオンたちが、痺れを切らしかねないが、ここで断って帰るのも、不審に取られかねない。
「そうでした! いやー本題の事をすっかり忘れていました!」
適当に話を合わせて、ついでにP03の手がかりでもないかと施設内部を見て回る。
「それにしても、ここ、民間の施設ですか? 貴方も、民間の方っぽいし」
「よくわかりましたね」
「軍の連中は、みーんな、強面ばっかで怖いんっすよ」
調子のいい話をしながら、案内された部屋は、殺風景な場所で、特徴といえば縁のない大きな鏡があるくらいだが、少なくとも応接室には見えなかった。
「すみません。休憩室しか、空いてなくてですね」
「いえ。こちらこそ、急な来訪でしたので」
もう少し時間がかかりそうだからと、備え付けられていたウォーターサーバーのような場所から水を入れると、楸に差し出す。
なにか異臭がするわけでも、色がおかしいわけでもない。コップの白い底が見える程、透き通った水だ。
だが、心のどこかで警鐘が鳴り続けていた。
「…………」
嫌な予感というものは、嫌というほどよく当たる。
危険な時ほど、自分の悪い頭より、直感は頼りになる。
「飲まれないのですか? アウトサイドでは、水も貴重だったのでしょう?」
「あー、またトイレに行きたくなっても困りますし、なにより早く戻らないと、怖い部隊長に怒られます。時間が掛かるなら、いいですよ」
この、隣から誰かに観察されていそうな部屋から逃げろと、直感が告げていた。
決めた瞬間、楸の動きは速かった。
警備員から後ろ足に距離を取ると、背中がドアに触れるのと同時に、ノブを回し、部屋の外へ駆け出した。
直後、警報音が響き出した。
「クッソ……! やっぱかよ!!」
悪態をつくが、外へ繋がる道は覚えている。
銃を引き抜き、一直線へ出口へ走る楸の耳に、警報の間を縫って聞こえるアナウンス。
『区画B-1において、実験生物の脱走を確認しました。これより、緊急処置を行います。同区画にいる職員は、速やかに酸素マスクの着用を願います』
緊急処置。
研究に全く詳しくない楸には、それがいったい何かはわからないが、酸素マスクの着用をアナウンスされるくらいだ。
ろくなものではない。
「うっそだろぉ!?」
目につくドアのノブを回してみるが、開かない。
『ガス散布まで、10秒前』
無慈悲なカウントダウンが始まり、ゼロになる。
ガスが回るまでの、少しの時間、楸は諦めず、どこかに何かないかと探し続けるが、徐々に酩酊していく意識に、ついに悪態をつきながら床に倒れるのだった。
*****
居住区外の研究所には、必ず研究所内で行われた実験生物やウイルスが外へ排出されないように、緊急処理をするための設備が必ず供えられている。
内容は、その研究内容によるが、その警報音はすべて同じものを使われており、周囲の人間がすぐに危険であることを知れるようになっている。
外で待機していたヴェノリュシオンたちが、その音を聞くのは、二度目だった。
「だァァアアッから言ったじゃん!!」
「特に動きなし。バレただけじゃないか?」
「マジで役立たずじゃん。うけるー」
「はぁ……」
G45が怒りに任せ叫び、O12は冷静に研究所の建物から逃げる人の様子を確認し、T19は予想通りだとばかりに笑い、S08は怒気をはらんだため息をついた。
だが、そこからの行動は四人共素早かった。
地面を抉り、駆け出した四人は、途中の柵を軽々と飛び越えると、警報が鳴り響く研究所の正面玄関へ向かって走った。
「G。ちょっと上狙ってよ」
「ア゛!?」
「どーせ蹴り破るんだから、いいでしょ」
T19の理解できない指示に、一番前を走るG45は眉を潜めるが、迫る扉に、とりあえず言われた通り、少し上の方を殴り破った。
G45が跳んだ直後、後ろを走っていたT19は、走るスピードを抑え、S08へ道を譲る。
「じゃあ、よろしく~」
G45の怪力によって、拉げた扉は、倒れ込むように上部と下部で、時間差を作りながら倒れる。
本来外れない方向へ力が掛かった扉は、反動で下部が床から少し浮き上がった。
「…………」
その小さな隙間に、S08は足を突っ込むと、扉を蹴り上げた。
「へっ!?」
殴り破った勢いで、中へ侵入しようとしていたG45は、突然せり上がってきた足元に、驚いて振り返れば、腹の立つ笑みを向けるT19と目の据わったS08。それから、表情を強張らせているO12の姿。
「ちょっ、なにす――――」
「掴んどけ」
低く聞こえた言葉に、G45は反射的に、蹴り破った扉の縁を力いっぱい掴んだ。
直後、S08は全力で蹴り上げられた扉の縁を殴った。
ある意味、あの中尉がいてくれた方が、扱いやすかった気もするが、それはそれで動きにくいのも確かだ。
「いやぁ、久々に消臭剤の匂いがするトイレに入れました。感謝します」
「……いえ、お役に立てたならよかった。アウトサイドで仕事をされていたんですか?」
「はい。今回は、長野方面のダム整備でして」
遠足マニアと呼ばれるだけある、アウトサイドの遠征記憶から、話せる内容を滞りなく語り出す楸に、疑いの目を向けていた警備員の目も徐々に柔らかくなっていく。
「ここより危険でしょうに、どうして志願を?」
「備蓄庫から酒をちょっと拝借したら、酒税を少々取られました」
「はは……それは高くつきましたね」
お調子者と呼ばれるタイプの人間が、人の輪に入りやすいように、潜在的に皆が持っているちょっとした欲求に従い結果、失敗した人に人は安心感を持つ。
恥もプライドもない楸にとって、それは有効な生存政略で、その時々の勝ち馬に乗り、時には自分以外を見捨てて、生き残ってきた。
「あれ? 出口ってこっちでは?」
「……認可番号は、もうよろしいのですか?」
困ったように眉を下げて確認する警備員に、楸もつい声を漏らしてしまった。
先程の中尉との会話で、認可番号については、建前だと彼も知っているだろうが、建前であっても確認する必要はあるのだろう。
戻るのが遅いと、外で待機しているヴェノリュシオンたちが、痺れを切らしかねないが、ここで断って帰るのも、不審に取られかねない。
「そうでした! いやー本題の事をすっかり忘れていました!」
適当に話を合わせて、ついでにP03の手がかりでもないかと施設内部を見て回る。
「それにしても、ここ、民間の施設ですか? 貴方も、民間の方っぽいし」
「よくわかりましたね」
「軍の連中は、みーんな、強面ばっかで怖いんっすよ」
調子のいい話をしながら、案内された部屋は、殺風景な場所で、特徴といえば縁のない大きな鏡があるくらいだが、少なくとも応接室には見えなかった。
「すみません。休憩室しか、空いてなくてですね」
「いえ。こちらこそ、急な来訪でしたので」
もう少し時間がかかりそうだからと、備え付けられていたウォーターサーバーのような場所から水を入れると、楸に差し出す。
なにか異臭がするわけでも、色がおかしいわけでもない。コップの白い底が見える程、透き通った水だ。
だが、心のどこかで警鐘が鳴り続けていた。
「…………」
嫌な予感というものは、嫌というほどよく当たる。
危険な時ほど、自分の悪い頭より、直感は頼りになる。
「飲まれないのですか? アウトサイドでは、水も貴重だったのでしょう?」
「あー、またトイレに行きたくなっても困りますし、なにより早く戻らないと、怖い部隊長に怒られます。時間が掛かるなら、いいですよ」
この、隣から誰かに観察されていそうな部屋から逃げろと、直感が告げていた。
決めた瞬間、楸の動きは速かった。
警備員から後ろ足に距離を取ると、背中がドアに触れるのと同時に、ノブを回し、部屋の外へ駆け出した。
直後、警報音が響き出した。
「クッソ……! やっぱかよ!!」
悪態をつくが、外へ繋がる道は覚えている。
銃を引き抜き、一直線へ出口へ走る楸の耳に、警報の間を縫って聞こえるアナウンス。
『区画B-1において、実験生物の脱走を確認しました。これより、緊急処置を行います。同区画にいる職員は、速やかに酸素マスクの着用を願います』
緊急処置。
研究に全く詳しくない楸には、それがいったい何かはわからないが、酸素マスクの着用をアナウンスされるくらいだ。
ろくなものではない。
「うっそだろぉ!?」
目につくドアのノブを回してみるが、開かない。
『ガス散布まで、10秒前』
無慈悲なカウントダウンが始まり、ゼロになる。
ガスが回るまでの、少しの時間、楸は諦めず、どこかに何かないかと探し続けるが、徐々に酩酊していく意識に、ついに悪態をつきながら床に倒れるのだった。
*****
居住区外の研究所には、必ず研究所内で行われた実験生物やウイルスが外へ排出されないように、緊急処理をするための設備が必ず供えられている。
内容は、その研究内容によるが、その警報音はすべて同じものを使われており、周囲の人間がすぐに危険であることを知れるようになっている。
外で待機していたヴェノリュシオンたちが、その音を聞くのは、二度目だった。
「だァァアアッから言ったじゃん!!」
「特に動きなし。バレただけじゃないか?」
「マジで役立たずじゃん。うけるー」
「はぁ……」
G45が怒りに任せ叫び、O12は冷静に研究所の建物から逃げる人の様子を確認し、T19は予想通りだとばかりに笑い、S08は怒気をはらんだため息をついた。
だが、そこからの行動は四人共素早かった。
地面を抉り、駆け出した四人は、途中の柵を軽々と飛び越えると、警報が鳴り響く研究所の正面玄関へ向かって走った。
「G。ちょっと上狙ってよ」
「ア゛!?」
「どーせ蹴り破るんだから、いいでしょ」
T19の理解できない指示に、一番前を走るG45は眉を潜めるが、迫る扉に、とりあえず言われた通り、少し上の方を殴り破った。
G45が跳んだ直後、後ろを走っていたT19は、走るスピードを抑え、S08へ道を譲る。
「じゃあ、よろしく~」
G45の怪力によって、拉げた扉は、倒れ込むように上部と下部で、時間差を作りながら倒れる。
本来外れない方向へ力が掛かった扉は、反動で下部が床から少し浮き上がった。
「…………」
その小さな隙間に、S08は足を突っ込むと、扉を蹴り上げた。
「へっ!?」
殴り破った勢いで、中へ侵入しようとしていたG45は、突然せり上がってきた足元に、驚いて振り返れば、腹の立つ笑みを向けるT19と目の据わったS08。それから、表情を強張らせているO12の姿。
「ちょっ、なにす――――」
「掴んどけ」
低く聞こえた言葉に、G45は反射的に、蹴り破った扉の縁を力いっぱい掴んだ。
直後、S08は全力で蹴り上げられた扉の縁を殴った。
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